お姫様救出RTA、やります。

アルバト@珠城 真

城のバルコニーに王様が現れたとこからスタートです。

「魔族に囚われてしまった姫を助けた者には、金貨一千枚を与えよう!」


 というお触れを確認したらまずは隣町までダッシュ。そこで初期装備を全部売り払い、鉄の剣を入手する。

 ゲームと違って現実世界となったならばスキルよりもプレイヤースキルが重要であり、だからこそレベリングという要素を捨てることが出来る。無論、ゲーム的挙動は当然のごとく利用させてもらうのが走者の嗜みだ。


「ひっひっ、あんさん。姫の居場所ぐわああああ!?」


 路地裏に居る男は魔族なので声が聞こえたら左斜めに後ろに向けて鉄の剣を投擲。怯んでいる隙にそこらにある樽でぶん殴ったら剣を引き抜いて追撃することで処理。死体から手に入る地図は水に濡らすと本当の道が出てくる。これに従って進むことで姫のもとに行けるのだ。

 なお、この仕掛に気が付かずに進むと無闇矢鱈と強いゴーレムに突っ込む羽目になる。そして死んだ後に何処からともなくこの男の声が聞こえてきて「ひっひっひっ、自分の血で見つけ出そうなんてあんたイかれてるねぇ!」と言う煽りとヒントを与えてくる。加えて地図入手しないと姫が監禁場所に発生しないので男の始末は必須だ。


 さて、姫の居場所だが山超え谷越えとステージを進んでいかなければならない。だがそこはRTA走者、一々ステージボスに構うつもりは無いので全力スキップさせて貰う。


「飛行船の料金は銀貨20枚だよ」

「おなしゃす」


 路地裏の男の身ぐるみと鉄の剣を売り払い作ったお金で飛行船に乗る。これで完全に裸一貫になるが飛行船の甲板には棍棒と包丁が置かれてるので回収する。

 飛行船は王国始発帝国行きだ。その途中にある姫の監禁場所は当然ながら通り過ぎていく。ゲームであれば画面がフェードアウトして次の瞬間には帝国だが、馬鹿めここは現実世界だ。30分も待てば飛行船の下に監禁場所が見えてくるので船の端で待機する。


「……ん? あ、ちょっと!? 何やってるんだあんた!?」


 船員の静止を振り払い、飛行船から身を投げた。この時、止めようとしてくる船員の掴み攻撃を弾いて身につけてるキャップを強奪して装備。テテレテッテー! 俺は防御力が0から1にあがった! 走者特有の遊びである。


「ォォオオオオ!!」


 叫びを上げるとプテラワイバーンがこちらに気がついて襲いかかってくる。それに対し棍棒スキルのスマッシュをぶち当てて、怯ませる。棍棒スキルは高い攻撃力に敵を怯ませる効果があるが、そのかわりにリキャストタイムが長いのと命中の反動で自身も反対側に僅かに動いてしまうデメリットがある。ゲームであれば一部のボス攻略以外に使い所はない。

 しかし、再三申すがここは現実世界。リキャストタイムがなんのその、スキル発動中の力の込め方や動作を事前に身に着けておけばリキャストタイムを無視して連発可能だ。このゲームのRTAにおいては必須技能である。


「スマッシュスマッシュスマッシュスマッシュスマッシュスマッシュスマッシュスマッシュ!」

「ガッ、グェ、グェ、ガッ、グェ、ガッ!?」


 スキル名を口にしてるのは気分である。

 上方向から落下してくる俺と、下方向にいるプテラワイバーン。それに棍棒スキルを当てることでプテラワイバーンは怯んで高度が下がり、俺は反動で僅かに上昇する。

 これを繰り返すことで落下ダメージ発生判定を無効化する。大体、秒間4発で3分ほど続ければ安全に地面に降り立つ事ができる。この時、飛行船内の最低ランク棍棒以外の装備で同じことをするとプテラワイバーンが途中で死亡してしまうので注意しよう。後に残るのは地面で爆ぜる君の身体だけだ。


「さてと」


 降り立ったのは監禁場所である廃寺院。

 普通は正面から突入して鍵だのボスだのが存在するのだがちょっと急いでいるので手早く無視することに決める。先程の落下中にプテラワイバーンがもう一匹襲いかかってきてしまったのでタイムが僅かに遅れてしまっているのだ。急げや急げ。


 廃寺院の正面ではなく側面へと向かい、彫り込まれている意匠をとっかかりにササッと上層へと上がる。棍棒を捨てて壁の罅に身体を滑り込ませて内部へ。棍棒があるとそれが引っかかって通れないので気をつけよう。

 隙間の先には監禁室を見張る敵がいるので気が付かれないように包丁で喉元を切り裂いて処理。こいつは兵士タイプの敵なので剥ぎ取れる全ての装備が使用可能だが、時間のロスでしかないので腰の短剣だけ回収する。


 監禁部屋の鍵はボスが持っているが倒していないのでピッキングでこじ開ける。包丁には何故か針金属性が含まれているのでピッキングに利用可能だ。

 解錠した扉の先には姫が居て、現れた裸一貫の変態短剣装備の不審者(俺)を見てビビって逃げようとする。なので入ってすぐ左に向かうことで姫が窓の前へと逃げるように誘導しよう。自分と姫と窓が一直線上に並ぶタイミングを見計らって次の行動に出る。


「助けに来たから歯を食いしばれェ!」

「え、ギャアアアア!?」


 アメフト式タックルを叩き込むことで窓を突き破り一緒に脱出。地面に追突するが、姫はダメージ無効に破壊無効のオブジェクト判定なので無傷である。それをクッションにした俺も当然ながら無傷。


 女の子って、柔らかいんだね。


 小粋なジョークを1つ飛ばして姫を抱えて走り出そう。



 行きはよいよい帰りは怖い。飛行船ショートカットをしたので帰りはステージを逆方向から攻略するハメになる……などと言うことはない。

 姫(最強シールド)を抱えて向かうは帝国方面。王国への帰りには2ステージ超えなければならないが、帝国までは1ステージ。物理的距離ならば帝国が近く、そこから飛行船に乗れば安全に王国へと帰れるのだ。人の足と飛行船の速さ、どっちが早いかなんて言うまでもないだろう。


「キャアア!? キャアアアアア!?」


 抱えているNPC(盾)がうるさいので集中を切らさないように注意しよう。基本的にステージに居る敵は無視するか盾(姫)で弾いて短剣で始末する。

 そして道中で新たな武器を取得。槍と片手剣のどちらを選ぶかは好みであるが、この現実世界は残念ながら命が1つしか無いため安定を取って槍を選択。


「オォォオオオオ!!」


 そしてここのボス、クライム・ウォー・ゴーレムと戦闘に入る。ゴーレムの放つ大ぶりの攻撃はLv30までなら一撃死させる上に物理防御も高いとか言う序盤のクソボスだ。しかし、このチャートで取得している作中最強の盾こと姫さえいれば防御面は安心。二度、三度弾いてやればゴーレムは隙を晒してくれる。


「ほいっと」

「キャアアアアア!?」

「オオオオォォ!?」


 さて、本来では敵の体力ゲージを削って倒すものだが。現実世界となったならば攻略法も変わってくる。ゴーレムには必ず動力源である炉心が存在し、それを破壊すれば機能が停止するのでそれを利用するのだ。

 更にクライム・ウォー・ゴーレムは一定時間毎に炉心を開放してそこビームを放ってくるという欠陥設計をしているので、戦闘開幕時の大ぶりを姫で弾いて、追撃の蹴りを姫で逸し、開いた炉心に姫を叩き込むことで砲身を詰まらせて暴発させることができる。

 暴発後は近づいて武器で止めをさすことでボス戦終了。

 この時、敵の挙動次第では距離が空きすぎて攻撃が間に合わずにゴーレムが再起動してしまう可能性がある。そこは槍のリーチで解決できるのだが、片手剣より火力が低い槍だと敵の体力ゲージがミリ残りしてしまう可能性がある。皆は自分がやりやすい方でRTAしよう。まぁ、現実世界だから炉心の中心部をしっかり捉えれば槍でも大丈夫なんだけどこれが意外と大変なんだ。


「ちなみに飛行船を使うと言ったがアレは嘘だ」


 すまんな諸君。帝国についても出航タイミングを逃すと大幅にタイムロスになるので安定性重視で別ルートを利用することにしたのだ。


 路地裏の男の地図の話は記憶に新しいと思うが、実はあの罠に書かれている道はこの場所へのショートカットなのである。序盤のヒントで4ステージ目のボスにぶち当てる制作サイドの悪辣さは中々のものだが、ゲームが現実となったのであればその悪辣さは女神の慈悲へと姿を変える。


 本来は通常ルートで到着した場合、ショートカットは大岩で塞がれてて二度と通る事ができないのだが現実世界であるならば岩で塞がれようともその先には道があるのは明白。戦闘中のゴーレムの攻撃を事前に誘導しておけば(場合によっては姫の弾きで方向調整してぶち当てることで)ショートカットの開通である。


 ここまで来るともはや姫の活躍は無いのでそこらの薬草を与えて高感度を稼いでおく。あんな扱いをしても数さえこなせば好意をもたれるってんだから、プレゼントシステムが現実世界に実装されていない理由がよくわかる。

 罠ルートを遡り、抱えて移動している間にスリとった姫の装飾品を売り払うことで得たお金を利用して適当な装備を購入。この時、左手の指輪をスってしまうと「お祖母様の形見が~」と言い出して動かなくなるので注意だ。狙い目は金のネックレス。

 そして人々に騒がれないようにそこらの布を姫に引っかぶせて、余ったお金で馬車を乗り継ぎ王城へ。門番の兵士の会話は姫を印籠の如く掲げて行くことでスキップできるので、ゴーレムと戦った時の構えのままダッシュすればOKだ。


「王様、私は無事です!」

「おぉ! おぉ! 姫よ! 帰ってきてくれたか!」


 謁見の間に入場する直前に姫を投げれば王様に駆け寄る距離を縮めることが出来るので全力で投げよう。この時ばかりは姫も五点着地でスマートに進んでくれるので一見の価値がある。ちなみにここで姫(盾)の好感度を上げておかないと着地と同時に不審者扱いで捕まってゲームオーバーするので気をつけてね。


「それでは姫を救ったそなたに褒美を取らそう!」


 金貨一千枚を手にしたところでタイムストップ。クリアタイムは2日と57分35秒、プテラワイバーン二匹目の乱入がなければ3分ほどは縮まってたのが悔しいところ。しかし再走はできないのが現実世界の厳しさだ。


 というわけで金と王国の勇者の称号を受け取って本日は締めとなります。お疲れ様でした。

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