Chapter 03:とりま戦う方向で





「君は……一体??」


「佐目島 亜希。15歳。

 トラブルに突っ込む癖のあるサメを飼ってるただの女の子だよ」


《そんでおいらが『ディープ・ブルー』。

 トラブルの匂い大好きなサメだぜ〜?》


 笑っているように口元で鋭い歯を見せるディープ・ブルーを一瞬睨んで、亜希はその……妙な格好でスタイルも顔もいいサレナという同い年ぐらいの女の子へ一歩近づく。


「あんたこそなんだよ。

 なんで『インシディアス』が見えるのさ?」


「それは……インシディアス って??」


 ああ〜、とやってしまったと言わんばかりに唸って適当に空を切るよう蹴りを放ち、亜希は再び向き直る。


「この『ディープ・ブルー』みたいなのだよ。大昔遠足で行った奇妙な森で迷って取り憑かれたんだ」


《お互い合意の上だろぉ?

 命があるだけマシじゃあないか〜〜?》


「それもそうだけどさぁ〜〜……ったく。


 で、普段はコイツは私の中にいる。


 だから『潜在する奴インシディアス 』。ちょうど見てた映画から単語はとったんだ」



 と、後ろでサメ━━━ディープ・ブルーを泳がせながら亜希は手短に説明する。


「……こんなものが、この世界にはあるのか……?」


「なんだい、あんたまるでよその星だか世界出身みたいな……


 ……マジ?」


 と、自分で言って、サレナを上から下まで見て、ついでに肩の不思議生物を見た上で亜希はそう理解する。


「君、恐ろしいぐらいに話が早いな?」


「さっきまでコイツと話してっしょ?

 こんな宙を泳ぐサメを飼ってりゃそりゃ……


 やばいしゃがんでッ!!」


 と、そう言った瞬間、サレナがしゃがまなければ確実に頭のあった空間を何かがかすめる。


 ズン、と背後にあったビルの壁に穴が空いた。


「また!?ボクの探知範囲外からグルゥ!?」


「くそっ……!!

 一体どこに!?」


「おいココ日本!?

 微妙にビルの多い地方都市なのに、コレじゃあ中東か良くあるドンパチアクション映画じゃん!」


《つまり俺たちはジョン・マクレーンだなぁ!

 そっちの物陰に隠れたほうがいいぜぇ!》


 と、その言葉を聞いたサレナは、亜希を掴んでほぼ一瞬で近くの廃ビルの入り口に跳ぶ。


「うぉっと!!」


「……ふぅ……!」


「あんた力持ちじゃん」


「魔力で身体能力を強化するのが得意なんだ」


「へぇ……魔法使いってところ?」


「サレナは『魔法少女シールダーサレナ』だグルゥ!

 強力無比な防御魔法と身体強化魔法を駆使して戦う前衛の要と言われてたすごい魔法少女だグル!」


 亜希の疑問には、デフォルメされた右腕を振るってモグルーが答える。


「マジかよ、女児向けアニメの住人ってかい?

 つーかかわいいね、ほれほれ」


「グルゥゥゥ!?お鼻くすぐっちゃダメグルゥゥゥ……!」


「ほら!遊んでいる場合ではない!」


 と、モグルーの鼻をくすぐる亜希の手を払いのけてサレナは亜希へ視線を向ける。


「この際だから、亜希。君に協力を頼みたい」


「協力しなきゃお互い死にそうだしな。

 さっきから殺気が、シャレじゃなくてマジにこっちをずっと注視してる」


「それだ。君に聞きたいことがまずはそれなんだ」


 亜希を庇うよう、自分が道路側に立って外へ顔を覗かせ、サレナはそう言葉を紡ぐ。


「ここにいるモグルーは、魔法生物の中でも屈指の探知能力がある。


 だが、私の敵のハンター・リディアはその範囲外からこちらを狙える」


「ハンターリディア?」


「魔法少女ハンター・リディア。


 『魔獣百体狩り』のハンター・リディア。『頭骨撃ち』のハンター・リディア。『一月殺し』のハンター・リディア。


 異名こそ多いが、要は彼女は『狩人ハンター』。


 遠距離から高貫通魔力弾を放ち一撃で敵を殺す」


「なるほど分かりやすい!

 ……ちなみに高貫通ってどれぐらい?」


「普段は、せいぜい君たちの世界の弾丸程度だが、本気を出せば、」


 ズドンッ!!!


 ちょうど、二人の間の壁に、20センチ程の穴が空いた。


「……もう言わなくていいや……


 いや、だとするともう一個質問があるね。

 まずゆっくり急いでこっち来て」


「そっちは建物だぞ?」


「まぁね」


 ガオンッ!!


 と、鍵のかかった扉のドアノブ部分にディープ・ブルーが噛みつき、サメのような切れ味でもってえぐり取る。


「…………乱暴だな」


「鍵は2箇所の方がいいって事」


 二人は注意しながら建物へ入る。


 雑居ビルの中は上へ続く階段があるようだが、隣へは出れそうにはなかった。


「行き止まりか」


「それは別にいいんだ。

 隠れたのには理由があるんだな、コレが」


「奴にはこっちの位置が分かっているはずだ、危険ではないか?」


「そこなんだよなぁ、そのハンター・リディアさんは、


 そしてコレが一番重要。


 ?」


 え、とサレナが言う中、亜希はディープ・ブルーを背後に従え、外に注視するように鋭く視線を尖らせる。


「適当に撃ったように見せたけど、ディープ・ブルーの鼻は誤魔化せない」


《撃つ時、視線は二人の真ん中を見てるような匂いだったなぁ?》


「そんなこともわかるのか?」


《近づけば、もっと色々分かっちゃうぜ〜〜?》


「で、私達がここに『誘い込まれた』のは十中八九当たってるはず……


 てか、近づいてるぽくねハンター何某?」


《ウワッ!?硝煙みたいな思念だぁ……!!

 それでいてなんの熱もねぇや!》


 クンクンとサメの鼻のあたりを動かすディープ・ブルーは、唐突にトプンと床へ沈むように消える。


「まずいな……そうであるならもう我々はいつ撃たれてもおかしくはない……!

 場所を変えるか……?」


「必要はなし。

 撃たれる前に、


 何、と表情を変えるサレナに、ギザ歯を見せるよう口角を上げて亜希は言う。




「逃げたいのは同じさ。

 だから立ち向かう。


 逃げるときにまず向かうべきは、つまり『相手の方向』へまずは向かうべきなんだ」




 サレナは、亜希のその言葉に言い知れぬ説得力と、嘘偽りなく心からそう思うような冷静さを感じた。


 故に、


「……君、本当になんなんだ?

 頼もしいが、頼もしすぎていっそ恐ろしいぞ……!」


 と、笑っている亜希に思わず言ってしまった。


「サレナちゃんが言ったんじゃん?

 話が早い、って。


 早く済ませるのは得意なのさ、


 と、亜希はさも当然に答えるのだった。

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