第12話 楽しい野球から高校野球へ

 …結局球一朗は、小学生の時にキャッチボールをしてくれた近所の兄ちゃんに頼んで草野球チームに入れてもらった。

 キャッチボールの時、大学生だった兄ちゃんは現在は社会人となり、以前の野球仲間と草野球チームを作っていたのだ。

 兄ちゃんの名前は山館勉 (やまだてつとむ) 。高校の野球部時代は二塁手だったが、この草野球チームでは二塁手の他に捕手も務めていた。

 主に高校野球の頃の仲間やその頃の対戦チームの選手だった者などで編成されたチームで、けっこうレベルの高いメンバーが揃っていた。中には甲子園出場経験者もいたくらいだ。

 週末の土曜日曜は江戸川河川敷のグラウンドで練習したり、または市内の運動公園野球場で他チームと試合したりという活動をしていた。

「…中坊をチームに入れるってのか !? 大丈夫かよ?」

 山館が河川敷のグラウンドで初めて球一朗をみんなに顔合わせさせた時には、当然ながらそんな声が上がったが、

「…まぁ、こいつの投げる球を見てから言ってくれよ!」

 山館がそう言ってマスクをかぶって捕手のポジションに入り、球一朗はマウンドに上がった。

「球一朗、ストレート5球だ!」

 山館の声に従い、球一朗はふりかぶってオーバーハンドでストレートを投げ込んだ。

 最初はど真ん中に120キロ、その後は内角高め、内角低め、外角高め、外角低めと3キロづつ球速を上げて投げて見せた。

「ほお~!…中坊なのに大したものじゃん!ちょっと試しに俺に打たせてくれよ!」

 メンバーの一人が球一朗にそう言ってバットを持って打席に入った。

「よし、じゃあ球一朗!腕試しに最速の直球を投げてみろ!」

 山館がそう言ってミットを真ん中に構えた。

 球一朗は大きくふりかぶって足を上げてストレートを投げた。

「キン !! 」

 次の瞬間、金属バットが捉えた打球が高く舞い上がり、グラウンド左中間奥の葦の繁みの中に消えた。…飛距離は110~120メートルほどで、要するに完璧な当たりだった。

「…………… !? 」

 呆気にとられた顔で打球を見ていた球一朗に、山館が近づいて来て声をかけた。

「どうだ?…楽しめそうか?」

 球一朗は一転して笑顔になり、

「最高です!…めちゃくちゃ楽しくやれそうです!」

 と応えた。


 …結局、球一朗は中学生時代をこのチームで野球に打ち込んだ。

 平日は一人で、軽くランニングや縄跳び、柔軟、腕立て伏せなど黙々とトレーニングを納得するまでやった。

 特に腕立て伏せは親指と人差し指、または親指と中指だけのパターンで行い、指先の強化に努めた上で4キロの砲丸投げの球を指先でくるくると回すトレーニングをした。…これは自分で考えた、より鋭い変化球を投げるためのものだった。

 チームではリリーフ投手と内野手に充てられ、大人に混じって毎週末楽しく充実した野球をやることが出来た。

 何故ならもはや中坊扱いされずにもちろん充分な戦力になっていたからである。


 …中学2年生時は170センチ65キロだった球一朗は、卒業時には178センチ75キロになり、地元の公立高校に入学した。

 もちろんすぐ野球部に入ったが、やはり基本的には一年生は球拾いやら雑用係だった。…しかし6月になった時、一年生チーム対二、三年生チームの練習試合が部内で行われ、球一朗は先発マウンドに上がり、5イニングを投げて先輩たちを2安打無失点に抑えた。

 すると7月から始まる夏の甲子園大会に向けての県内予選試合のメンバーに入れられた。

 しかし予選試合が始まると、先発は三年生のエースが先発起用され、球一朗は遊撃でスタメン出場となった。

 …残念ながらこの年は予選3回戦で敗退してしまい、甲子園出場は果たせなかったが、翌年からは二年生となった球一朗にようやく先発投手の役割が与えられた。

 …今年こそ甲子園を狙う夏の大会の県内予選に向けて投げ込みを開始した球一朗はしかしそこで大きな問題にぶち当たった。

 球一朗のストレートは現在140キロくらいまでは出せるようになっていたが、投球スタイルとしては変化球を打たせて少ない球数で抑えて行きたかった。…カーブ、スライダー、シュート、チェンジアップ、そしてフォークボールをすでに投げられるようになっていた球一朗としては当然の考えだ。

 …しかし以前までのエース投手は直球ばかりの、いわゆる力で押すタイプだったので捕手もそれに慣れきっていて、球一朗から見ると頭脳的な配球や鋭い変化球の捕球などに不安がある者しかいなかったのだ。


 …そんな時、前年同様に部内で一年生対二、三年生対抗の練習試合が行われた。











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