第14爆弾 アーティニード

 アーティは休み休み進んで行く。どこに進んでいるのか、その先に何があるのか分からないが進む。日が昇ったり沈んだりしないので休みたい時に休み、歩きたい時に歩く感じだ。


 30分くらいは歩いただろうか。周りの景色が少しずつ変わり始めた。根っこから抜かれた木や石ころなどが散乱している。その時、アーティが一歩出すと向こうも一歩出すような音が聞こえた。その音は近付いて来ていた。

 この静かな空間で物音を聞いたのは初めてだ。


「誰?ボム?」


 暗がりから出てきたのは2人だった。男の人と女の人だ。男の人は探検をするような格好で、女の人はどこかに出かけるような服をしていた。しかし、二人の服はボロボロだった。何者かに服を切り裂かれたみたいな爪で裂かれた跡が残っていた。


「君も…ここに飛ばされたのか?」

「うん。次元竜にやられちゃった…」

「そうか…おれたちと同じだな」

 男の人は少し安心したような顔をしていた。他に人がいたことに安心したのだろう。


「あなた、さっきボムって言わなかった?」

 女の人は前のめりに聞いた。


「うん、言ったよ。次元竜に飛ばされる前まで一緒に戦ってたから」

「あの髪が長くて、かわいい顔のボムなのね」

「うん、多分」

 女の人は涙ぐんでいる。


「おれたちは多分その子の親だ。おれはボムの父のクエストだ。そして、こっちにいるのが母のリンスだ。おれたちはボムが小さい頃に次元竜に飛ばされてきたんだ。それでここからどうすれば出られるのか探している途中だ」

「あたしはアーティ。じんぞうにんげん?って言うらしい。人みたいだけど人じゃないよ!」

「人造人間だと?初めて見たな。いやーどういう作りをしているのか調べてみたいもんだな!」

 ボムの父、クエストはアーティにずんずん近付いていく。


「ちょっとあなた。その子も女の子なんだからそんなに近付いたら嫌がるでしょ!」

「あー、悪い悪い。珍しさについ興味がわいてしまって…」

「大丈夫だよ!ちょっと博士みたいだったから思い出しちゃって」

「博士?」

「博士はあたしを作った人だよ!自分の好きなことになると話が長くなっちゃうの。でも面白い人だよ!」

「ふふっ!」

 ボムの母、リンスはおかしそうに笑った。


「あなたと似てるわね!興味があることになると周りが見えなくなる所とか」

「そうか?まあ、確かにな!」


 2人は楽しそうに話をしていた。

「お父さんとお母さんかー。いたらどんな感じなんだろう?2人を見てるとボムはきっと楽しかったんだろなぁって思ったよ」

「アーティの親は博士か。アーティも楽しかったんじゃないのか?」

「そうだね!博士は変人だからいつも面白かったよ!」

「それはよかったな!…ところで今ってボムは何歳なんだ?」


 アーティは少し考えてから「じゅー…よん歳だったかな」と答えた。

「14だって!もう7年も経ってるのか!なんてことだ…」

「7年!そんな経ってるようには感じなかったけど…」

「そうか!ここの時間は経つのが遅いんだな…」

 クエストはぶつぶつ呟いている。


「2人は7年もここにいたってこと?」

「そうね…出る方法が見つからなくって」

「でも君が加わればここから出られるかもしれないよ!」

 クエストは前のめりに言ってきた。


「ただ、出るためにはここの情報を集めなければいけない。それで、だ!拠点を作って、しばらくそこで暮らそうと思うんだが、君におれたちの護衛を頼みたいんだ!君はさっきボムと次元竜を相手にしたと言った。腕が立つんだろう?」

「うん、まあまあ」

「お願いできないかな?」

 クエストは手を合わせて懇願した。


「うーん…」

 アーティは腕を組んで考え込んだ。そして、その時は急に来た。

「いいよ!」


 クエストは喜び、リンスは何とも言えない顔をしていた頃、どこかで動きがあった。

 それは博士の研究所からどのぐらい行ったか分からない名もなき場所。森の中に一軒の小屋があった。小屋には意識を失い寝ている少女がいた。少女は2日ほど眠っている。相当衝撃が強かったのか、中々目覚めない。


 小屋の中は薪をくべられた暖炉で暖かくなっていた。ベッドの上で布団をかけられた少女は少しずつ意識が戻り始めていた。外はぽつりぽつりと降る雨が激しくなろうとしている。その音を感じ取ったか否か、寝ていた少女の目が開く。


 暖かい部屋…。ベッドの感触。木で出来た天井。何だか良い夢を見ていたような気がする。

 わたしはどこにいるのだろう?そう思った時だった。


「やっと目を覚ましたか…」

 優しそうなおじさんの声がした。誰、だろう…?


「あの…あなたは…?」

「俺は名乗るほどのもんじゃねぇ…森の中であんたが倒れてるのを拾っただけの偽善者だ…」

「森の中で…助けてくれてありがとう…ございます」

 少女は軽く会釈した。


「礼はいいが、あんたはどこの誰だ?どこから来て、なんで森で倒れてた?」


 一気に質問が来たので少女は固まってしまった。


「悪い…気になることが多くてな…」

 小屋のおじさんは咳払いをして質問し直す。


「あんた、名前は…?」

「名前…?わたしの名前は…うっ…!」

 突然頭の中にフィルターのように靄がかかる。出てこない。出ないどころか頭痛がしてくる。分からない。自分の名前も素性も。


「大丈夫か?お嬢さん」

「だい…じょう…ぶ。思い出せないだけ…」

 少女は上下迷彩の服を着ていた。


 ――ボムは記憶を失っていた――

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