第6話

すうっと伸びた腕は後ろ手に組まれ、

すらっと伸びた足は強烈に彼女を十六等身たらしめている。

Tシャツの襟元と袖口から、まだ日に灼けていない真っ白な肌が境界線を超えて覗かせる。

いかん、いかんと思いながら俺の目はその境目を追ってしまう。

なんて真っ白な肌なんだ。

箸より重い物を持ったことの無いような華奢な指先には少しだけ伸ばしている桜色の爪が乗っている。

おそらく中学生でも許されるコートを塗っているんだ。

二枚の前歯は大きく真っ白で、その上下にピンク色の小さい唇がフワッと包んでいる。

目は相変わらずウルウル、キラキラして俺を好奇の眼差しで見つめている。

完全にそれは塊になって、俺の脳髄に鉄杭を打ち込んだ。


「ねえ~、なんで私にだけ『頑張ったな』って言ったの?」

「え?」

ドキッとした。

「ねえ~、なんで?」

「なんでって、それは、、、」

「んも~、知りたい~っ」

「だって、、、が、頑張ったじゃないか」

星野彩子は、それを聞いて、両手でいきなり俺の手首を握った。

これはいくらなんでも想定外だ。

「おいおい、なんだ、どうした」

「じゃ、また満点取ったら、褒めてくれる?」

そう言って、俺の手首をさらに大きく振り回し始めた。

いつもなら、「うるせー、一回満点取ったからって、調子に乗るんじゃねぇ、手ぇ~離せ、バーカ」と、

ソコソコにお相手して次の授業準備に入るところなのだが、

「うん、わかった」

なんだ、俺。真剣な顔で返事しちまった。

新中3の子に魔法をかけられてるぞ。

大丈夫か。俺。


結局、春期講習の間、ずうっと彼女は小テストで満点を取り続け、そのご褒美として、ずうっと俺は総括の中で『頑張ったな』と声をかけ続けることになった。

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