第三章 ヒカルのお誘い。緊急事態発生!?

第8話

 俺はINしてすぐに、食堂に向かった。INしたら必ず腹ごしらえをする事にしている。一〇〇%にすれば、三時間は空腹を気にしなくていいからだ。六〇%を切っていたので、今回もパスタを食べた。


 今日は近くの森より向こう側に行こうと思っている。魔王補正がある為、イマイチ自分が何レベルぐらいの強さなのかわからない。そこで行けるとこまで行って、今の自分が何レベルぐらいの強さなのか計ろうとと思った。


 俺は街で刀を装備して、今一度、裏ステータスで確認しておく。

 攻撃力は、長刀の一五と魔王補正の二五を合わせて七五ある。


 武器を両手にしたら武器補正が倍になるかと思ったら、数値的には変わらなかった。たぶんだが、片方ずつ攻撃するという考え方から来ると思われる。


 また盾は、装備しても防御補正はかからない。それは回避扱いになるからだ。盾で攻撃を受ければ、ダメージはゼロだからその考え方は合っていると思う。

 但し盾を装備出来る職業は限られ、防具屋に盾は売っていない。イベントで手にいれるか造るしかない。


 なので俺の様に二刀流にして盾の代わりにする。まだ二刀流で戦った事はないが……。

 勿論、二刀流に出来るのは、片手装備に限る。斧の様な武器では無理だ。


 ステータスには、武器補正が乗っても武器名は載らない。それを知るのにはたぶん、スキルが必要になる。勿論自分の装備一覧では見れる。他人の装備を知りたければ、スキルなどがなければ見れないだろう。

 裏を返せば、そういうスキルがなければ、知られる事はない。


 ポン。

 from ヒカル

 《今、時間ありますか?》


 おぉ、ビックリした。ヒカルからか。

 一緒に狩りの誘いか? さてどうしようか。あまり係わりたくないが、どれくらい強くなったかは知りたいな。


 《大丈夫だけど、狩り?》

 ポン。


 メッセージを返した。


 ポン。

 from ヒカル

 《クエストです。一緒にお願いできますか?》


 クエストならOKだな。クリアしなくてはいけないので、途中で襲ってくるということはまずないはずだ。


 《OK。冒険者ギルドに向かうから待ってて》

 ポン。


 俺は刀をしまい、冒険者ギルドに向かった。


 ポン。

 from ヒカル

 《ありがとう》


 冒険者ギルドに入ると、入り口付近でヒカルが待っていた。


 「ありがとう。助かるよ」


 「もうクエスト受けたのか?」


 「いやまだ。先にパーティー組んでおかないとダメみたいだから。私、五レベルになったから職業クエスト受けようと思って。いい?」


 職業クエストか!

 職業は基本五レベル以上で取得できるようになる。一番簡単なのが冒険者ギルドのクエストで、赤魔法使い、青魔法使い、白魔法使い、緑魔法使い、黄魔法使いの五種類。何故か色になっている。

 これ以外の職業は、イベントになっているので、条件が揃えば発生する。


 「あぁ、いいよ。どれ受けるんだ?」


 「最終的には全部。私、賢者目指そうと思ってるんだ。最初はまず赤」


 「え? 賢者!」


 賢者は、全ての系統の魔法を網羅する魔法使いだ。まあ長くプレイするつもりならいい目標なのかもしれない。どれだけ魔法使いの職業があるか知らないが、全て取得だから先はかなり長いはず。


 「そこまで驚かなくても。エルフを選んでる時点でありえるでしょう? じゃパーティー宜しく」


 俺達はパーティーを組んだ。


 「じゃ受けて来る」


 「おう」


 どれどれ、ヒカルのステータスはどれだけになった?


 ヒカルが言っていた通り、レベル五になっていた。しかし、攻撃と防御が極端に少なく、両方とも一五しかない。


 なんだ? 攻撃と防御が俺の半分?!

 俺、人間が一番弱いと思っていた!


 『なあピピ。エルフって人間より弱いのか? 人間が一番弱いと思っていたんだけど……』


 『いえ。種族によってステータスに偏りがあるだけです。人間はバランスよく。エルフは、魔法系に向いています。彼女が言っていたように賢者を目指す者は、この職業を最初から選ぶでしょう。今は、HPの方が多いでしょうが、いずれMPの方が多くなります』


 そうだったのか。知らなかった。


 『キソナ様。もし料理スキルを獲得するおつもりでしたら、赤魔法使いと青魔法使いの取得をお薦めします。「トロ火」と「飲み水」が取得の条件になっております。他の職業でも取得できますが、職業レベルを上げる事を考えますと、早めに取得出来るこの二つが宜しいと思います』


 そうなのか! さすがピピだ。


 『ありがとう! 勿論料理スキルは、覚えるつもりだから助かったよ!』


 ピピは、嬉しそうに頷いた。


 「お待たせ。じゃ……」


 「悪い! 俺も取得する事にした」


 ちょうど戻って来たヒカルにそう言うと、少し驚いた顔をするも頷く。


 「クエスト受けて来る」


 「いってら~」


 俺はヒカルに伝え、カウンターに向かった。


 「赤魔法使いのクエスト受けたいのですが」


 カウンターのお姉ちゃんに話しかけると、「ご説明はお聞きになりますか?」と問いかけて来たので、「はい」と返事を返すと説明を始めた。


 取得するのには、ギルドで用意した試練クエストをクリアする事。クリアすれば、タード街に戻って来た時に自動的に取得できる。途中で死亡またはクリア出来ずにリタイアした場合は取得できない。但し、クリア後に死亡した場合は、タード街で復活又は戻って来た時に取得する。クリアできるまで何度でも挑戦できる。

 と説明を受け、わかりましたと返事を返すと……。


 「では、五〇Tになります」


 と言われ、お金がかかると知らなかった俺は焦ったが、持ち合わせがあったので払った。残金一五〇Tを切った。青魔法使いも受けると一〇〇Tを切る。

 貧乏だな、俺……。


 「赤湖あかこに向かって下さい。頑張って下さい」


 赤湖か。確か近くの森を越えて進むと、双子の丘があり、その西側に数個の湖があって、それぞれ色の名前だついていた。そこだな。

 俺は、ヒカルの元へ戻った。


 「お待たせ」


 「ううん。何か目指す職業でも思いついた?」


 俺達は冒険者ギルドをでると、歩きながら話す。


 「いや、料理スキルを獲得しようかと思って」


 「料理か。特殊料理作り目指すの?」


 「え?」


 俺は驚いた。まさか魔法茶を作ろうとした事がバレたか?

 ……魔法茶の事は知らないよな? 何のイベントを受けたなんてわからないだろうし。茶葉を持っているのだって知らないはず。

 落ち着け俺……。


 「あれ? 違うの? 一時的に攻撃とか防御とか上げるのとか、魔法防御とかもあたっけ?」


 「あぁ、そっちか!」


 「そっち?」


 「いや、なんでも。俺は、MP回復系な!」


 そうだよな。普通はそっちを思いつくんだよな。


 料理スキルは、空腹を回復する料理、ヒカルが言ったように一時的に強化の付加をする料理、そしてHPやMPを回復する料理がある。

 大抵は、空腹を回復は選ばない。そうそう使わないからだ。


 「MP回復! 作れる様になったら是非売って! 買うから!」


 「え? あぁ……売れるの作れる様になったらな」


 「よろしく」


 ヒカルは嬉しそうに言った。


 魔法茶は、他人に上げられないから他のが作れるようになったらだな。


 「しかしあの色の名前の湖が、試練の場所だったとはな」


 「えぇ! 知らなかったの? もしかしてテスターの時、受けてない?!」


 俺の何気ない言葉に、ヒカルは大袈裟だろうと思う程驚いた。


 「受けてないな。最初から職業持っていたし……」


 「受けない人っていたんだ……」


 やっぱり大抵は受けているよな。

 俺はテスターでモンスター使いを選んだ。名の通り、モンスターを従える事が出来る職業だ。


 『choose one』の世界のモンスターは、動物系でカワイイのが多く、俺はそれだけで満足していたので試練を受けなかった。


 「そこまで驚かれるとは……。結構まったりしていたんだよな。俺」


 「へえ。まあ、テスターの目的半分は、グッドラックランダム入手目的だっただろうからまったりはわかるけど。あの語りのおじいさんのお話は聞いた?」


 『グッドラックランダム』の話は、テスターが始まる前から入手できる触れ込みで、チートが手に入るかもと、テスターは抽選になるほど希望者が多かった。


 そのテスターは世界観を体験が主な目的で、何種類かの職業の中から一つを最初から選べ体験できた。そして、タード街に職業語りのじいちゃんがいて、一〇〇種類もあると言われる職業を語っていた。


 俺も語りを聞いてみた。次もモンスター使いを目指そうと思い、その職業を聞くとまずは一〇〇種類のモンスターを倒し、どこかの仙人からイベントを受けるとモンスター使いになれると語った。


 思ったよりサラッとだった。因みに賢者にも興味があったので聞いてみた。それで条件を知っていた。


 だが一〇〇種類もの職業の条件を覚えられる訳もなく、メモ機能があるもののテスターでしか使えない。イチイチ聞くのも面倒で、結局俺はその二つしか聞いていなかった。


 「あぁ……。賢者とモンスター使いしか聞いてないな」


 「え? 錬金術師とかは?」


 「錬金術師?」


 俺が聞き返すと、ヒカルは目をぱちくりとする。本当に驚いているようだ。


 「え、だって。今、料理スキルの話していたから……」


 『もしかして、錬金術師になると料理スキルが手に入るのか?』


 『はい。錬金術師は、色んなモノを作る職業です』


 俺が突然質問するもピピは、即座に返事を返してくれた。


 「そうそう錬金術師な。それは小耳にはさんでいて……」


 「なのに、錬金術師の話は聞かなかったの? もしかして、取説とか全く読まないタイプ?」


 「……いや、サラッとは見るかな。錬金術師になりたいと思ったのは、こっちをやってからだから」


 別にいいだろうが。少しムッとして答えると、ヒカルはハッとする。


 「あ、ごめん。つい、思った事を言っちゃうんだ、私」


 「そうみたいだな……」


 俺がボソッと呟くと、ヒカルは顔の前で手を合わせた。


 「ホントごめん。気を付けているんだけど、VRは口に出したらそのままだからさ」


 ヒカルは顔の前で手を合わせ謝った。


 まあ入力なら自分の打った文字を見るから気を付けれるが、出した声は取り消せないからな。

 しかし何だろう? テスターの時と雰囲気が違う気がする。まあ数度しか話した事なかったけど。


 「大丈夫だ。別に怒ってないから。そこまで謝らなくてもいいって」


 「ありがとう」


 こうして俺達は、赤湖に向かった。

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