第27話 先輩バッテリーの意地

 …という訳で場面は一死二塁に走者須々木と変わり、次の三番打者が右打席に入った。

「絶対に須々木をホームに行かせねぇ!」

 マウンドの百方が呟く。

 …相手打者がまたバントの構えを取った。

(…何なんだ?バカの一つ覚えみたいにバントバントってよぉ ! …そんなにバントしたけりゃやってみろ !! )

 百方がややイラつきながらセットに入り、須々木と打者を交互に見ながら投球モーションに入ろうとした…その時、ベンチの球雄が思わず

「ヤバい !! 」

 と叫んだ。

 百方が足を上げ、ボールを持った右腕をテイクバックした瞬間、須々木は三塁に向かって猛然とスタートした。

 百方から投じられた球は打者の内角高めに148キロのストレート、打者はバットを引かずにバントの構えから右手をスライドさせて左手に付け、そのまま来た球に押しつけるような打ち方で打球を三遊間に飛ばした。…須々木のスチールに対応してサードは三塁ベースに走りかけていたので、打球は広くなった三遊間の真ん中でバウンドしてレフトに抜けて行く。…須々木はノンストップで三塁を回ってホームへ向かう。…レフトはバックホームは諦め、ボールを二塁に返した。

 その瞬間、浦安東京学院ベンチと一塁側スタンドからどっと歓声が湧き起こった。

 …須々木が楽々とホームを駆け抜け、浦安東京学院が1点を先制、なおも一死走者一塁となった。

 義田がタイムをかけて百方のところへ行き、内野手もマウンドに集まる…。

「…癪だけど、球雄に言われたようにやられたな ! …薄ら生意気な奴だが、あいつのアドバイスどおりに開き直って落ち着いて行こう!百方の球威でバッターだけに集中して1人づつやっつけて行くぜ!」

「OK!」

 …義田の言葉に内野手が応えて、守備位置に戻った。

 義田は百方の尻をポン! と叩き、

「頼んだぜ 、エース !! 」

 と言ってポジションについた。


 プレイが再開され、右打席に入った四番打者はまたまたバントの構えを取った。

「…なるほど、セコい野球なんかに付き合わずに俺たちの野球でねじ伏せろってか !? …分かったよ球雄 ! 俺の力を見せてやる!」

 マウンドで百方がそう呟いてセットポジションに入った。

 初球は外角低めに148キロのストレート。打者バットを引いたがストライク。

 続く2球目も打者バントの構え。

 百方は同じコースへ149キロのストレート。打者バットを引いたがこれもストライク。捕球後、義田がサッ! と一塁へ牽制球を投げ、走者慌てて帰塁した。

 …百方の3球目は一転してインコース膝元へ150キロのストレート。打者はバントの構えはやめて普通にバットを持っていたが、近い所への速球に足をバタつかせて倒れそうに身体を引き、ボールの判定。義田はまたも捕球後素早く一塁へ牽制球。走者はちょっと逆をつかれた感じだったが必死に帰塁して間一髪セーフ。義田はわざと打者に聞こえるように舌打ちした。

 するとマウンドの百方が一瞬ニヤリと笑い、逆に打者の顔からは余裕が消えた。

(…さすが先輩バッテリー ! じわりと相手に圧をかけてるぜ…!)

 球雄が胸中で呟いた。

 …ワンボールツーストライクと追い込んで百方がセットポジションに入る。打者はもうバントの構えは取らない。

 百方が足を上げ、腕を振って4球目を投げた。

 ボールは外角低めに縦に曲がるスライダー ! …打者はタイミングをずらされながらも何とかバットに当てて右方向へおっつけようとしたが、ボールゾーンまで変化した球にさらに態勢を崩され、打球はワンバウンドのピッチャーゴロとなった。

 百方が捕って二塁へ送球、さらに一塁へ転送されてダブルプレーが完成、一瞬にしてスリーアウトチェンジとなった。

 義田がマスクを取って百方に向け右手の親指を立て、

「グッジョブ !! 」

 と小さく叫んでベンチに引き上げる。


 …1回の裏、東葛学園の攻撃に行く前、ベンチ内では主将の義田が声を出した。

「たかが1点、追い越して行くぜ!」

「お~っ !! 」

 全員が応え、トップバッターの根張大志が右打席に向かう。

 …対する相手先発投手は三年生の河州巧(かわすたくみ)175センチ72キロ、右投げサイドハンドだ。


「…相手投手は典型的な打たせて取るタイプのサイドハンドです!…投球術としては内角にシュート、外角にスライダー…基本的に横の揺さぶりです。ストレートは最速で135~6キロ、コントロールはかなり正確に投げてきます。カウントを追い込んで最後に外角へポッと投じたシンカーを引っ掛けさせて内野ゴロに仕留めるのがこの投手のパターンですね…」

 …今朝のミーティングでの球雄の話を根張は打席で反芻していた。

「プレイッ!」

 球審がコールして、河州が1球目の投球モーションに入った。













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