第13話 パーティ登録

 アレンと精霊獣カーバンクルのリル、そして、リエル、レトがダンジョンへ向かったのは、一日を買い物についやしたその日から二日後の事。


 その間、いったい何をしていたのか?


 一つは、もちろん修行。


「アレン様、――私をアレン様の弟子でしにして下さいッ!」


 リエルがそんな事を言い出したのは、一日を買い物に費やしたその日の夜、美味しい夕食をいただいた後の事だった。


 アレンは、自身が修行中の身である事、経験がとぼしい若輩じゃくはいである事を理由に断ったが、リエルはなかなか諦めてくれない。そこで、


「基礎体力がつき、基本の型と骨法こっぽう……霊力を併用した身体運用を身に付けるまで、向こう何年かは修行に専念してもらう事になるけど、それで良いの?」


 当然その間ダンジョンにもぐる事など許せない、と仮に弟子入りを認めた場合の話をすると、リエルはしばらくなやんでいたが、渋々しぶしぶといった感じで諦めた。


 そんな訳で、弟子入りこそ断ったものの、一つ屋根の下で暮らす家族として、共にダンジョンに潜る仲間として、力になるにやぶさかでない。


 そこで、助言を求められたなら、その都度アドバイスする事に。


「〝超えるべきは他者ではない。常に今の己だ〟――」


 それは、アレンがおさめた無限流の教えであり、剣のあつかいを覚えたい、と言うリエルに与えた最初の助言アドバイス


「――1本素振すぶりしたリエルは、素振りをしていないリエルより1本分強い。2本素振りしたら、1本しか素振りをしていないリエルより1本分強い。――つまり、振ったら振った分だけ強くなっていく。他人と自分を比べる必要などない。強くなりたいなら一意専心いちいせんしん振り続けろ」


 〔水操の短杖アクアワンド〕は使用者に重さを感じさせないため、修行には適さない。そこで、旅の道中、手慰てなぐさみに作った木刀が何本も【異空間収納】のやしになっていたので、一番軽いものをゆずり、立ち方、つかにぎり方から始まり、運足あしさばきと共に、中段に構え、振り上げ、振り下ろす、基本の素振りを指南しなんした。リエルはなかなか筋が良い。


 二人は新装備に慣れるため〔戦乙女の鎧ヴァルキリーアーマー〕一式を装備し、自分の日課をこなすアレンのかたわらで、レトは、戦闘妖精ヴァナディースとしての勘を取り戻そうと立った状態で瞑想――自然体で体内霊力制御オドコントロールの修行を始め、リエルは、教えられた通り呼吸を意識しつつ、途中で指摘されたところを直して気を付けながら、終了を告げられるまで文句一つ言わず延々と振り続けた。


 その結果、翌朝、リエルは全身が筋肉痛に。必死に平気なふりをしようとしていたがバレバレだった。


 それでも、遅れないよう自分で起きてきて、髪をアップポニーテールにしてやる気を見せていたので、ならばとあえてその事には触れず、朝食の準備はレトに任せて朝稽古を開始した。


 基礎的な呼吸法から入り、躰と意識をしっかり覚醒させてから準備体操で躰を温め、ストレッチで筋肉と関節を伸ばして柔らかくしてから素振りを始める。


 この素振りは、体内霊力制御の修行を兼ねているため、回数よりも、正しい呼吸、正しい型を意識して行ない、そうしている内に血行が良くなって筋肉痛が気にならなくなったらしいリエルと共に、その日はアレンも愛用の木刀を振り続けた。


 汗と共に時は流れ、頃合いを見計らってリエルに稽古を切り上げさせ、整理運動をしてから先にシャワーを浴びてくるよう伝える。すると案の定、あるじよりも先に入浴するなどとんでもないと言い出したが、主として命じて浴場へ向かわせ、それから型稽古を始めた。


 その後、アレンが朝稽古を終えたのは、いつもより遅い時間。だが、今日からはこれが〝いつもの時間〟になるんだろうな、とそんな事を考えつつ、所有地の見回りおさんぽから戻って待っていた小さな相棒リルと合流し、家に隣接する厩舎きゅうしゃで待機しているシグルーンの許へ。


 〔高機動重戦騎ドラグーン〕のシグルーンに騎乗して駆け回った後は、稽古後の朝風呂という至福の時をゆったりと過ごし、みんなで美味しい朝食を頂いて過不足のない休憩きゅうけいはさむ。


 そして、いよいよダンジョンへ――と思いきや、なんと、そうはならなかった。


 身支度を整えるなり、息急いきせき切ってダンジョンへ向かおうと言い出すだろうというアレンの予想に反し、リエルとレトは、二人で話し合って決めたらしい。本来自分達に求められていた仕事――炊事もしっかりやろう、と。


 アレンは厨房での仕事を任せるつもりでいたので、〔拠点核ホーム・コア〕を操作し、自身の【異空間収納】と同じく、時間の概念が存在しない収納用異空間――【食料貯蔵庫】を亜空間に設定し、リエルとレトにも使えるようにしてある。よって、厨房内で空中に人差し指で『L』を書くと、その動作で書いた場所に仮想画面ウィンドウが開き、そこから【食料貯蔵庫】の中を確認したり、品物を出し入れしたりする事ができる。


 そんな機能がある事を知っていたからこそ、そのまますぐ食卓に並べられる、または、あとは盛り付けて出すだけの料理を大量に作っておく、という方法を思いついたのだろう。


 平服姿でエプロンと三角巾を装備し、調理を開始する女の子達。アレンは手伝おうとしたのだが、自分達の仕事だからと厨房から追い出されてしまった。


 自分だけする事がなくなり、ダンジョンへ向かおうかとも考えたが、今日はパーティでのぞもうと思っていただけにどうも気が乗らない。そこで、リルと一緒におもてへ出て庭を眺めながら、さてどうしようかと思案し…………ふとした思いつきから、修行に適した環境を整える事に。


 具体的に何をしたかというと、まず、無闇に広い庭に、平坦な道、上り坂と下り坂アップ・ダウンが続く道、それに木々をけて進まなければならない森の道と、ランニングコースをとりあえず3本作った。


 次に、射撃場。これまでは自分が〔拠点核〕に命じて的を用意させていたが、厨房と同様の動作で仮想画面が投影され、そこにある項目を選択する事で、彼女達が自身でまとの種類や距離を設定して自主練習できるようにした。


 最後に、自分用の鍛錬場。限界を超えた鍛錬で肉体をいじめ抜くつもりなので、疲れ果てて立っている事すら億劫おっくうになる事が予想される。そこで、まずは既にある露店道場を家からもう少し離れた場所へ移す。そうしてできたスペースに、円形の結界をき、その内側の空間の重力を操作できるようにする。早速試してみて、2倍……3倍……と上げて行き、最終的に、鍛錬場の中央に立って起動すると、霊力で最大限に身体能力を強化した状態であれば何とか普通に動ける、8倍の重力が発生するように設定した。


 そんな感じで一日を過ごし、夜の稽古を行なって、翌日。


 スキル【再起】で全快した状態で目覚めたアレンは、いつも通り朝稽古――ではなく、その日は、相棒リルとリエル、レトをともなって、ラビュリントスここまでの旅の途中で通った、この大陸の東海岸で一番大きく漁業が盛んな港湾都市へ。


 その目的は、取れ立て新鮮な海の幸を手に入れる事。


 15歳まで絶海の孤島で生活していたアレンは、肉より魚を食べる事のほうが多かったので、休憩中に厨房をのぞいた時、楽しそうに料理をしていた二人が肉を調理するのを見て、ふと肉料理だけではなく魚料理も食べたくなったのだが、大陸のほぼ中央にある大迷宮都市には海がなく、新鮮な魚介類が手に入らない。


 そこで、アレンはリルと二人をつれて【空間転位】し、まだ暗い内から開かれる大きな朝市へ。


 リエルとレトは人混みが苦手なので、その点だけが心配だったものの、結果から言ってしまうと杞憂きゆうだった。


 のきを連ねる店、活気ある雰囲気、店頭に並ぶ『海の宝石』と称されるほど鮮やかな色とりどりの魚……目移りしてしまうとうれしい悲鳴を上げつつ終始しゅうし楽し気で、魚は言うに及ばず、海老エビカニ、貝、海藻かいそう……などなど、大量の食材を確保。


 店員が若い男性だと、リエルとレトはご主人様アレンの背に隠れて注文するため、アレンがめちゃくちゃにらまれ、気のいいおっちゃんやおばちゃんだと自分達から話し掛ける事ができ、注文した二人リエルとレトが可愛いからと沢山たくさんおまけしてくれた。


 結局、二人はその日も、帰宅してからの朝稽古と夜の稽古以外は料理をして過ごし、アレンもダンジョンへは行かず自宅の庭で修行に明け暮れ、間に挟んだ休憩中に、リルと散歩したり、シグルーンに乗って駆け回ったりした。


 そうして一日があっという間に過ぎて、翌日。


 アレンだけではなく、二人にとっても日課になった朝稽古、朝風呂、一緒に朝食の後、身支度を整えた。


 リエルは、ポンチョ風ケープを身に付け、レトは、ワンピースのようなポンチョを着ている。二人共、その下は自分達で選択セレクトした〔戦乙女の鎧ヴァルキリーアーマー〕。だが、両腕の装備は早速予備に回されて、今は修理屋[バーンハード]で購入したカイト・バーンハード独自オリジナル魔導機巧カートリッジ・システムを搭載した指先から肘までを覆う甲拳ガントレット――リエルは〔超振拳マグナクラッシュ〕を、レトは〔斥力拳マグナスラスト〕を両腕に装備している。


 武装したアレンは左腰に愛刀をき、リルを肩に乗せ、仮面で顔を隠したリエルはレトと共にフードも目深にかぶり、家を出るとまず隣の厩舎へ。活躍してもらうのはもうしばらく先になるとは思うが、一応シグルーンも【異空間収納】でしまって連れて行く。


 拠点ホームを出発したアレン一行は、そのまま一直線にダンジョンへ――そのつもりだったのだが、ダンジョンへ向かう他の冒険者一行パーティを目にした瞬間、はっ、とまだ肝心かんじんのパーティ登録を行なっていない事に思い至り、進路を変更して冒険者ギルドへ。


 そして、アレンは、いつの間にか自分に〝なまくらレイジー〟という二つ名が付いていた事を知った。




 《群竜騎士団》内の一派が悪意を持って広めさせた事と、元々〝不運を招く女ハードラックウーマン〟と呼ばれるサテラが担当だという事で噂になっていたのが相俟あいまって、その二つ名は爆発的な勢いで浸透し、冒険者で知らないのは、二日間拠点ホームから出なかったアレン達のみと言った有様で――


「おい、見ろよ、あの剣」

「って事は、あいつが〝なまくら〟か」

「マジであんな骨董品を持ち歩いてるのか」

流石さすがは〝なまくら〟」


 直接呼びかけてくる訳ではない。それでも、わざわざ聞こえるように話しているらしい声の大きさと、チラチラと向けられる視線から、どうやらそれが自分の事らしいと察するのは難しい事ではなく……


「……まさか、あの〝なまくら〟というのはッ!?」

「アレン様の事を言っているんですかッ!?」


 二人がそれに気付くのが遅れたのは、真の姿に戻る前、奴隷時代の経験から対人恐怖症のがあり、フードを目深に被ってうつむき、ご主人様の背中だけを見て歩いていたからで、最近そう言われた覚えがあるアレンは、誰が自分にそんな二つ名を付けて広めたか見当がついていたため、


「そうだろうな」


 あっさり肯定した。


 二人が自分のために憤慨ふんがいしてくれるのは嬉しい。だが、


「俺は結構気に入ったよ」


 信じられないと言わんばかりの表情で、それは何故かと問われれば、


「〝鈍刀なまくら〟なんて、謙虚な俺にピッタリだろ? 〝名刀〟とか〝利剣〟なんてお高くとまったのよりずっと」


 そう言って足を止めると、くるっ、と二人のほうへ振り返って右手を自分の胸に当て、


「こんな〝なまくら〟でよろしければ、喜んで貴女達のために微力を尽くしましょう」


 そう芝居しばいがかった調子で言うと、リエルは仮面をつけているので表情はうかがえないものの、隣のレトと同じく、思わずといった様子で吹き出し、怒る気も失せたといった感じで苦笑する気配が感じられた。




 そこは、冒険者ギルドの中央にそびえる賢者の塔、その地下1階に存在する儀式場。


 パーティ登録するための場所で、通称は『円卓の間』。


 縦よりも横に倍以上広い円柱形の空間で、二つある出入口はそれぞれ入口と出口と決められていて一方通行。床には巨大な円に内接する六芒星が描かれており、円と六芒星の接点にその名の由来となった六つの円卓が存在する。その円卓の上にはエメラルドタブレットと同じエメラルド色の六芒星が描かれていて、そのそれぞれの頂点にエメラルドタブレットをめ込むくぼみがある。


 〝なまくら〟の二つ名だけではなく、〝不運を招く女ハードラックウーマン〟の担当が三人に増えた、という噂も知れ渡っていたようで、アレンと一緒にいる二人にちょっかいをかけようとする者はなく、嘲笑、失笑、冷笑……向けられても嬉しくない笑みを無視してこの『円卓の間』にやってきた三人は、さいわい待つ事なく係りの職員にうながされて入室し、空いていた二つの円卓の一方へ。


 どこでも構わないそうだが、何となく三人で六芒星の一つの三角形を構成する位置に立つアレン、リエル、レト。


 パートナーアレンの肩から飛び降りたリルが円卓の中央でお座りし、その様子に頬を緩めたアレンは、ふぅ、と一息ついて気持ちを引き締め、リエル、レトとアイコンタクト。頷き合い、左手からエメラルドタブレットを取り出す。


 そして、タイミングを合わせて円卓の窪みにエメラルドタブレットを嵌め込んだ。


 円卓の上でエメラルドタブレットと六芒星がほのかに発光し、その光が消え……


「…………え? これだけ?」


 窪みから取り出したエメラルドタブレットを左手の甲に戻し、メニュー画面を表示させる。すると、確かにパーティ登録が完了していた。


 正直、拍子抜けした感はいなめないが、兎にも角にも、


「これで俺達はパーティだ!」


 込み上げてくるものがあるのもまた事実。


 パーティの解散は、個人でメニュー画面を操作するだけで行なえるが、結成はこの円卓を使わなければならない。パーティメンバーの上限が6名なのはそれゆえ


 そして、パーティが結成され、エメラルドタブレットにメンバーが登録されると、倒したモンスターの霊力が均等に分配されるようになるだけではなく、最大6名での集団魔法や連携技の使用が可能になったり、回復や能力向上バフの効果をメンバーに限定したり、能力低下デバフや複数用射出型攻撃魔法の標的ターゲットから自動的にメンバーを除外したりする事が可能になる。


 ――何はともあれ。


 アレンは、相棒リルと初めてできた仲間達パーティメンバーと共に『円卓の間』を後にし、ついつい浮かれそうになる己をいましめつつ、今度こそダンジョンへ向かった。




 リエルとレトの望みは、ご主人様アレンと一緒にいる事。そして、ご主人様のお役に立つ事。


 そんな訳で、アレンとは別の意味でダンジョンのに興味がない二人は、ご主人様がを進めている第3階層からで良いと考えていた。


 しかし、アレンは、三人でダンジョンの入口から再スタートする事に。


 それは、何故か?


 ボス部屋は、ちゃんと攻略しながらさきへ進んだほうが良いような気がするからだ。


 そう思った根拠は、主に二つ。


 一つは、時空魔法の【空間探査】を使用した結果。


 アレンは階を一つ下りるごとにこれを使用してきたのだが、どうやら結界のたぐいで効果がはばまれているらしく、下の階層を探査する事ができなかった。しかし、今、第1階層でモンスターの位置と他の冒険者の有無を確かめるために【空間探査】を使ってみたところ、下の階層――探索が済んでいる第3階層まで現在の状況を把握する事ができた。


 これはおそらく、そこまでのボス部屋は攻略済みだが、第3階層のボス部屋は未攻略だからだろう。


 この推測が的を射ているのだとしたら、一度攻略したボス部屋は、それ以降足を踏み入れてもモンスターが出現する事はなく、例えパーティメンバーの五人が未攻略でも、一人攻略した者がいればやはりモンスターは出現しない、というのにも何か意味があるのではないかと思えてくる。


 それが、根拠の二つ目。


 そもそも、ダンジョンに潜るのは、完全制覇するためではなく、修行のためであり、生活のかてを得るため。故に、先を急ぎたい訳ではなく、いとうような手間でもない。


 結局、リエルとレトは、アレンの話を聞いて納得し、第3階層へ【空間転位】するのではなく、第1階層のボス部屋へ向かう事に。それも、回り道をして。


 それは、ボス戦の前にダンジョンでの戦闘を経験しておくため。


 転送屋を利用しない冒険者達は、地図を持っているかルートを記憶していて、まっすぐボス部屋を通過して奥の階段でさきへ進む。そのため、そのルート付近のモンスターは既に先行した冒険者に倒されており、再度出現するには時間がかかる。


 だからこその回り道だ。




「もう良いよ」


 第1階層のボス部屋への最短ルートから外れ、二人に人気ひとけがない事を伝えるアレン。


 すると、レトはワンピースのようなポンチョを脱ぎ捨てた。


 その一方、リエルは左手の紋章をでて視界に割り込んだ自分にしか見えないメニュー画面を操作し、一瞬にして〔超魔導重甲冑カタフラクト〕に搭乗する。その姿が掻き消えるのとほぼ同時、入れ替わるように兜の飾りまで入れれば2メートルの半ばを超える群青色の機体が出現した。


 余談だが、リエルのポンチョ風ケープは、〔超魔導重甲冑〕に搭乗する際、装備や他の持ち物同様、自動的に【格納庫】に収納されるのだが、レトの手から離れたワンピースのようなポンチョは忽然こつぜんと消える。そして、必要だと思えばいつでも現れる。それは、アレンが使うような収納用の魔法の類ではなく、理屈では説明できない超常現象で、神秘や奇跡の類らしく、フェアリーの特殊個体である戦闘妖精――レト自身にもポンチョがどこへ行ったのか分からないらしい。


〔ご主人様、モンスターの魔力を探知しました〕


 そう報告してきたリエルいわく、〔超魔導重甲冑〕には霊力を探知し、モンスターの魔性や瘴気を帯びた霊力――通称『魔力』を赤い光点で、人の霊力を青い光点で表示するレーダー機能が備わっているとの事。


 その性能は、アレンが【空間探査】の後に常駐発動させている【早期索敵警戒網】より、範囲はやや広く、精度はややおとるようだが十分使える。


「私にも分かります」


 そう自己申告してきた戦闘妖精レトが言うには、魔法を使っている訳ではなく、もちろんレーダー探知機を搭載している訳でもないが、なんとなく気配で、アレンの【早期索敵警戒網】より範囲はやや狭いものの、同程度の精度でモンスターの位置が分かるらしい。


「さて、先頭は、トラップの存在を見抜ける俺が良いだろうし、殿しんがりは……レトが良いかな?」


 最も防御力が高いのは〔超魔導重甲冑〕に搭乗しているリエルで、装備した〔水操の短杖〕で後衛から攻撃もでき、モンスターが背後から接近してきてもレーダーで探知できるため奇襲を受けずにすむ。しかし、実戦経験がない。


 レトにはそれがあるらしく、気配にもさといので、現状ではこれが最も良い隊列だろう。


 特に異論はないらしく、承知したむねを返す二人。すると、相棒アレンの肩から床へ飛び降りたリルが先導するように歩き出し、


「みゅうっ!」


 振り返って、さぁ、行こう! と言わんばかりに一鳴き。


 一行はその様子を見て思わず笑みを浮かべ、頷き合い、前へ一歩踏み出す。


 こうして、アレンは仲間と共に冒険を開始した。

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