End .ヒガンノカナタデ









『拝啓、鳴湫瑞穂様へ──なんて堅苦しい挨拶は止めとこうかな。久し振り。中学を卒業してからだから、十年ぶりくらいかな?高校は三人とも学校も違ったし、連絡も取れなかったからね。今更だけど色々と話したいことがあったから手紙を送っています。










 アンタも知ってる通り、私はあの告白のあと、百々クンと付き合うことになった。私としても予想外だったよ、あんなの。絶対フラレると思ってたからさ。

 でも、予想に反して付き合うことになっちゃって。いや、嬉しかったよ?だって好きな人と恋人になれたんだから。でもさ、アンタの気持ちを考えたら、心から喜ぶことなんてできるわけなかった。だってアンタが百々クンのことが大好きだってこと。私、アンタ以上に分かってたんだもん。熱が下がって学校に来たアンタの顔を見るのが凄く怖かった。もしかしたら、アンタショックで死んじゃうかも、って凄く不安になった。

 なのにさ。アンタ、「おめでとう」って私達の方を見て笑ってさ、流石だなって思っちゃった。』


 







『百々クンは想像してた通り、凄く優しかったよ。私を恋人として慈しんで接してくれた。

 だけどさ。分かるの。百々クンが本当は私のことなんか全然好きじゃないってこと。気のせいじゃないよ。私は百々クンのこと死ぬほど好きだったから、余計に分かるんだ。全然愛されてないってこと。

 いや本当は最初から気付いてたはずなんだよね。見ないフリ、してただけで。告白を受け入れたあの時に、そもそも告白する前から分かってたことだった。だってどう見たって百々クンが大好きだったのはアンタだったんだから。

 でも、私は告白が予想外に受け入れられたのに浮かれて、色んな可能性を見なかったことにした。百々が私の告白を受け入れた本当の理由。そんなの考えたくなんてなかった。

 結局、彼にさいごまで、その理由を聞くことは出来なかったから、これはあくまで私の妄想なんだけど。

 

 多分、私は、彼に、一番やってはいけない時に、一番やってはいけないことをしてしまったんだと思う。後悔しても、しきれない。きっと私がしたのは本当にとんでもないこと。うん、きっとそう。ごめんなさい。ごめん、ごめん、本当にごめんなさい。

 彼はアレで壊れちゃったんだと思うの。分かんない。元々壊れてたのかな。どっちにしても私がきっかけ。私のせい。私の告白のせい。ごめんなさい。

 初めはね。私と付き合うことで、アンタと一番仲の良い私と付き合うことで、アンタが私と付き合うのを止めようとしたのかなって思ってた。でも違った。あの人はもっと、もっと、壊れてた、あの人が本当にしようとしたことは、×××××××××××××××』










『それでも、彼はずっと私の恋人でいてくれた。××××しても、××××だったとしても、だから私は彼を愛してる。××××だって、××××だって受け入れられるよ。×××××××××××××× ××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××』
















『さいごに。

 わたしとともだちになってくれてありがとう。そして、あんたのだいすきなあのひとをあんなふうにしてしまってごめんなさい。もうあえないことがすごくかなしいです。あなたとともだちになれたことも、あのひとをすきになれたことも、わたし、こうかいしてないよ。だから、だから、かなしまなくていいからね








 





















 

 瑞穂。ここまで読んだ?

 僕だよ。久し振りだね。

 僕、待ってるからさ。──県、──町、──に今は住んでるから。


 






 来てね。絶対だよ。

 今度こそ、ずっと一緒にいようね。』


 

 










『 ぜ っ た い に き ち ゃ だ め 。

 に げ て 。



  な る み 』











 ∮





 





 ある日届いた大きめの封筒。

 入っていたのは、長い長い手紙と、殴り書きのメモが書かれたチラシ。

 手紙は所々何かを隠すように鉛筆でぐしゃぐしゃと文字が消されている。













 それを読んで、俺は何が起こったのかを、悟った。

 そして直ぐ様、手紙に書かれた住所へと向かった。














 歓喜に胸を高鳴らせながら。














 ∮








 

 薄暗い部屋。













 

 両手両足一歩も動かせない青年に代わって、彼は実に嬉しそうに、せかせかと忙しなく働いている。














 

 青年の目は濁っており、もう何もうつしていない。























 そんな青年を見る彼の瞳は、かつての青年以上に闇深い深淵を宿していた。


 



 






 

end.

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彼岸の彼方で君に触れ、 夢埜ハイジ @yume_yumerati

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