第15話 単独戦

中型にはすぐに追いついた。中型とはいえ、見上げるほどの巨体だ。黄色い肌に、赤い目玉。視線がアムールトラを捉えている。

「やるしかない」

今ここに、仲間はいない。単独でこいつを斃さなければならない。

「脚を」

止める。関節に見える場所に、左フックを叩き込む。が、当たる直前に牙の生えた触手に吹き飛ばされる。

「ぐふっ」

咄嗟に右肘でガードしたが、衝撃は身体の芯まで震わせる。しなやかに着地、すぐに反撃。野性解放したいところ。だが、そういうわけにはいかない。

中型の2本の触手が、同時に振り下ろされる。それをかいくぐり、今度こそ脚に拳を叩き込む。

ぐらっ

中型の上体が揺れる。流れのまま背後に回り込み、目についた突起を掴んだ。鍛え上げられた上腕二頭筋が盛り上がる。そのまま引き倒そうと力を込める。

くわっ

中型の背中が裂け、巨大な目玉がアムールトラを睨む。突起は牙に変わり、目玉の下に開いた大きな口で飲み込もうとする。セルリアンは変幻自在だ。アムールトラは掴んだ牙を起点に片手倒立、中型の頭上に着地。また口を作られる前に石を探す。わしゃわしゃと毛束のようなものが生じて、アムールトラは飲み込まれそうになる。毛をかき分けていくと、そこには石が見えた。

「ここかっ」

どかん

右の拳が石を粉砕。セルリアンは光の粒となって消えた。

「よしっ」

やった。一人で、野性解放せずに中型を斃した。なんでもできるような高揚感が、そこにはあった。


「畜生、来るな、来るんじゃねぇ!」

走り続けるアムールトラの行き先で、何かがぶつかり合う音、叫びが聞こえてくる。大型を押さえているのはサイドワインダー、グリズリー、ヘビクイワシの三人だ。

「今行くっ」

アムールトラは木々を縫うように駆け抜ける。疲れは感じない。

「見えた」

大型セルリアンの一部分が視界に入った。大型を相手にするなら、まずは脚を狙うのがセオリーだ。できるなら関節を破壊する。この位置からなら、左後肢の踝か。

「うおおおお」

「待て、アムール!それは!」

大型の脚に生えた鱗が、突然伸びた。それは鋭い棘となり、アムールトラの全身を貫く。

「うがあっ」

「アムールトラっ!」

サイドワインダーが叫ぶ。

地面に投げ出されたアムールトラは、着地も出来ずに叩きつけられた。

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