第6話

強引にでも帰りに誘ってよかった。


――白石渚は安堵していた、きっかけが欲しかったのだ。


たまにお店に来るけれど、お父さんと話して直ぐに帰ってしまうし、魚屋の娘だけど魚に詳しい訳でもないし。


挨拶はするし、してくれるけれど混み入った話など最近はからっきしだった。


航はあまり気にして居ないのかもだが、今でも思い出す。


話しづらくなってしまった理由。


彼は昔から気が強く、いじめられてる子を庇い、良くいじめてる側と揉めていた。


中学生の時、クラスの誰かが言い出した、彼の家には、母親が居ないから。




「お前んち、片親だから、まともじゃないんだって?」




そのセリフを言った張本人は比喩でなく、一瞬で身体が飛んだ。


思いっきり掴んで航が投げたのだ。


他の取り巻きも彼に捕まれて、同じように暴行を受けた。


しばらく暴れた後、その時隣のクラスだった拓海が、騒ぎを聞きつけ抑えに来るまで続いた。


その後教室に入ってきた教師に連行され、処罰されたのは言うまでもない。




後から聞いた話なのだが、拓海やほかのクラスメイトが先に暴言を吐かれたから、航が暴行をしたと証言をしていたらしいのだが、暴力は暴力、ということでしばらく謹慎になった。




私は、今でも後悔している。なぜあの時、抑えようとしに行かなかったのか。


航は悪くないと、証言をしなかったのか。


自分の大切な友人を、守ろうとしなかったのかと。




その事件以来、航は拓海以外とはあまり係ろうとはしなくなった。


大体の人は、航は悪くないと分かっていても、あれだけ暴れた事を考えれば、腫物を扱うようになってしまうのも仕方ないことだとは思う。


結局その周りの空気に流されてしまった。


そうして高校に入学し、今に至るまで。自分としては関係を改善出来てるとは思えなかった。




「なにぼーっとしてるの!早くお店片付けちゃいましょ」




「あ、ごめんね。すぐ片付ける」




由美子の声で我に返る。


あのまま航と下校した後、着替えて店の手伝いをしていた。


そしてもう店じまいの時間になっていた。




「航ちゃんの事?」




「・・・うん」




「珍しかったもんね。一緒に帰ってくるなんて」




「今日ね、誘ってみたの。一緒に帰ろうって」




「うんうん、どんな話したの?」




「課外実習の話とか、この四人も久しぶりだね、とか」




「なるほどねー。何か二人から初々しい空気を感じたから何事かと思ったわ?」




「そ、そういうんじゃないけど!」




「けど、航ちゃんもまた一緒に色々出来て嬉しいって言ってたじゃない?」




別れ際の彼の言葉を思い出す。


私の言葉に、誠意をもって返してくれたのだと思う。


お互い恥ずかしくて顔なんて見れたものではなかったが、それでも一歩だ。




「そうね、もうこの話はお終い!お腹空いたから早く片付けよ!」




はいはい、と返事をする由美子を尻目に身体を動かし、気恥ずかしさを誤魔化す。


丁度その時、エプロンのポケットに入っているスマホフォが震えた。


京子かなと思い、スマフォを取り出し送り主を確認すると航からだった。


思わぬ送り主に渚は驚いた。今まで彼からラインが来たことなど、一度も無かったのだから。


連絡先を交換してそれっきりだ。




「どうしたの?」




「何でもないよ」




そう?といきなり片付けていた手を止めた自分を、不思議そうに由美子は一瞬見ていたが、また片付けに移っていった。




――取り合えず後で返事を返そう。


けど、短い一文だったが、それでも、こうやって航から反応が合って良かった。


今日、一緒に帰ろうと誘えた自分が誇らしい。


またここから始めていければいい。




「ほんと不器用だよね」




そこには短い文で『今日はありがとな』、とだけあった。




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