第41話



 風呂から上がった俺と高井さんは、愛実ちゃんと玲佳さんが上がってくるのを自販機前のマッサージチェアに座って待っていた。


「あぁ~ご~く~ら~く~」


「何馬鹿なことやってんですか……まぁでも……確かにきもちいですね……」


「はぁ……それにしてもやっぱり女性連中は遅いなぁ……」


「まぁ……女性は長風呂ですから……玲佳さんが来たら、とりあえずちゃんと話しをしてくださいね」


「そうだな……そろそろ仲直りしないと……楽しい旅行が台無しだしな……」


 高井さんはそう言いながら、マッサージチェアの隣にある機械を操作する。

 丁度そのときだった、浴衣姿の愛実ちゃんと玲佳さんがやってきた。


「次郎さん、お待たせしました!」


「おう、ちょっと三分くらい待ってて、それくらいには終わるから……」


「あ、良いなぁ~! 私もします!」


「愛実ちゃんも?」


 愛実ちゃんはそう言うと、俺の隣のマッサージチェアに座り始めた。


「あぁ~いい~気持ちぃ~」


「高井さんみたいな事して……」


 しかし、これはチャンスだ。

 高井さんのマッサージチェアの制限時間が来て、機械がストップしたようだ。

 高井さんと玲佳さんを二人にするチャンスだ。


「高井さん、俺愛実ちゃんを待ってから行くので、先に玲佳さんと外見てきて下さいよ」


「え? あ、あぁ……まぁ良いけど……」


 高井は俺がそう言うと、チラリと玲佳さんの方を見ながらそう言った。


「私も良いわよ、ほら行くわよ」


「あ、待てよ!」


 高井さんと玲佳さんはそう言ってその場を後にした。


「さて……俺もあと五分……」


「これで仲直りすると良いんですけど……」


「そうだな……話してみるとは言ってたけど……こじれなきゃ良いが……」


「そうですねぇ……あ、次郎さん」


「なんだ?」


「私の胸は玲佳さんより大きい見たいです」


「……その情報はいらん」


 と言いつつ、俺は隣の愛実ちゃんの様子を見る。

 揺れている……浴衣のせいかいつも以上に大きい気もする……。


「次郎さん」


「なんだ?」


「今見てましたよね?」


「気のせいだ」


「エッチ」


「………すまん」


「もう、そんなに焦らなくても今夜布団の上で揉めますから~」


「揉まん!」





 俺こと高井謙太は現在、恋人の玲佳と温泉街を歩いていた。

 ただいま絶賛喧嘩中の俺たちだが、いい加減仲直りをしたい。


「ねぇ、もう私気にしてないから、そんな離れて歩かないでよ」


「ふぇ!? な、何がだよ!」


 気がつくと俺と玲佳は二メートルほど離れて歩いていた。

 玲佳はため息を吐きながら、俺の方に戻ってきた。


「私も……子供っぽかったわよ……いつまでも意地になって……」


「あ、いや……俺も悪かったし……」


「だから、もうやめましょうよ……あの二人にも悪いし……それに……アンタといつまでもあんな感じなの……やだ……」


 あ……俺の彼女……世界一可愛い……。

 そんな事を考えながら、俺は玲佳に謝る。


「ご、ごめんな……元はと言えば俺が……」


「はいはい、もうそういうの良いから。私、温泉まんじゅう食べたいのもちろん奢ってくれるわよね?」


「……あぁ、もちろんいいぞ」


 そう言って、俺と玲佳は温泉まんじゅうを買いに店に向かった。

 

「う~ん、美味しい~」


「色々あるんだな……お土産も売ってたぞ」


「あぁ、友達にお土産買って行かなきゃなぁ~」


「俺もバイト先に買って行かないと……」


 俺たちは店の中の食事スペースで景色を楽しみながら、温泉まんじゅうと牛肉コロッケを食べていた。


「それにしても……懐かしいわね……前に来たときは高校生だったわね……」


「そうだな……この温泉まんじゅうも二人で食ったっけな……」


 この店は前にも来たことがある。

 まだ付き合って間もない頃だ。

 始めて二人で旅行に来たのがここだった。 そのとき俺は玲佳とある約束をしたのだ。


「ねぇ、あの二人はまだマッサージチェアで遊んでるのかしら?」


「あぁ、そろそろ連絡するか……あいつら何やってんだろ?」


 俺は後輩の岬に電話を掛けようとスマホを取り出す。

 すると、そこで岬からメッセージが来ているのに気がついた。

 なんだろうと思いメッセージを見てみる。


【仲直りして下さい、俺たちは適当にブラブラするので、そちらも適当にどうぞ】


「あいつ……」


「何どうかしたの?」


「あいつらはあいつらで適当にこの辺りぶらついてるってよ……まぁ、俺たちに気を使ったんだろ……」


「あぁ……そう言うこと……じゃあ私達も観光する?」


「そうだな……付き合いたてのあいつらの邪魔をするのも悪いしな……」


「じゃあ、私達も行きましょうか……確か陶芸体験出来るお店があったわよね?」


「あぁ、じゃあいくか?」


「うん、これ食べてからね」


 やっぱり玲佳とは、こういう感じの方が落ち着く……そんな事を思いながら俺は、玲佳を見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る