トラップダンジョンは戻れない

ちびまるフォイ

罠に囚われたダンジョン

「ここがトラップダンジョンか……」

「この最奥にモンスターがいるんだよね」


ギルドから派遣されてきた冒険者たちは洞窟の入り口で息を呑んだ。


なにせ悪名高きトラップダンジョン。

侵入者を拒むトラップがいくつも仕掛けられており

誰ひとり行きて帰った冒険者はいない。


多すぎるトラップにモンスターも引っかかるもんだから、

ダンジョンなのにモンスターが1匹もいないということで挑戦者は後を絶たない。


「大丈夫。道中のモンスターに襲われることはない。

 ってことは、トラップにだけ気をつければ良いんだ」


「そうよね。それにこっちには魔法もあるんだし」

「装備だって整えている」


「ガチガチのトラップをしかけて引きこもっているようなボスが

 歴戦をくぐり抜けてきた俺たちに勝てるわけがない!」


冒険者たちは自らを奮い立たせてダンジョンへと挑んだ。

中に入るなり、坂の上から巨大な石球が冒険者たちの前に迫ってきた。


「勇者! 気をつけて!」

「ハハハ。こんなトラップに当たるかよ」


冒険者たちは大玉をかわそうと通路の凹みに向かう。

と、そのとき足元に仕掛けられていた罠に引っかかった。


「なんだこれ!? ぬ、抜けないぞ!?」


足を取られてしまい身動きが取れない。

みるみる目の前に石球は速度を上げながら迫ってくる。


「なーんちゃって」


勇者は手のひらを前に出すと、強力な魔法で石球を粉々にした。


「あははは! なにがトラップマスターだ!

 いくらトラップを仕掛けようと、こっちに魔法があれば無駄なんだよ!」


「ゆ、勇者……それ……」


仲間の冒険者が震えながら指さした。

石球には液体が中に仕込まれていて粉々にしたことで、勇者に飛び散っていた。


「あ……ああ……」


全身で液体を浴びてしまった勇者はどろどろに溶けてスライム状になってしまった。

それを間近で見ていた冒険者の仲間たちは怖くなってダンジョンから逃げ出した。


こうしてまたそのダンジョンは未開の地としての記録を伸ばした。


誰もが難攻不落のトラップダンジョンを恐れ始めた頃、

村にひとりの男がやってきた。


「私がこの世界でもっともトラップに詳しいトラップキングです」


「以前までは違ったような」

「優勝者失踪により繰り上げキングです」

「大丈夫かなぁ……」


何を隠そう、このトラップキングを呼んだのはギルドだった。


「なるほど、あのトラップダンジョンをなんとかしてほしいと」


「はい。誰もクリアできないとなると、こぞって挑戦する人が後を絶たなくて。

 で、みんな返り討ちにされちゃうもんだから冒険者がどんどん減ってしまって……」


「私にお任せください。トラップのことなら何でもわかります。

 相手がどんなに賢いモンスターだとしても、私には勝てませんよ」


「ああ、それは頼もしい」


「ようはトラップマスターをやっつければいいんですよね」

「そうです」


「では条件が1つだけあります。誰も同行者を連れてこないでください」


「え? せっかく腕利きの冒険者に声をかけたのに……」


「トラップに挑むときに一番の敵は"イレギュラー"です。

 ろくに罠の知識のない素人がうっかり作動させたトラップで

 私の思考が乱されたり仕事が邪魔されるのがもっとも危険です」


「な、なるほど……」


トラップキングはダンジョンの前に向かった。


「本当にひとりでいいんですか?

 仮にたどり着けたとしても、最奥のボスを倒す必要があるわけで……。

 お世辞にもあなたは戦闘慣れしていないでしょう?」


「フフ、そこはご安心ください。なにも面と向かって戦う必要はないのですよ」


キングは入り口付近にあったらトラップの作動スイッチを見つけると

解除するのではなく場所を移動させていた。


「あの、なにをしているんですか?」


「こうしておけばこのダンジョンの主は移動されたトラップに気づかない。

 自分のトラップで自滅させるというわけですよ」


「なるほど! それなら戦わなくても倒せるんですね!」


「罠を信頼しすぎるこその盲点というわけですな」


トラップキングはひとりだけでダンジョンに入っていくと、

仕掛けられているトラップを少しづつ変化させたり移動させたりした。


けれど、全部をそっくり変化させるのではなく部分的に移動させることで

さも「何も変わっていない感」を巧妙に演出した。


「ふふふ、見える……見えるぞ。過信したボスモンスターが

 夜トイレに立った時に自分の罠で倒されている未来が!」


トラップキングは夢中になって最深部へと向かった。

そして、ついにボスのいる最奥に到着した。


「貴様がこのトラップダンジョンの主だな」


「いかにも。よくぞここまで辿り着いたな」


「それじゃ私は失礼する。あんたとやり合う気はないからな」


挑発はすんだとばかりにキングは足早にさろうとする。

それをボスが止めた。


「待て。貴様、もしかしてこのダンジョンのトラップを変えたな?」


キングは顔が真っ青になる。


「ど、どうしてそれを!?」


「そして、仕掛けられたトラップで自滅するようにと画策しているだろう」


「貴様! 私が入っていたときから見ていたのか!

 くそっ、監視されていたなんて気づかなかった!」


「いいや、監視などしていない」


ボスは暗い表情で打ち明けた。




「実は……数年前に同じことをしてここに来たんだけど

 トラップの位置がわからなくなって出れないんだ……」



その後、トラップダンジョンには2対のボスがいるという噂が流れるようになった。

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