第30話 気付き

 今日の体育はバドミントン。


 体育館の半分を二クラス合同で男子が、もう半分をウチのクラスの女子が単独で使用している。男子は一クラス辺りの人数が少ないので、体育は常に合同。下手をすれば、三クラス合同という時もあるらしい。


「よし!」


 相手のラケットをかすめたシャトルが、そのまま、向こうのコートに落ちる。


 十五対十二。

 これで俺の勝ちだ。


城島きじま、マジになり過ぎ」

「うっせー」


 隣のクラスの佐藤さとうに言葉を返しながら、コートを後にする。


 体育でのバドミントンのルールは、サーブ権は交互、十五点を先取した方が勝ちという、至ってシンプルなものとなっていた。


 五つのグループにそれぞれ分けられた四名が、その中で総当たり戦を行い、最終的に勝率の高い二名が上のグループに、低い二名が下のグループに行く、いわゆる入れ替わり方式がこの授業では採用されており、結構、みんな、真剣に勝負を楽しんでいる。


「お疲れー」


 壁際に移動し、座ると、隣にゆうが腰を下ろしてきた。


 俺同様、今、試合が終わった所らしい。


「強いね、こう

「ま、こんなもんだろ」


 さっきの試合を勝った事により、俺の対戦成績は二戦二勝。このままなら、まず間違いなく上のグループに上がれるだろう。


 ちなみに、現在、俺は五グループ中二番目のグループに所属しており、優は三番目に所属している。


「そっちは?」

「一勝一敗。次が勝負だね」


 そう言うと、優は困ったように笑った。


 バドミントンの授業は、今日が三日目。初めのグループは、名簿番号順に振り分けられたため、優と一緒のグループだったのだが、最初の総当たり戦で俺が上に上がり、優が下に下がって以降は、一度も一緒になっていない。


 ま、一日に二回、総当たり戦が行われ、バドミントンの授業は、まだ今日を抜いても五日も残っているらしいから、その内、一緒のグループになる事もあるだろう。


「なんか、悩み事?」

「は?」


 突然、何の脈絡もない質問をされ、思わず、優の顔を凝視したまま、固まる。


「いや、別にないけど」

「ねぇ、知ってる? 孝って、うそく時、視線を必要以上に合わそうとするって事」

「……」


 言われてみれば、そうかもしれない。少なくとも、無理にらさないようにはしている。


 辺りを見渡し、付近に人気がないのを確認すると、優を手招きする。


 優がこちらに近付き、顔を寄せる。


「実は、ある人から告白されたんだ」

「へー。二人の雰囲気から察するに、由愛ゆめちゃんじゃ、ないよね。なら、会長?」

「……」


 こいつ、エスパーか?


「で、返事は? したの?」

「してない。とりあえず、待ってもらった」

「ふーん。つまり孝は、由愛ちゃんと会長、どっちと付き合おうかで悩んでると」

「そんな上から物言うつもりはねーよ。ただ、告白された以上、早めに答えは出さないといけないとは思ってる」


 その結果、優の言うような選択を迫られるかもしれないが。


「モテる男は辛いねー」


 優が俺から離れながら、からかいの表情をその顔に浮かべてみせる。


「言ってろ」


 視線を、優から体育館の奥へと移す。


 そちらでは、女子がバレーボールをしていた。岡崎がトスしたボールを、江藤えとうが相手のコートにアタック。それが見事に決まる。


 抱き着き、喜び合う二人。


「由愛ちゃん、可愛かわいいよね」

「そりゃ、まぁな」


 可愛い。可愛いよ、岡崎は。だからこそ、悩ましい。


「あ……」


 分かった。分かってしまった。自分が何を悩んでいるのか。なぜ、静香しずかさんの告白を保留にしたのか。その訳が……。


「孝が真剣な思いで出した答えなら、きっと伝わるよ。相手に、その思いは」


 笑顔で、そう俺に告げる優。


 本当にこいつは。何でも見通しかよ。……けど――


「ありがとう、優」

「どういたしまして」


 さてと、そうと決まれば、今の俺がやるべき事は一つ。

 目の前の試合に勝つ。それだけだ。

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