第7話 結論

 気がつくと、小鳥のさえずりが聞こえた。

 一瞬、自分が何をしていたのか分からなかった。

 まだボーッとしている頭をもたげて、初めて自分が眠っていたことに気がついた。

 何かを忘れているような気がした。

 先ほどまで、何か衝撃的な出来事に遭遇していたような気がした。


 小さく伸びをして、窓から外を眺めた。

 外は雨が降っていた。

 窓を少し開けてみると、肌寒い。

 友人は、既視感を覚えた。

 次の瞬間、友人はその正体を思い出した。

 先ほどまで目の前に広がっていた光景……

 あれは……、夢……だったのか?

 途端に友人は居ても立っても居られなくなった。彼が心配になった。

 友人は、着の身着のまま家を飛び出した。


 雨に濡れ、びしょびしょになりながらも彼の家に着くと、友人はインターホンも鳴らさず鍵を取り出して、鍵穴に挿し込んだ。やはりドアは鍵が掛かっていて、鍵を回すとカチャリと音を立てて開いた。

 中に入ると、友人は脇目も振らず、真っ直ぐ階下の書斎へ向かった。

 書斎のドアを乱暴に開け放つと、彼がいた。

 が、ここからが夢と違った。

 彼はナイフを持って、今にも首を切ろうとしていた。

 彼は、突然現れた友人の姿に驚き、固まっていた。友人は、その隙を見逃さなかった。

 次の瞬間、彼の手からナイフが離れ、床に叩き付けられた。

 金属音が書斎に響き渡る。

 その様子を彼は、おもちゃをとられた子供のような表情で見ていた。

 友人は、彼の胸倉を摑んで怒鳴った。

「馬鹿かっ! 君は!」

 彼は友人の剣幕に押され、口をあんぐりと開けている。

「いいか! 君が死ぬ必要なんて何一つないんだ!」

 彼は何か言いたげにしていたが、友人は機先を制した。

「君はあの生徒を……、私の甥を自分のせいで殺してしまったとでも思っているのだろう?」

 彼は目を見開く。

「……知っていたのか?」

 それには答えずに、友人は続ける。

「そこの引き出しにつまらん手紙を残したりしやがって」

「なんで……」

「よく聞け! 私の甥が死んだのは!」

「えっ?」

「なぜならば、私の甥は不意討ちで襲われたからだ。柔道の試合で、甥に負けた相手が逆恨みして、仲間と共に甥に奇襲をかけたんだ。これがどういう意味か分かるか?」

「まさか……」

「そう。甥は抵抗する余裕が無かったんだよ。故に君のせいではないんだ」

「嘘だ!」

「嘘じゃない! 君は知らないかもしれないが、あの後、暴行を加えた少年たちが裁判でそう証言している」

「そんな……」

「だから……、だから、君は生きろ! 生きてくれ! せっかく怒りとも向き合えたんじゃないのか?」

「…………」

「生徒たちの為にも、まだ生きなければならないだろう?」

「……そうだな。何か、ごめん。心配かけて」

「いや、それよりも君が死んでいなくて、本当に良かった……」

 友人は涙をポロポロ溢しながら、心底安心した。


 いつの間にか、冷たい雨は止み、清々しく晴れ渡っていた。

 それはまるで、彼の心を描写しているかのようだった。彼の心に広がっていた厚い雲は幻だったのか、心はすっきり晴々しかった。

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