第40話

「わぁ~広いお部屋ですねぇ~」


「景色も良いし……高井さん中々チョイスが良いなぁ」


 高井さんの用意した部屋に感心しながら、俺と愛実ちゃんは荷物を置いて、少し休憩を始めた。


「はぁ……疲れたぁ~」


 電車とバスの中でずっと座りっぱなしだっため、俺は大きく伸びをした後そのまま椅子に座り、背もたれに思いっきりもたれ掛かった。


「次郎さん、早く着替えないと遅れちゃいますよ?」


「オッケーオッケー……って何脱ぎ始めてるの!?」


「え? いや、私も着替えようかと……」


「なんで俺が居るのに服を脱ぎ始める!?」


「いや、どうせ今夜には全部見られるんですし……」


「そんな予定は無い……」


 俺はそう言って、部屋の襖を閉めた。


「あぁ~ん、次郎さんそんな照れなくても~私今日は勝負下着なんですよぉ~」


「知るか!! 良いからさっさと着替えろ!!」


 俺は愛実ちゃんにそう言い、外の景色を楽しんでいた。

 そして数分後、旅館の浴衣に着替えた愛実ちゃんが頬を膨らませながら襖を開けてきた。

「ぶー……折角の勝負下着が……」


「今日は別に勝負する理由が無いだろ」


「ありますよぉ……はぁ……次郎さんも早く着替えて下さい、時間に遅れますよ」


「そうだな……俺も早く……おい……」


「はい?」


「なんで出て行かないんだ?」


「お構いなく~」


「構うわ」


「あう~……私は気にしないのにぃ~」


「俺が気にするんだよ!!」


 俺は愛実ちゃんと場所を入れ替え、浴衣に着替えた。

 財布やスマホを持って、俺は愛実ちゃんと共に一回のロビーに向かった。


「すいません、遅くなりまし……た?」


 ロビーには既に高井さんと玲佳さんがいた。 相変わらず二人の仲が険悪なのは変わらないが、心なしか玲佳さんの様子が先程よりも怒っているように見える……。


「あ、あの……何かあったんですか?」


「ん……ちょっとな……」


 俺は恐る恐る高井さんに聞いてみると、高井さんは寂しそうな声でそう答えた。

 しかも高井さんの頬は真っ赤に腫れていた。 一体部屋で何があったと言うんだ……。


「じゃ、じゃあとにかく、お風呂に入りに行きましょうか!」


「そ、そうですね! れ、玲佳さんも早く行きましょう!」


「そうね、愛実ちゃん」


 愛実ちゃんに対しては凄く穏やかな視線を向ける玲佳さん、しかし高井さんにはゴミを見るような視線を向けている。

 本当に何があったのだろうか……。





「はぁ……生き返るっすねぇ……」


「……そうだな」


「あの、いい加減その感じやめて貰えないっすか! 一体部屋で何があったんですか!」


 俺は今、高井さんと共に男湯の露天風呂にいた。

 高井さんは腫れた頬をさすりながら、低いテンションで湯に浸かっている。

 俺たち以外にも何人か人が居るが、高井さんが発する負のオーラに皆近寄って来ない。


「はぁ……玲佳……」


「だから何があったんすか……」


「ん……いや、玲佳が着替えてる最中に……抱きついてごめんって謝ろうとしたら……」


「いや、ちょっと待て……なんで着替えてる時にそれをやろうとした?」


「……色々考えてたら、タイミングが……」


「そりゃ怒るわ!! 着替えてる途中で抱きつかれたら、誰だって怒るでしょ!? 女性だったら絶対いかがわしいことされるって思うでしょ!!」


「よくよく考えて見たら、そうだよな?」


「はぁ……それで頬を晴らしてるんですね……」


「変態!! って言われた……俺はただ仲直りしたかっただけなのに……」


「はぁ……じゃあもっと頭を使って下さい」


「頭?」


 高井さんはそう言って、首を傾げる。


「ようは、玲佳さんに昔の約束を思い出して欲しいんでしょ?」


「あぁ……そうだけど……」


「じゃあ、思い出の場所にでも行って、普通に言えば良いじゃないですか……昔こう言う約束したよね? って」


「なるほど……あぁ……でもダメだ! まだダメだ!」


「まだとは?」


「まだ……アレを買ってないからな……」


「アレ?」





 私、石川愛実は今、玲佳さんと露天風呂に使っています。

 玲佳さんは優しくて綺麗でスタイルの良い人です。


「うふふ、愛実ちゃんは岬君が大好きなのね」


「はい! 付き合ってくれるって言われた時はもう……死んでも良いと思いました」


「うん、命は大事にしましょうね」


 私と話しをしている時は、こんなに優しいのに……なんで高井さんと話しをするときはあんなに厳しいのだろうか?


「あの……なんで高井さんと喧嘩してるんですか?」


「あぁ……もしかして岬君から聞いてる?」


「えっと……ごめんなさい……少しだけ……でも何があったんですか?」


「ん~? どうでもいい話よ……ただ旅行の行き先を勝手に変更されてイライラしてただけ……」


「でも……きっとそれだけじゃ無いですよね?」


「え?」


「だって……私が玲佳さんの立場だったらそんな事で次郎さんを怒ったりしませんもん……」


「……そうよね……実はね……最初に行こうって言ってたテーマパーク……付き合いたての頃、一緒に行ったのよ……」


「そうなんですか? でも、それと今回の事にどんな関係が?」


「……そのとき約束したのよ……また……何年後に来ようって……それが今年だったのよ……」


「なるほど……それで……」


「そう……なのにあいつ……そのこと全部忘れて……まぁ、覚えてるなんて思ってなかったけど……悔しくてね……子供っぽいでしょ?」


 私は話し聞いていて、変な違和感を覚えた。 おかしいな……確か一緒に行く約束をしていたの温泉で良かったんじゃないだろうか? 次郎さんの話しでは高井さんはそう言っていたって……。


「あの……玲佳さん」


「ん? 何かしら?」


「高井さんとちゃんと話して見て下さい!」


「え?」


「折角旅行に来たのに、喧嘩ばっかりじゃ面白くないですよ!」


「……そうね……私も子供っぽかったし……そろそろ許してやるかぁ~!」


 玲佳さんはそう言って、大きく腕を伸ばした。

 

「それにしても愛実ちゃん……」


「はい?」


「……おっぱい大きいわね」


「へっ!? な、なんですか急に!!」


「私よりおおきいわねぇ……何を食べたらこうなるの?」


「あ……いや! まだ次郎さんにも……揉まれた事ないのにぃぃ~!!」


 私は玲佳さんに胸を揉みしだかれてしまった。

 玲佳さんって結構お茶目なところもあるんだなぁ……。

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