延長戦・2 日向大輔、10年を語る・前編

―ワールドカップ本大会メンバー発表前日




 復活を決めてからこれまで、本当に色々あった。でも、俺の高校卒業後の人生はタイムスリップ前と比べて、リハビリでプロ入りが遅れた位でそんなに変わらなかったな…。空想科学の本なんかでも、因果ってやつが作動して、タイムスリップしても時間の経過と共に元の世界に近付いて行くとかなんとか読んだ記憶があるけど、昔の事なので忘れた。


 でも、周りには俺がタイムスリップした事で人生が大きく変わった奴もいる。



 その代表が、俺の親友と云うべき存在、高橋だろう。


 タイムスリップ前、高橋はプロを諦め、実家の家電販売店を継いだんだ。その後は結婚し、子供も四人もうけた。それはそれで幸せそうだったんだけどな。


 でも、タイムスリップ後、小学生時代は俺にしごかれ、中・高では香田に触発されて必死に努力したんだろう。卒業後には見事にJ1の横浜・F・マリノスに入団し、プロになる夢を叶えたのだ。


 更にはマリノス入団二年目からはレギュラーを確保。マリノス一筋で、サポーターからはMr.マリノス(仮)とまで呼ばれ愛されている。…(仮)は過去のMr.マリノスと呼ばれた先輩方が偉大過ぎるからまだ外せないらしい。


で、 日本代表にもちょくちょく選ばれる程の選手にまで成長した。ポジションは右のサイドハーフ。トリッキーな動きも去ることながらスピードに乗ってしまえば高橋のドリブルを止めるのは難しい。その上センタリングは高い精度を誇り、意外な所でゴールを決める決定力もあるムードメーカーに成長した。


 俺が立ち直ってからも、定期的に会って近況報告等をし、お互い親友と認め合う仲だったのは、タイムスリップ前と変わらなかったな。



 あとは、更に進化した奴等。


最初は中・高の六年間を共に戦った権田だ。


 権田はタイムスリップ前も後も、日本代表の不動のセンターバックとして、8年間代表のキャプテンとして活躍していた。また、クラブチームでも、鹿島アントラーズから若くしてプレミアリーグのサウサンプトンへ移籍した。ここまではタイムスリップ前と変わらなかったが、サウサンプトンでの活躍が認められ、なんと現在ではプレミアリーグの名門マンチェスター・ユナイテッドでキャプテンを務め、絶対的信頼を得ている。

 能力も高く、フィジカルの強さ、球際の強さ、高さ、DFに必要な能力を全て備えている。


 性格は真面目。品行方正。仲間想い。責任感が強い。厳し過ぎず、優し過ぎない、まさにキャプテンをする為に生まれて来た様なナイスガイだ。



 そして内村。


 卒業後はタイムスリップ前と変わらず、横浜・F・マリノスで2年間高橋と右サイドでコンビを組み、その後はタイムスリップ前はトリノ→シャルケ→鹿島アントラーズと移籍して行ったのだが、現在はその運動量や攻守に渡って高い精度を誇るプレーが評価されて、シャルケ→バイエルン・ミュンヘンへと移籍し、スタメン争いをしながらも要所で活躍する程に成長した。


 スピードスターと評される圧倒的脚力で一瞬にしてサイドを駆け上がり、直ぐ様戻って来て守備を怠らない。スタイル的にはテクニシャンタイプのサイドバックだ。マリノス時代と日本代表で高橋とコンビを組んだ時は、“ハイウェイラインズ”の異名で呼ばれるスピードコンビだ。

 プレーにムラがあるのはプロになっても変わっていないが、アイドルの様なルックスで代表人気ナンバーワンを誇る程ファンに愛されている。



 権田と内村の二人は、タイムスリップ前と比べて確実に進化している。まぁ、元々実力のある二人だからな。



 そして、進化した極みが…悔しいけどやはり香田だろう。


 タイムスリップ前は天才肌のプレイヤーだったが、タイムスリップ後は、その才能に更なる研きをかける為の努力を惜しまず、全体的に能力がパワーアップしていた。


 ポジションは、前線ならどこでもやれるスキルがあるが、本人が最も好むのがトップ下。

 スタイル的に、力強いドリブルでキープ力が高く、視野が広くて精密機械の様なパスを持ち、弾丸の様なシュートは精度も高い。攻撃的な能力が全て高い次元で纏まっているオールラウンドプレイヤーだ。


 卒業後は、タイムスリップ前が、VVVフェロン→CHSKモスクワ→ACミランだったのが、タイムスリップ後は、VVVフェロン→ドルトムント→レアル・マドリードと、着実にステップアップし、バロンドールまで受賞しやがった。


 ハッキリ言って、ミッシとクリロバに並ぶ世界最高のプレイヤーと言っても過言では無い。もうね、ここまで突き抜けられると、対抗心とか嫉妬とか通り越して、ただただ凄いとしか言い様が無い。


 天才なんかいないって言ってたけど、絶対天才じゃん。どんなに努力したって、ここまで辿り着ける選手はいないって。



 …とまあ、物語のテーマを根本からぶっ壊す愚痴はこれくらいにしてと。



 俺のストーカーにして妻でもある旧姓・新間麻衣。


 タイムスリップ前の麻衣の記憶は無いから何とも言えないが、少なくとも俺とは出会ってないし結婚もしてない。


 高校までは姉の新間さんを会して何度か挨拶した事があったな~位だったのだが、急に俺の見舞いに頻繁に来るようになり、辛いリハビリ生活を献身的に支えてくれた。

 姉に似て…いや、新間さんには悪いけど、姉以上の美人だったし、そりゃあ惚れるよな…。


 でも、交際が始まって、麻衣が、俺が小学生の頃からのレポートを書いてたと告白された時は、正直恐くなった。だって、7年間だよ?7年間も俺の事を追い掛けてたってんだから、そりゃ恐いよ。


 でも、それ以上に麻衣にはリハビリを支えてもらった感謝があったから笑い飛ばしてやったけどな。多分、麻衣がいなかったら俺はここまで立ち直る事は出来なかっただろう。



 さて、ここからは俺の怪我から立ち直ったその後を少しだけお話ししようと思うのだが……ちょっと長くなるから一呼吸置こう。

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