第40話 攻撃

『え?なんだって?』

巻上が何か慌てている。パイロットの自衛官と話しているようだ。

『だめだ、すぐに中止してください!これは学術的に貴重なだけじゃなく、セルリアンやサンドスターの解明、ひいてはセルリアン発生の抑制にもなる…え?それは…研究には時間かかりますけど…今すぐなんて無茶な!』

会話の相手は、ここにはいない誰かに変わっていた。

『でも…いや、ですから。ダメです、ダメなんだ…』

巻上の声は、今にも消え入りそうだった。

『総員、直ちに離脱撤収せよ』

男の声だった。アムールトラにも、それが基地司令の声だとわかる。

『既に米軍機による攻撃が決定し、ロナルド・レーガンとグアムから出撃している。到着まで10分。民間人の脱出も順次始まっている。民間フェリーと輸送艦が急行する。フレンズ部隊も5分以内に撤収せよ』

命令にあたって、ここまで説明してくれることは少ない。司令にとっても選択の余地のない苦渋の命令なのだろう。それに、米軍が日本政府を乗り越えて攻撃というのは、いかにも拙速だ。これは最近の世界的なセルリアン発生、例の病気の蔓延と、今回のセルリアン大発生を関連付け、相当な危機感を抱いているということではないか。

「先生、巻上先生!」

アムールトラはインカムに叫ぶ。巻上ならなんとかしてくれるのではないか、という淡い期待もあった。

『残念だけど、撤収しよう。君たちの安全が第一だ。それに、私たち研究者の成果が出るのは、確かに早くても数年、数十年後かもしれないし、もしかしたら成果なんて出ないかもしれない。今までだって、自信ありげに話してきたことは、みんなただの仮説なんだ』

巻上の自嘲が、アムールトラにも伝わってくる。

頭上から、光が差し込む。

「撤収だ、アムールトラ!」

ヘビクイワシのヘッドライトが眩しい。こんな狭い所に飛んできてくれた。アムールトラは脱力の中にも、ほっとするのを感じていた。


撤収は滞りなく行われた。フレンズたちはやはり野生動物だから、規律や訓練を重んじる者は少ない。命令に従うのも、組織や規則ではなく、リーダーのカリスマによるところが大きい。そんなフレンズ部隊だったが、こういうところでは日頃の訓練の成果が出る。

部隊を乗せたヘリコプターが現地を離れた後、後方から閃光が差し、少しして雷のような轟音が聞こえた。

「始まったな」

果たして効果はあるだろうか。これまで、セルリアンに対し現代兵器は役に立たないとされてきた。

「新型爆弾だそうですよ」

機長が振り返って教えてくれた。

遠くの方でも、閃光が見えた。

「キョウシュウチホー、ですか」

「サンドスター火山が攻撃対象か」

この諸島は、ジャパリパークはどうなってしまうのか。隊員たちは不安に苛まれるのだった。

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