第22話 鬼ごっこ

ヘビクイワシは、アムールトラの切り開いたセルリアンの川を、おずおずとついて行く。

その先には、半ば開きかけた隔壁があった。いや、閉めようとして失敗したのかもしれない。時折、零れ落ちるように、小型セルリアンがまろび出る。

アムールトラが隔壁の縁に手をかけると、めりめりと音を立てて、分厚い隔壁は開いた。

「あれ、見てください」

砕けたガラスの向こうには、カプセルがあった。一部が破れたカプセルの中は鈍く光り、また一体、小型セルリアンが産み落とされた。

「こいつは…」

カプセルの中は、黒光りする物質で満たされている。

「アンチ・セルリウム?」

ドンドン、ドンドン。何かを叩く音。カプセルは、他にいくつかあり、その中から聞こえてくるようだ。

カプセルには窓があり、アムールトラは覗き込んでみる。

「…人間?」

「ここの研究者か?」

セルリアンに襲われて、咄嗟に逃げ込んだのだろう。ロックの解除スイッチは、すぐに見つかった。

「こんにちは!」

「こんにちはー!」

研究者たちが、元気よく挨拶してくる。

「あ、ああ。大丈夫ですか」

「ねーねー、お姉ちゃん、遊ぼう?」

「かくれんぼがいい!」

「じゃあねー、鳥のお姉ちゃん、鬼ね!」

研究者たちが一斉に散っていく。

「お、おい」

「早く数えて!」

「猫のお姉ちゃんも、こっちこっち!」

女性がアムールトラの手を引く。

「いい加減にしろ!一体、どうしたんだ!」

騒いでいた研究者たちがしん、と黙る。次の瞬間、あたりは大人の泣き声で満たされた。

「お姉ちゃんが怒ったー」

「お姉ちゃんの馬鹿ー!」

セルリアンが出てくるカプセルを封鎖しながら、アムールトラたちは弱り果てていた。


「まったく、セルリアンを相手にするより疲れましたよ」

ヘビクイワシが頭の羽をくしゃくしゃにしながら、ジャガーに報告する。

地上に出たセルリアンは多くはなく、ジャガーたちに殲滅されていた。

「この施設は、結局なんだったんです?」

「一応、医療カプセルの実験施設、らしい」

「サンドスターはまだわかるんですよ。なんでアンチ・セルリウムがあるんです?」

「サンドスターとアンチ・セルリウムは、本来同じ物質だという話、ご存知?」

「あなたは」

スーツに身を固めた女性が、ジャガーたちに近づいてくる。

「フレンズ部隊の皆さんね。あなた方のことは1佐から聞いています。私は国立素粒子研究所の巻上です。そうね、最近はずっとサンドスター物理学を専攻してる」

「肩書とか、我々フレンズにはどうでもいい話です。それよりサンドスターとアンチ・セルリウムが同じって」

「手厳しいのね。そう、サンドスターとアンチ・セルリウムはもともと同じ物質。ただ、位相が違う」

巻上は、そのまま施設に入っていく。

「立ち入り禁止だ」

アムールトラが立ちはだかる。

「いいのよ」

巻上はアムールトラの手をひょいと持ち上げると、その下をくぐった。

「通してやれ」

「1佐」

フレンズ部隊の指揮官が、ヘリコプターから降り立った。

「キョウシュウエリアの掃討戦に行っていたはずでは」

「あっちは一段落したからね。こっちが優先」

「一名、巻上センセについてやってくれ」

「アムールトラ!」

「はい」

アムールトラは、巻上の後を追った。

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