本編 青空に咲く、黒と金

第一章 崩れ落ちていく

本編1-1 開戦の烽火

【青空に咲く、黒と金 本編】――黒銀の聖王&錯綜の幻花


 国を救いたい、国を守りたい。若き王の胸に宿るは、熱き思い。

 彼は愛する祖国を、武力で侵略されてしまったから。

 そんな彼の異名を、黒銀の聖王といった。


 長く生きられなくても、だからこそ、精一杯生きたい。若き族長の胸に宿るは、ささやかな願い。

 彼は二十歳まで生きられないという、宿命を背負っていたから。

 そんな彼の異名を、錯綜の幻花といった。


 絡み合う運命は、王と族長を出会わせる。そして二人で挑んだ数多くの難題。育んだ絆はいつしか、互いをかけがえのない存在へ、相棒へ、半身へと、変化させていく。

 出会いの果てには、必ず死が待っていると、知っていても――。

 これは、島国、神聖エルドキアに伝わる英雄譚。黒銀の聖王と錯綜の幻花の歩んだ、歴史に連なる足跡の物語。


「俺は、王だから。この国を、絶対に守りぬく」

「僕は幻の花。美しく咲いて、美しく散るのさ」

 青空に咲く、黒と金。青空に咲いた、聖王と幻花。

 描かれる美しき物語を、ご覧あれ。


  ◇


【第一章 崩れ落ちていく】――ラディフェイル・エルドキアス

 その年。

「我ら帝政アルドフェックは、神聖エルドキアへの侵略戦を、開始する!」

 一方的に発された宣戦布告、そして始まった侵略戦。

 この世界「アンダルシア」には北大陸と南大陸の主に二つに分かれ、帝政アルドフェックは北大陸の中央に位置する。対して神聖エルドキアは、北大陸から少し南東に行ったところにある島国である。海を隔てている分侵略も容易ではないはずだが、アルドフェックは周辺の国々を侵略によって支配して十分に力をつけたため、エルドキアに攻め入ることが出来たのだ。

 当時の神聖エルドキア王、エヴェル・エルドキアスはこの侵略に対し、断固として抵抗することを宣言した。神聖エルドキアは誇り高き国、神の国。ゆえに、簡単に落ちることなど許されない。彼らには選民思想があった。

 エヴェルはこの防衛戦にあたって、新たな法を発布した。曰く、

「誇り高き我らが民よ、侵略に屈するな、全力で抗え! 命捨ててもこの国を守れ!」

 というものだった。そして国民はその法に従って必死で戦った。もともとエルドキアは神の国と自称するだけあって精鋭ぞろいの国、アルドフェックの有象無象に負けるわけも無かった。アルドフェックは数が多いだけで中身のない国、エルドキア国民は侵略者をそう侮っていた。

 しかし実態は、違ったのだ。


「……オレを、舐めるな」


 突如現れた南大陸から来た傭兵、「隻眼の覇王樹」デュアラン・ディクストリを始め、アルドフェックの武将はもちろん、兵士までもが一筋縄ではいかない相手だったのだ。こうなると後は人海戦術、同じくらいの戦力同士ならば数が多い方が圧倒的に有利。攻めるよりも守る方が有利といえど、エルドキアの優位は完全に消え去った。

 それでも、王は法を撤回しなかった。

 撤回できなかったのだ。誇り高き民の頂点に立つ王が、その誇りを捨て去って降伏することなど。十五歳になったばかりのラディフェイルにだって、それはわかってはいたけれど――。

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