紅茶・緑茶・ほうじ茶・烏龍茶・はとむぎ茶・黒豆茶

エリー.ファー

紅茶・緑茶・ほうじ茶・烏龍茶・はとむぎ茶・黒豆茶

 ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ。

 お茶っ。お茶っ。

 ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ。

 お茶っ。お茶っ。

 暑いとこからやって来て、僕らーの胃袋熱くする。

 誰も彼でも飲み干せば、気づけ百万馬力の大技だー。

 あいつのことーも知っている。

 本当に大好き僕らの仲間。

 ちゃっちゃ、ちゃっちゃ、お茶っちゃ、ちゃちゃちゃ。

 これが日本の宝物ー。

 最初は皆、嫌いでもー、飲めば気が付くポテンシャル。

 湯呑のー中で浮ーかび上がる、君の表情ー。ほーら笑顔。

 相も変わらず、やって来て。

 何もー言わーずに去っていく。

 その姿が僕らは大好きで、何度も何度も助けを呼ぶーさー。

 ちゃっちゃ、ちゃっちゃ、お茶っちゃ、ちゃちゃちゃー。

 本当にー愛している。

 ぼっくらのーヒーロー。

 お茶っちゃ、お茶っちゃ。ちゃっちゃちゃちゃちゃ。


 僕はテレビにくぎ付けだった。

 それもそのはず、お茶マンが出ていたからだ。

 聞いた話だと、そもそもこのアニメは打ち切りが決定していて、その時のプロデューサーがかなり心血を注いで作ったものらしい。ただし、打ち切りというように、人気は初回から圧倒的に低く、誰も見向きもしない児童アニメの典型例となってしまった。

 ネット上でのアニメファンの評価も辛口で。

 そもそも、お茶をヒーローに仕立て上げることに無理がある。

 とか。

 子供向けアニメでお茶というのは理解に苦しむ。

 とか。

 シドフィールドの脚本哲学や、物語の構造上の問題点を解決できていない。

 などの意見が多数を占めた。

 色々、言われていたが単純に面白くないのだそうだ。

 このアニメは。

 僕は、結構好きだけど。

 僕は小学六年生。 

 アニメを見るのは正直なところ趣味でもなんでもない。暇つぶしですら見ないのだ。でも、このお茶マンだけは特別だった。見れば見るほど取りつかれていくのが自分でもよく分かった。

 とても面白いのだ。

 毎日、塾通いの僕にとってアニメやゲームは正直毒そのものだと、お父さんもお母さんも言う。僕の人生にそういう楽しいもの、いわゆる難しい言葉で言えば娯楽物は存在しなかった。

 今だけなのだ。

 今だけ。

 僕は人生において何が必要で何が必要ではないのか、ということ以上に、面白い面白くない、という判断基準を手に入れることができていた。

 嬉しいのだ。

 楽しいのだ。

 このままずっとお茶マンと一緒に生きていきたいと思った。

 それが願いだった。

 お茶マンがいれば、僕はまだ頑張れる。

 お父さんの平手打ちにも、お母さんからの熱湯にも耐えられる。拳で殴られて鼓膜が破れて耳が聞こえなくなり、友達と遊んでいたらこうなったとお母さんに嘘を言わされて、その友達とも疎遠になったけど、生きていける。机に縛りつけられて、部屋から出られないまま過ごした夏休みも全然いい思い出だと思えるし、我慢の限界が来て歯ぎしりのせいで、奥歯が割れてしまったこともあったけど全然大丈夫だ。

 お茶マンがいれば。

 大丈夫。

 お茶マンのことが僕は大好きだ。

「お茶マン。僕は頑張ります。一所懸命頑張るから、僕を見守ってください。どんなこともへっちゃらです。」

 僕はそうやって寝る前にお祈りをして布団を被る。

 そう言えば。

 ネットで見たけれど、お茶マンはもうすぐ打ち切りというのになって最終回を迎えるみたいだ。

 お茶マンはもうすぐいなくなってしまう。

 ベッドの中にはお茶マンがいた。

 僕のことを優しい表情で見つめていて、最後には強く抱きしめてくれた。

 体が熱くなる。

 とっても嬉しかった。

 次の日の朝。

 お父さんとお母さんと、妹が台所で首を吊っていた。

 玄関には。

 お茶マン印が入ったマグカップ。

 僕はそれを震える手で持ち上げると、体の中心にもっていて強く抱きしめた。

 テレビを見ると、どうやらいろんな家で、お父さんとお母さんが殺されたり、学校のいじめっ子が引き裂かれて見つかったり、しているそうだ。

 ありがとう。

 お茶マン。

 でも。

 次の週にはちゃんと打ち切りになった。

 

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