第36話 両軍上位打線の攻撃
…デルゾ瑠偉はその後も外角の直球やスライダーをカットして粘り、百方は9球目に一転してインコースへシュートを投げて来た。
勝負を決めに来た一球だったが、デルゾ瑠偉はバットを振らずに見送り、球審の判定は「ボール !! 」
…これでカウントは3ボール2ストライクとなった。
「…まずいな!…相手はこの回、明らかに百方先輩に余分な球数を投げさせようとして来てる。おそらく百方先輩の肩が100球くらいで消耗して球威が落ちてくることを知っているんだ…」
球雄が打席のデルゾ瑠偉を見て言うと、金二郎も頷きながら、
「…しかもこの回、ランナーを1人でも出すと、四番の新野に繋がっちまう!」
と呟く。
…百方の10球目、外角スライダーをカットしてさらに粘ったデルゾ瑠偉だったが、結局11球目の真ん中高め直球148キロを打ち上げて浅いライトフライに終わった。
しかしこの試合ここまでの百方の投球数は85球となっていた。
(…コーナーに行った球をカットして粘られてるってのが、やはり少しずつ百方先輩の球にキレが無くなっているってことなのかも !? …)
球雄が心中で呟くと、崇橋監督から指示が来た。
「球雄、住谷、準備してくれ!…新野の打席から行くぞ !! 」
「はいっ!」
金二郎が張り切って応え、球雄の頭を軽く叩いた。
「いよいよだな!球雄、ついに新野とあの魔球で対決する時が来たぜ !! 」
「…そうだな」
テンションの高い金二郎に、ボソッと応えて球雄はグローブを左手に着けた。
その後、八千代吉田学園の二番打者、伴利雄は2ストライク以降やはり際どい球を必死にカットして、ファウルで粘り、10球目のスライダーを打って一塁線右へのライナーとなったが、ファースト玉庭が横っ飛びで好捕して2アウト。
…続く三番打者、綱出郁夫もまた同様にファウルで粘り、百方の球数を増やして行った。
しかしフルカウントとなった後の11球目、真ん中低めに来た直球145キロを打つと、打球はしっかりとバットの芯で捉えた金属音とともにセンターに舞い上がった。
「ヤバいっ !! 」
思わず義田がキャッチャーマスクを外して叫んだ。
打球は大きくバックスクリーンに向かって伸びて行く。…センターの中尾貫行が半身の態勢で打球を追って行く。…両軍ベンチの選手らは身を乗り出してボールの行方を目で追う。…中尾がジャンプして打球に飛びついた後、グラウンドに2回転して倒れ込んだ。
…しかしすぐにフェンス際で立ち上がった中尾のグローブの中には、しっかりとボールが収まっていた。
「アウト!」
二塁塁審が宣告すると、東葛学園ナインは皆、右手を突き上げて歓喜の声を上げ、スタンドの観客からは次々と拍手がわき起こった。
…義田と百方は守備位置から引き上げて来る中尾を一塁線の前で笑顔とハイタッチで迎えながらベンチに戻った。
6回の裏、東葛学園の攻撃はこちらも打順良く一番の根張大志からだ。
(打順の良いこの回、何としても点を取る!…絶対に出塁してやるぞ !! )
根張は闘志を隠さず、マウンド上の玉賀を睨みながら右打席に入る。
「プレイボール!」
球審が宣告すると、玉賀がゆっくりと投球モーションに入った。
根張への初球は内角に切れ込んで来るスライダー、しかし根張はそこで瞬時にバットを寝かせ、ヘッドにボールをコツン! と当てて三塁線へ転がした。
「セーフティバントだ!」
東葛学園ベンチから声が上がった。
根張がダッシュで一塁へ走る。
サードの片野強志が慌てて三塁線上を前進して来てボールを素手で掴んで身体をひねり、サイドスローで一塁へ送球、ベースを駆け抜ける根張と一塁手の捕球がほとんど同時に見えた。…一瞬両軍ベンチが息を呑んだが、
「ファウルボール !! 」
球審が叫んで、両軍ベンチからため息が漏れた。
…根張は玉賀をずっと睨んだまま歩いて打席に戻る。
そして玉賀が2球目の投球モーションに入ろうとした時、根張はまたバントの構えを取った。
(まさか、2球続けてセーフティバントやるつもりか !? )
玉賀は驚きながらも動揺は見せずにゆっくりと足を上げて根張を見た。…サード片野は前にダッシュする素振りを見せる。
ところが玉賀がテークバックに移ると、根張はバットを引いて普通にスイングする態勢に戻した。…そしてマウンドの左腕から放たれた2球目は外角のストレート、それを読んでいたかのように根張は内側からバットを伸ばしてヘッドをぶつけるようにして球を捉えた。
「キン!」
かん高い打球音を残して、ボールは1~2塁間を速いゴロで抜けて行った。
「おおっ!ナイスバッティング !! 」
…東葛学園ベンチが一気に盛り上がり、根張は一塁ベース上で振り返ってグッジョブポーズを見せた。
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