第5話

家に着き、ただいまと言いながら扉を開け、靴を脱ぎ居間を目指す


居間に入ると、カーペットの上でくつろぐ父の姿を見つけた。




「お帰り」




「ただいま、今日はどうだったの?」




「まあぼちぼちだな。シーズン初めだからこっからだな」




他愛もない日常の会話をしながら机にカバンを置き、冷蔵庫の中身を漁る。




「おら、先にカバン自分の部屋に置きにいかんかい」




「わかってるって、腹が減ったんだよ」




冷蔵庫を閉め、キッチンに振り替えると、まだ湯気が上がっている鍋があるので、もう夕食は準備してあるらしい。




「相変わらず準備はやいな」




「いいからさっさと着替えてこい」




これ以上小言を言われるのもたまらないので、言われた通り、居間を出て、二階の部屋に向かう。


まだ夕食の時間には早いので、とりあえず着替えをすませ、ベッドに寝転ぶ。




「あいつとも、あれだけしゃべったのも久しぶりだな・・・」




今日の帰り道を思い出す。小学校の時なんかは、当たり前に一緒に帰っていた。中学校に上がってからは、お互い友人が増え、係る時間が減っていった。


それでも、そんなに人数が多い学校では無かったのでしゃべったりはしたのだが、一緒に遊ぶことは格段に減った。


京子なんかは割と男子と趣味が合ったので遊んだりはしたのだが、渚はからっきしであった。


今日の言動を見るに、一人だけ、寂しかったのかな。そう思うと切なくなり、申し訳なくなる。


恥ずかしいと言う理由だけで、話しかけ辛さを感じていた自分が情けなくなった。




「ラインでも送ってみるか」




自分のバイト代で買った、最新型のスマホを握りしめ渚の名前をタップして、親指をキーボードの上でぐるぐる回す。




「久しぶりに長文送っても気持ち悪いしな・・・」




そもそも、女性に連絡を取るなんてしたことがない、キザなセリフ等自分のキャラではないし。


いい塩梅とはなんだ、ネットで調べてみるか、いやそれも情けない。


幼馴染として送るだけだと、自分に言い聞かせ取り合えず指を動かす。


打つのに戸惑っていると、下から父さんの声が聞こえる。どうやら悩んでいる間に相当な時間がったたらしい、飯の時間の様だ。




「今行くよ!」




そう返事しつつ、サクッとコメントを打ち送信する。


すぐ返事か来なくても怖いので、スマホはベッドの上に置いて居間に向かう。




少し小走りで階段を降り、居間に入る。




「すまん、準備手伝うよ」




「箸並べてくれ、ご飯よそうから」




あいよ、と返事をしつつ、テーブルを見ると多分漁でとれたであろうカレイの煮つけと、ゴボウやら人参やらのごった煮、あとからあげが並んでいる。


年頃の男子としては、魚ばかりで辛いので、なんとか肉料理をと頼んでいるのである。なのでこれはほぼ自分専用だ。




「お、いいねからあげ」




「お惣菜だけどな、ほらご飯運んで」




キッチンから箸のついでにご飯を持っていく。父さんかは後ろから一緒にお茶も持ってきて、ふたりそれぞれ自分の席に着く。




二人そろって、頂きますと言い、食事を始める。やはりはじめはからあげに手を伸ばす。




そうやって食事をしていると、父さんが口を開いた。




「なんか今日いやにご機嫌じゃないか」




まさか自分の顔に出てると思わず、頬を触ってしまう。




「え、いや、なにも、ないけど」




「あれか、彼女か?いいなあ、うらやましいぞ」




「そんなんじゃないよ、渚と話しながら帰ってきただけだ」




「渚ちゃんか!ほーう」




父さんは何かに納得したように、悪そうににやついた笑みを見せる。




「なんだよ」




「昔は良く遊んでたもんなあ、いやあ?青春だなと思ってよ」




「課外実習の話をして帰ってきただけだよ」




「なんだあ、勿体無い!押せ押せ!」




「何をだよ・・・」






やたらテンションの高い父さんを上目遣いで覗くと、何故だか一瞬だけ優しい顔をしたような気がしたが、またご飯を方張り顔を覗見すると、もとの意地の悪い笑みに戻っていた。




「まああれだ、渚ちゃん、泣かすなよ?」




「だから!そういうことじゃないって」




その後も茶化されながら、ご飯を食べる。かなり恥ずかしかったが、何やら父の機嫌もいいので、たまには良いかと話に付き合う。




「で、いつ挨拶にくるんだ?」




「だから違うって!」




これも親孝行だとおもい。その場をやり過ごすのであった。

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