第7話 勝負の結果
…2イニング目、一死二塁の場面で右打席に立ったのは、チームのメイン捕手でキャプテンの義田孝 (よしだたかし 三年生 - 178センチ79キロ)だ。
「ワンナウトだ!しまっていこ~っ !! 」
住谷が守備陣に声をかけてポジションについた。
球雄は住谷のサインに頷き、第1球を投げた。
初球はインコースぎりぎりを縦に曲がるスライダー、義田はフルスイングしたが空振り。
「ストライ~ク!」
球審のコールに一瞬悔しげな顔を見せたが、無言のまま構え直して義田は2球目を待った。
…セットポジションからの球雄の2球目はインコースをえぐるような133キロのストレート、打者は見送って
「ボール!」
球審がコールしたが住谷が素早く二塁に送球の構えを見せ、走者沖本は慌てて帰塁した。
ワンボールワンストライクからの3球目はまたもインコース、高め136キロのストレートに義田のバットはまたも空振りだった。
これでワンボールツーストライクとなり、義田はタイムを要求して打席を外した。
…滑り止めをグリップ付近に吹きかけ、再度打席に戻った際、義田がバットを一握り短く持ったのを球雄は見逃さなかった。
セットポジションから足を上げて投げ込んだ球雄の4球目は外角低めに流れて行くスライダーだ。
だが !!
義田は前足を思い切り踏み込んで腕を伸ばし、そのスライダーを完璧に捉えていた!
「何っ !? 」
鋭い打球音が響き、球雄と住谷の口から思わず同時に同じ言葉が飛んだ!
「ピシッ !! 」
打球は三塁手のグラブをかすめる音をさせての痛烈な当たりとなり、
「よしっ!」
二塁走者沖本は全力で走り出した。
ボールはそのままレフトへ伸びる!
左翼手が背走して追う!
3~4メートル追って最後にジャンプすると、ボールは何とか左翼手のグラブの先に引っ掛かって捕球された。
「えっ !? 」
…すでに三塁を回りかけていた沖本は慌ててUターンしようとしたが、左翼から遊撃を中継して二塁に送られたボールの方が早く、スリーアウト。
勝負の最後はあっけない結果となった。
「やった!勝ったぞ球雄っ !! 」
キャッチャーマスクを取って住谷が叫びながらマウンドに駆け寄ろうとしたが、球雄は敗戦投手のようにガックリと片膝を落としてまだレフト方向を茫然と見つめていた…。
「やられた…完全に引っ掛けられた…この俺が !!」
そう呟く球雄のところに今打った義田が近づいて来て頭を軽く叩いて言った。
「…ナイスピッチだったな球雄…俺たちのチームのリリーフ投手、よろしく頼むぜ!」
「以上、2イニング1安打無失点の結果となったので、球雄の勝ちだ!野球部への入部と、リリーフ専門の投手として、別枠独自の練習を認める!良いな?」
崇橋監督が部員たちに改めてそう言った。
「監督!…待って下さい !! 」
しかしまたしてもそう叫んで異を唱えたのは先ほど唯一のヒットを打った沖本だった。
「…確かに奴はいろんな球種をコントロール良く投げ分ける良いピッチャーだと分かりました。でも百方より速いストレートも、絶対的な決め球も投げてないですよね?…今回の奴の力はむしろ捕手の住谷の配球、リードによるものだ!…入部は認めますけど、そんなに特別扱いするほどの投手ですか? …」
「それは違うよ、沖本!」
今度は義田が声を上げた。
「住谷は一切リードなどしていない。配球は全て球雄が決めて投げていたんだ!…各打者を迎える時、マウンドで二人ごそごそ話してただろ?…初球の入りから打ち取る球まで事前に球雄が住谷に言ってたのさ」
「何だと?…まさか」
驚く沖本に、
「初めて受ける投手の…それもあれだけの変化球を投げる球雄に、球種も分からずにリード出来る訳ないだろ?住谷はリードしてるふりしただけだよ」
義田が言った。
「…………!」
さすがに部員たちは言葉を返せなかった。
「…しかも、球雄はまだ全力で投げてる訳じゃない!…もっと速い球も投げられるし、まだ俺たちに隠してる球があるはずだ!…だから別メニューで独自の練習がしたいんだろう?」
義田はさらに球雄に向かってそう言った。
「ええっ?…」
部員たちから驚いた声が漏れる。
「…義田先輩!…今回はありがとうございました。俺はもう今日は帰ります…」
球雄はそう言って、ベンチのスポーツバッグを手に取った。
「そういう事で、野球部の皆さん、これからよろしく!」
そして、球雄はそう言った後、崇橋監督と少し言葉を交わしてこの日のグラウンドを後にした…。
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