アーティ編

第13爆弾 アーティナイトメア

 1人の少女は薄暗い場所をただ進む。進んだ先に何があるのだろうか。ないとしても進むしかない。このほとんど何もない場所を。

 一歩進んで右を見る。また一歩進んで今度は左を見る。ガラクタのようなごみしか目に入らない。生き物は自分しかいない。いたとしても人ではないだろう。鬼が出るか蛇が出るか、進んでみないことには分からない。


 周りはピンクよりの赤い色の壁、高い天井の空間だ。その空間は途方もない距離に広がっている。

 少し疲れた少女は座って休むことにした。この少女が疲れることはないのだが、疲れたような感覚があった。彼女は普通の少女ではない。人造人間なのだ。ある博士に作られて身の回りのことを手伝うように言われている。


「はぁーっ…さみしい…な…」


 人造少女はダイヤモンドでできた脚をこんこん叩いて呟いた。三角座りした状態で膝に顔をうずめた。


「ボム…だいじょぶかな?」


 ここの空間は風が吹かず音がほとんどない。だから、声が響いているような気がする。

 ところで、人造少女はアーティと言う名前だ。名前は博士がつけた。アーティは心臓が動いている訳ではないので、心音もない静寂に包まれていた。

 1人になってから数日が経ったように感じた。アーティは食べ物を食べたり、飲み物を飲んだりしなくても生きていける。でも、感覚的に食べたくなったり飲みたくなったりしたくなってしまう。今までがそうだったからというのもある。まあ、それはこの空間に飲食物があればだが…。


 顔を上げて前をよく見ると何かがあった。アーティは何かを発見した。ゆっくり立ち上がり近づいて行った。


「あれ…?」


 それはバケツだった。さらにバケツの中には水が入っていた。

「水だ!」


 アーティはバケツの中を覗き込み「これ、飲めるかな?」と呟いた。

「まあいいや」


 バケツの中に両手を入れ水をすくった。そのまま口に持っていき飲んだ。


「うん、飲める!」


 それからアーティは体のあちこちを見回した。ところどころ汚れが付いていた。

 辺りに誰もいないのを確認すると、着ていた黒地にオレンジ色の模様が入った動きやすい服を脱いだ。アーティの柔肌、いやダイヤモンド肌があらわになった。

 アーティの体にはあるべきものがなかった。人造人間には必要ないと博士が判断したのだろう。なので、体の表面は真っ平らだった。


 再び水をすくい汚れているところにかけた。水を流しただけでもきれいになってしまった。腕から胴体、脚、足先にかけてきれいにしていく。


「あぁー…お風呂入りたいなー…」


 アーティは博士の研究所のお風呂を思い出していた。

 アーティ1人で入ることもあれば、ボムと一緒に入ることもあった。背中を流し合ったり、たわいもない話をしたり、とにかく楽しかった。博士に作られてよかった。今は感謝の気持ちでいっぱいだ。


 水浴びを終えると服を着た。そこから、また歩き出した。アーティは歩きながら木の枝などを集め始めた。集めた木の枝などを積み重ねて寝床のようなものを作った。アーティは疲れなどはないのだが横になりたくなった。

 作った寝床に横になると目が勝手に閉じて眠りについてしまった。


「アーティ、アーティ!起きて!」

「ん……まだ寝たいよ…むにゃ…うん!?」

 アーティは掛け布団をがばっとはいで体を起こした。起きると博士の研究所2階のアーティの部屋だった。


「あれ?ボム、戻って来たの?」

「何言ってるのアーティ。わたしはいつもいるでしょ?どうしちゃったの?」


 ボムは首をかしげて不思議そうな顔をしている。


「そ、そうだよね。いるよね。よかったー…。そうだ!今日はどこか行く?」

「行かないよ。ここでずーっとのんびり暮らすの」

「えっ…ボムがどこにも行かないなんて珍しいね」

「そう?いつも通りだと思うけど…」

「そう言えば博士は?研究部屋にいる?」

「博士は…しばらく帰ってきてないなぁ」


 アーティは少し違和感を抱いた。


「帰ってきてないって、じゃあ爆弾はどうしてるの?」

「爆弾?そんな物騒なものは置いてないよ。というか初めからないし」

「待ってよボム!なんかおかしいよ!博士もいなくて爆弾もなくて、あたしが知ってるボムじゃないし」

「あなたこそ、いつものアーティじゃないよ!だって、わたしとアーティは親がいなくて博士に拾ってもらった人でしょ。恩を返すために博士を手伝ってるじゃん!」

「えっ?」


 アーティが自分の体を見るといつものダイヤモンド肌ではなく人の肌だった。触ると柔らかく温かかった。胸に手を当ててみると心臓の鼓動が脈を打っていた。


「何これ!なんであたし人になってるの?おかしい!」

「何言ってるの?頭まで変になっちゃったの。あなたやっぱり偽物ね!出て行って、ここから今すぐ!」

「あ…あー……あーーーっ!あーーーーーーっっ……!!!」


 アーティは頭を抱えて唸り出した。


「はっ!?」


 アーティが目を覚ますと、ピンクよりの赤い色の空間だった。


「うぅ…嫌な夢、嫌な夢だったな…はぁ…」


 アーティはしばらく座って休憩していた。そして、気合を入れて立ち上がった。


「よし!ここでくじけてもしょうがない!夢の中のボムはどこにもいない!あたしはボムを信じるよ!」

 そう言って、また力強く歩き出したアーティである。

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