第15話 ゴマモンガラ大空襲

パツキンハリウッド系半魚人がキラキラスマイルを浮かべながら手を差し伸べてくる。

今更ニーナやらゴリウスやら外人の知り合いが急に増える人生だがやはりこういう典型的な海外陽キャとういのはつい反射的に緊張する。

っつかいままであってきたやつらみんな日本語上手えな。

ニーナ、ゴリウスときてラインハルトも相当流暢だ。


「え、ええ。初めまして。ラインハルトさん」

「ブロケードでいいよ。それにボクにとっては初対面じゃあないんだ。」

「どういうことだ?お前俺が気絶してる間に会ってたのか?」


可能性があるとすればGOMAネード前か後か。

あのミスタードーナッツの戦いを思い出す。

俺は最後に黒翼のゴマモンガラに襲われて意識を失いかけ、全身縞々の影に助けられたような・・・・・・

ブロケードの全身に刻まれている文様はそれに酷似している。


「まさかお前があの時俺を助けに来てくれたシマシマのやつか?」

「そんな、たまたまタイミングが良かっただけさ」


ブロケードは金髪を掻きながら笑う。

間違いない、コイツだ。

どうやったかは知らないがあの黒翼のゴマモンガラを倒してくれたのは目の前にいるブロケード・ラインハルトなんだ。


「ありがとう。あの時は本当に助かった」

「いやあ、やっと半魚人仲間ができたってのに窓から飛び降り自殺未遂してゴマモンガラの大群に突っ込んでいったなんて聞いていてもたってもいられなくてね、ボクもゴリウスの隙を見て変装して回収部隊にどさくさに紛れていったって訳さ」

「貴方が余計なことするから我々の気苦労が増えただけですが」


ゴリウスは眉間のしわを寄せて抗議する。

俺たちのテンションとは裏腹に彼は不満そうだ。


「だってかっこいいじゃないか、人々を守るため命を懸けて戦うヒーロー、いやあ憧れちゃうなあ!」

「よせやい、照れるわ」


文化の違いなのか、メチャメチャストレートに好意をぶつけてくるブロケードに押される。

今思いなおすと大局的に俺がやったことは無駄ではないがそこまで意味のある行動ではなかったと思う。

それにあの戦いの前に俺は人間の悪意、半魚人である俺への嫌悪の目も知っているのだ。

それゆえに事情の半分しか知らない彼に言葉が詰まる。

その合間を縫うようにゴリウスは口を挟んだ。


「確かに鮫島様のご尽力であの場の人々は守られましたが、この町筑波は対ゴマモンガラの研究の要であり、人類にとってここ筑波の重要性はかなり高いです。前線の内側の防備は甘いといってもこの地の防備が薄いわけではないので鮫島様も今後はあのような短慮はお控えください」

「あ、ああ」


ついでに怒られる。半魚人は二人そろって問題児扱いか。

俺にとっては命の恩人でもあるブロケードなのだが対ゴマモンガラの要のつくばは結構防備が整っていたり人員も多めに割かれているらしい。

つまりはブロケードは勝手に出撃していたことになるらしい。

ゴリウスからすればやっとできたA-GOMA手術被検体成功例がこうも問題児ぞろい。

勝手にゴマモンガラと交戦しだすやつが2人もいる。それだとたしかに彼のストレスも多そうだ。


「それで話を戻すけど、気絶してたユージは何故か狙われなかった。けどゴリウスもボクもガンガンゴマモンガラに狙われてね。周囲のゴマモンガラを倒すためにかなり苦労したんだよ。ね、ゴリウス。」

「貴方が来なければ守る相手もなくて楽になるので今後はお控えください」

「酷いなあ」


ゴリウスとブロケードの会話に一つ引っかかった。

ブロケードは何もしなくてもゴマモンガラに襲われていると、そう言っていた。


「ってことはブロケードはゴマモンガラに狙われるのか?」


俺は自分から攻撃しない限りはゴマモンガラの被害を受けなかった。

駅のホームでもエキスポセンターでもゴマモンガラたちはチェーンソーをもって堂々と走り出す俺を食べようと襲ってはこなかった。

このことを俺がマエコウに適応して半魚人だったからだと勘違いしていたが、どうやら違うらしい。

マエコウのあるなしにおいてゴマモンガラの敵意の方向性は関係ないということか。


「ボクからすれば君がなぜ襲われないかがわかんないよ。こんな体でいうのもなんだけどアイツら人類の敵だろ?アイツら人間を見たら優先的に食うらしいし」

「本当か?ゴリウス」

「はい。捕獲したゴマモンガラに鉄格子の外から複数種類の餌を与えて、どちらの餌を優先的に捕食するか。といった実験が行われたことがあり、結果から言って生きた人間、人間の死体、生きた動物、次に死体や切り身の順で狙ったらしいです」


実験内容が少し物騒で残虐だったが新情報だ。

映画の影響でサメは自分と同程度のサイズの人間ですらボリボリ食べる獰猛な生き物のイメージが世間的にあるが、サメは実はよっぽど飢えてない限りそんなに人間を食い殺したりはしないらしい。

人間は骨ばっていて食べにくいからだそうだ。

対してゴマモンガラは陸上に進出するわ空を飛ぶわで人間を積極的に襲って強力な顎で骨ごとバリバリ砕いて食べる。

消化コストに対して栄養効率の低い、ありていに言えば『おいしくない』人間を優先的に捕食するのはこの地上で人間が最も繁栄していて、単体としての徒手空拳の戦闘力がそこまで高くないからだと思ったが、そうではなかった。

奴らは悪意と敵意をもって人間を優先的に捕食している。

自らがこの地球の支配者であると、人類を万物の霊長の座から引きずり降ろさんとするため。


「そういえばゴマモンガラども、トビウオみたいな羽が生えてたりしてたのは共通だけど地上で生き残っていたやつらはほとんど人間に進化していたね。」

「ああ、そうだな。正直犬とか鳥とかに進化されてたら勝てなかったと思う。実際あの飛んでるやつには手も足も出なかったしな」


確かに俺が見つけたのもまれに動物型がいたがほとんどは人間をベースに進化した物だった。

この地球の地上でもっとも出会いやすく食べやすい獲物が人間だからやつらは人間を喰らって人間を学んだ。

奴らが地上に進出するための学習教材にトビウオを選択したのはそれが一番海中で食べやすかったから。

そう、そのはずだった。続くゴリウスの言葉を聞くまでは。


「そういえばこの町以外の地域はどうなったんだ?」


あの人間の死体箱詰め電車を思い出す。人間の死をこれでもかと飾った殺戮とグロテスクのショーウィンドー。

あんなのがやってくる時点で異常としか言いようがない。公共交通機関やインフラが破壊されたのは確か、ゴリウス曰く警備が強固なつくばであれなのだ。

少なくともほかの地域はここ以上の被害を喰らっていることは明らかだ。


「あの台風18号、通称GOMAネードは日本関東圏に大量の雨風とゴマモンガラをまき散らして過ぎ去っていきました。台風18号自体は和歌山辺りから上陸したらしいのですがゴマモンガラの多くは関東圏に着弾しました。

「なん・・・・・・だと・・・・・・」


GOMAネードとかいうネーミングセンスに突っ込む暇がないほどの衝撃的事実。

そしてゴマモンガラ共の不可解すぎる行動。

このご時世人間なんて至る所に腐るほどいる。

純粋な食欲や悪意で人間を食いたいのなら上陸してすぐに落ちてくるはずだ。

なのにやつらは人口の集中した関東圏を狙ったとしか考えられない行動をとった。

間違いない。奴らには戦略、戦術的思考能力を持っている、もしくは持っている司令塔がいる。

ゴリウスは話を続ける。


「先のGOMAネードで関東圏は壊滅的被害を受け、人口の10%が死亡または重傷、20%が何らかの2次的な負傷を負いました。首都圏やつくばは自衛隊が間に合って被害は比較的少なかったようですが主に郊外のベッドタウンは間に合わずに都市そのものが壊滅、人口の少ない集落では全滅したとのうわさも流れており、現在調査中です」


あまりの衝撃的事実に絶句して言葉も出ず口をパクパクさせるだけの人形になる。

あの台風一つでそこまでの人が死んだのか?


「どうして未然防止できなかったんだ!自衛隊ってのは、米軍ってのはそこまで無能なのかよ!」

「落ち着いてくれ、ユージ。自衛隊にしろ米軍にしろレーダーってのは金属を探知するものに過ぎない。文字通り雲隠れした生き物を探知できるレーダーなんて存在しないんだよ。さらに台風に紛れたことで目視以外での正確な位置を掴むことも困難になったしヘリコプターや戦闘機も封じられた。我々の完全な作戦負けなんだ。」


まるで政治家の責任追及のように激昂する俺はブロケードの冷静な敗北宣言に静止されて怒りの矛を収める。

それでも納得も理解も追いつかない。あれで?たかだか台風一回で関東圏の10人に1人が死んだのか?


「ゴリウス、彼をすこしそっとしといてやろう。彼は半魚人になってまだ数時間しか経ってないんだ。整理する時間がいるよ」


ブロケードは気を使ってくれてゴリウスを連れて退室しようとしてくれる。

入室の派手さとはうってかわって優しく静かに踵を返そうとするが、俺はそれを引き留めた。


「待ってくれ。全部聞きたい。俺はもう何も知らないまま運命に左右されたくない」


心からの本音。あの海水浴から俺は流されてばっかりだ。もう御免だ。自分のことはせめて自分で悩んで決めたい。


「わかったよ、キミは本当に意志が強いね。これからは少しハードな内容だけど大丈夫かな」

「ああ、覚悟を決める覚悟くらいならついたぜ。どんと来いよ、人類の命運くらいなら背負ってやるさ」


勿論冗談だがそれくらいの覚悟で挑もう。俺はもう戻れなくてゴマモンガラに立ち向かうしかない。

ならとことん戦って奴らを駆逐して人類を守ってやる。

そのためには休んでる暇も落ち込んでいる暇もない。俺の存在意義、何のために半魚人になってどうやつらに反旗を翻すのか。

そのすべてを俺は知らなくてはならない。

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