第23話 素粒子

「はぁー、こんな素材でサンドスターを封じ込めようだなんて」

巻上はかぶりを振った。

カプセルは、頑丈そうな金属でできている。

「強度が不足しているようには見えないが」

「強度は問題ではないの。サンドスターは、物理学的に見ても、あり得ない物質。情報を蓄積し、質量可変。可塑性。でも、普通の物質でも、素粒子レベルまで分解すれば、それはあり得ない話じゃないのよ。言い換えるなら、目に見える大きさの物質でありながら、素粒子のような振る舞いをする、それがサンドスターとも言えるかな」

アムールトラの頭に、ハテナマークが大量に浮かんでいる様子を見て、巻上はカプセルを指差す。

「サンドスターはね、テレポーテーションできる。遠く離れたペアのサンドスター同士が共鳴したり、一つのサンドスターご二つに分裂したり、一つのサンドスターが同時に二箇所を通り抜けたり。そんなもの、こんなカプセルで捕まえられると思う?」

テレポーテーションできるのが本当だとしたら、捕まえるなんて無理な気がする。アムールトラは首を振った。

「それに…」

「それに?」

「セルリアンが大量発生したのって、事故だと思う?」

「どういうことだ」

巻上は人差し指を立てて意識を集中する。

「いくらサンドスターの密閉実験してて、アンチ・セルリウムに位相変化したとしても、あんなに大量発生するとは思えない。密閉カプセルひとつ作るのに、この施設は大規模すぎるしね」

「わざと、セルリアンを発生させた、と?」

「お、理解早いね。同じ物質なんだから、サンドスターを研究するのも、アンチ・セルリウムを研究するのも、ついでに言うなら、セルリアンを研究するのも、同じなんだよね」

巻上の瞳には、なんの感慨も見られない。ただ事実を、あるがままに話している。そんな印象だ。

「我々、フレンズも?」

「もちろんそうね。ああ、私はフレンズさんには興味ないわ。フレンズ化という現象には興味津々だけどね」

「やっぱりね」

モニターを見ていた巻上がため息をつく。

「急いで消そうとした痕跡があるけど、これ、セルリアン発生メカニズムの研究データね。データの取り方がイマイチだけど、これはもらっていこう」

「研究者たちが幼児返りしてたのは?」

「ああ、あれね。まあ臆測だけど、サンドスターに記憶を食われたんじゃない?」

「食われた?」

「サンドスターは、情報を蓄積するって言ったでしよ。情報はコピーできると考えがちだけど、情報もエネルギーだと考えることもできる」

巻上の口調が、熱を帯びてきた。

「だとしたら、情報の蓄積は、情報を奪うこと。これって、例の病気をサンドスターで治療しようってプロジェクトなんでしょ?きっと彼らの前にも被験者がいて、記憶を奪われたんじゃないかな」

「サンドスター治療の、副作用って…」

これ、なのか。

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