第16話 ゴマモンガラは核をも喰らう

俺の宣言ののち、ゴリウスとブロケードは顔を合わせてアイコンタクトをとり、お互いの意思が同じことを確認した。

口火を切ったのはゴリウスだった。


「わかりました。現状としましては2/3にまで減少した日本人の皆さまは先の空襲がもう一度起きることを恐れて皆国外への移住を本格化させました。ですが6000万人以上の人間を短期間で空輸することもできず、難民の受け入れ先の国もまた難色を示すようになりました」

「なんでだよ!こういう時程助け合うんじゃないのかよ!」

「純日本人の鮫島様には実感が薄いかと思いますが移民、難民問題というのは海外では難しい問題なのです。雇用に対して人があふれることで犯罪率が増加、もともといた人々の仕事を奪う、などの経済的問題が発生し、それが人種差別ヘイトにも繋がるのです。それにゴマモンガラの被害を受けている国はほかにも多くあるのです。米軍基地が駐留している沖縄は日夜激戦が続いていますし東、西シナ海周辺の中国、台湾東南アジアでの緊張も高まっています。幸いゴマモンガラの被害をうけているのはこれらの国とあとはインドあたりですがいつ諸外国に奴らが攻め入るかわかりません」

「クソッタレが・・・・・・そこまでして自分の身が大事なのかよ!!」


こんな時でも自分の保身が大事なお偉いさんのせいで避難が遅れる人がいる。ゴマモンガラに食われて苦悶ののちに殺される人がいる。

それなのに世界は動こうとしない。

自分の身がかわいいから。自分の財産が惜しいから。


「おいおい、確かに君の国じゃあ移民問題は深刻だしボクの国アメリカでも賛否両論だけれどもそんな言い方はないだろう。人数制限を設けているとはいえ受け入れてくれる国もちゃんとある。国連の本音は日本の産業を衰退させないためってのがあるんだよ」

「日本の産業?そんな理由でこの国の人々を見捨てるのか?国連ってのも偉いもんだな」

「それを言われると否定しづらいね。でも日本は対ゴマモンガラの前線基地、エーゴマ隊本部もここにあるし各種研究設備も世界で最も発展している国でもある。それを失ったら人類はゴマモンガラに対抗する牙を失ってしまう。今のところ防衛ラインは守られているけどあのとんでもない増殖力の前にはいつかはジリ貧になるし、さっきみたいに台風に乗ったり飛行したりする個体が大量に出てきたらそれこそ人類はおしまいだ。だからどんなに危険だろうとこの国には戦う人が必要なんだ。ゴマモンガラを研究する機関、それに必要な物資を供給する産業、そしてゴマモンガラを調査するボクらがね」


ブロケードの言い分は納得は難しいものの筋が通らないじゃあなかった。

今はゴマモンガラに先手を取られっぱなしで対症療法的なアプローチしかできていないのが現状だ。

それを打破するにはゴマモンガラたちの情報、しいてはマエコウを知らなければ勝つことはできない。その研究サンプルを手に入れるために日本という前線基地はなくてはならない。

逡巡する心を頭でわかったつもりのような態度で押さえつけて次の話を促す。


「それで、次のGOMAネードの対策とかはあるのか?戦闘機とかレーダーとかは難しいんだろ?」

「やり方が昭和の対戦闘機みたいになりますが対空機銃での迎撃が最も有効な手段といわれています。台風に核兵器を打ち込んでしまえなんて言っている過激派もいるらしいですが正直好ましくは無いですね」

「なんでだ?確かにやりすぎだとは思うけど広範囲殲滅攻撃としては人類最強の武器だろ。それとも核兵器の放射能汚染を問題視してるのか?」


むしろ放射能汚染は人類よりゴマモンガラたちの被害のほうが大きいように見える。それとも漁業権の問題とかで利害関係が発生してまた判断が遅れたりするのか?

それに口を挟んだのはブロケードだった。


「漁業権やゴマモンガラに勝利した後の地球環境の懸念ももちろんあるけれど、ボク的にはあんまりいい手じゃないと思うんだよ。だって奴らはマエコウのお陰であんなに急速に進化を繰り返せるエイリアンもびっくりのクリーチャーになったんだぜ、遺伝情報を破壊する放射線を大量に浴びせたら逆に利用されてどんな悪魔進化を見せるかわかったもんじゃない」

「どんなばけもんだよそれ」

「それに聞くところによると捕獲したゴマモンガラに放射線を浴びせて遺伝子異常を起こしたらドラゴンみたいになって結局拳銃で撃ち殺さざるをえなかったらしいぜ」


なんて進化するんだよゴマモンガラ。ドラゴンとか空想上の生き物だろそれ。

放射線を使った遺伝子組み換えとかは食品などでは使われるらしいが、それをゴマモンガラに適応するとそんな化け物になるのかよ。


「正確にはマシンガンで対応しました。写真と動画がここにあります」


事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、後処理の方法がさらに乱暴になった。

ゴリウスが差し出したスマートフォンを見たらゴマモンガラが悶えながらずんぐりむっくりした体を徐々に細めて拘束を外し、背ビレを拡張、分裂させて薄い翼膜を持つ翼に変え、鋭い爪を持った足を生やして尻尾を伸ばした50cmほどの小型ドラゴンになっていった。

進化するまで1500倍速で1分の動画にまとめられていたので単純計算で約1日でゴマモンガラはドラゴンになる計算だ。

恐ろしい進化速度だ。これでは放射線なんてマエコウを刺激してゴマモンガラを進化させるえさにしかならない。

縛めを外したゴマモンガラは暴れだし、ラボ内を破壊しまくった挙句にサブマシンガンの銃弾をこれでもかとぶち込まれて息絶えた。

確かにそんな悪魔進化する相手に核兵器なんてマエコウを使って逆利用されるだけだ。


「なんだよ・・・・・・完全に別の生き物じゃねえか」

「はい。ですから奴らがゴマモンガラの原型を保っているうちに叩かねばなりません。このままではB級映画みたいになります」

「もうなってるけどね」


ブロケードの茶々が入る。この物騒な話にコイツのおふざけはいい清涼剤だ。

だがその次、俺たち半魚人たちが作られた理由を聞いたとき、絶句せざるを得なかった。


「じゃあ早急にゴマモンガラの実態、マエコウの真実を暴き出さなきゃいけねえじゃねえか」

「だからボクたちエーゴマ隊は作られた。太平洋、ゴマモンガラたちを進化させたマエコウの根源たる小笠原海溝を直接調査して対ゴマモンガラの研究、対策を行う機関。それがボクらエーゴマ隊で、その研究段階として作られ、調それがボクたち半魚人さ」

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