第16話 急降下

「うううう…」

急所は外れたようだが、力が入らない。血はダラダラと流れる。

「アムールトラ!アムールトラっ!」

全身が怠く、耳鳴りがする。サイドワインダーの叫びが、うるさくて仕方ない。

「アムール!アムール!」

「うるさいなぁ」

アムールトラはゆっくりと身を起こす。筋肉を収縮させることで、血はほぼ止まっていた。

見れば、グリズリーが向こうに横たわっている。きっと同じようにやられたのだろう。グリズリーほどの猛者がやられるとは。急所が反撃してくるとは思わなかった。棘状の鱗、あれはオオセンザンコウの能力をコピーしたのかもしれない。オオセンザンコウはアムールトラが入隊した後、唯一喰われた隊員だった。

アムールトラは自分の身体を点検する。右腕、右太腿、右脇腹。突き刺された傷が右側に集中しているのは、咄嗟に身をひねって急所を庇ったからだ。走るのは無理だが、まだ左腕が使える。アムールトラの闘志は、まだ健在だった。

「アムールトラ!」

「まだいけるか」

ヘビクイワシが、眼差しを大型セルリアンに向けたまま背中を見せる。

「勿論」

「よし」

ヘビクイワシはアムールトラの肩を掴むと、舞い上がる。アムールトラが傷の痛みに顔をしかめるが、おかまいなしだ。

大型セルリアンはアムールトラたちに一瞥もくれず、真っ直ぐに医療区画に向かっている。時速10km程度、早くはない。しかし木々も薙ぎ倒して、障害物をものともしない。

「サイドワインダーの威嚇にも動じない。斃す以外に止める術はなさそうだ」

「なら上空から石を狙えば」

「石は鱗で覆われている。近づけば刺される」

「グリズリーは」

「息はあった。ヤツは頑丈だからな」

攻防一体の鎧を纏った重戦車。ただでさえ戦力不足なのに、強敵すぎた。

「救援のヘリコプターは」

「あと30分」

「医療区画までは」

「せいぜい5分だな」

医療区画には、動かせない患者もいるという。

「あの鱗、後ろ向いてますよね」

「顔なら鱗はないが、前脚の爪は強力だぞ」

「上からなら」

「行けるか」

ヘビクイワシは高度を上げ、大型セルリアンの頭を抑えた。

「行くぞ」

一気に急降下。猛烈な風がアムールトラの髪を嬲る。ヘビクイワシが手を離す。あとは自由落下だ。

「うあああああっ」

雄叫びとともに左腕を突き出す。狙い違わず、左拳がセルリアンの頭を捉えた。

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