Who are you danc with?

Show5

は?異世界転生?ゲームキャラで???

第1話 サービス終了

そこは天使たちを中心とした美しい壁画が四面にわたり描かれた長方形の部屋。

天井はかまぼこのように湾曲しておりそこにはありとあらゆる生き物が苦しむことなくただひたすら幸せを感じ生きている空間――天国――が描かれている。

天使たちに囲われ、楽園へほど近い位置にあるその部屋にはテーブルがロの字型に並べられていた。

そこにしまわれている椅子の数は五十を超え、さぞかしこの部屋はにぎわうのだろうことが一目でわかる。

だが、今この部屋にいるのは一人だけであった。へそを隠すことが出来ない丈の半袖、光を跳ね返し肉付きのいい惜しげもなくさらす半ズボン。そしてその上半身をなまめかしく覆う透明なケープ。それは常に波打ち光の粒を少量だが常に散らし続けている。それらを身に着けているのは栗色の髪を後頭部にまとめた一人の少女。

彼女の名前は「ミゾン」。もちろん現実の名ではない。彼女はここ、「ノンソーロム神殿」を拠点とするユグドラシルでのギルド「アルクシィ」のギルドリーダーである。現時刻はユグドラシルサービス終了まで10分ほどの余裕のある時刻だった。



私は今暇だ。実に暇だ。

あ~~。こんなことになるなら上司に無理言って休暇をとるんじゃなかった。

最終日だから誰かが来てくれると思っていたがそう思っていたのはどうやら私だけのようだった。

ひんやりとしたテーブルに体を預けながらそんなことを思い続けていた。

私が所属するアルクシィはユグドラシル内ギルドランキング97位と中堅。50人を超えるギルドにしては非好戦的であり悪質プレイヤー以外にはとても協力的なため「あの子のギルドは超いい人の集まりだ」と思われ、ギルドランキング60位ほどまでのプレイヤーにはアルクシィ所属プレイヤーはPKをなるべくしてはいけない。とか、あそこのプレイヤーを狙ってPKしたやつは許すまじ。リンチの刑に処すべし。とかいうという不文律がいつの間にか生まれていた。

だが、実情は違う。アルクシィは弱いのだ。それも圧倒的に。非好戦なのは戦えば負けるから。協力的なのは恩を売りたいから。そうでもしないと生き残れなかったのだ。単純な強さならギルドランキングは130位ぐらいが妥当だろう。ギルドプレイヤーのLvが低いというわけではない。Lv100のプレイヤーなら四十人ほどいる。問題は圧倒的なスキルの振り方だ。下手、というわけではない。例を挙げるなら

100の職業をLv1で取得しザ・器用貧乏になったプレイヤーがいた。

聖属性の職業を50Lv分悪属性の職業を50Lv分取得しどちらも十分に生かせなくなった天使と悪魔のハーフ設定のプレイヤーがいた。

すべての職業を周囲索敵に振り、歩くセンサーとなったプレイヤーもいた。

すべてのスキルを防御系に振り、さらに重量オーバーになるほどの大盾と鎧を装備して動く壁と化したプレイヤーがいた

つまりアルクシィはネタプレイヤーの集まりなのだ。

ミゾンももちろんそれ例に漏れない。

アルクシィが二桁のいるのはひとえに「彼」がいてくれたおかげだった。

「彼」はアルクシィ唯一といっていいほどの戦闘特化だった。

格闘系をメインに剣士系の職をとっていた彼は火力は同レベル帯の前衛に比べれば低かったがそのフットワークの軽さで多数の敵を一手に引き受けることが出来た。

ネタプレイヤーといえど戦えないものはほとんどいない。そのため攻撃さえ来なければ安心して戦うことが出来た。

「彼」のことについてさらに思い出しそうになったが胸の奥に刺すような痛みを感じて取りやめる。

この痛みは罪悪感によるものだ。なぜならアルクシィのために一番といっていいほど尽くしてくれた「彼」がユグドラシルをやめる理由を作ったのは私だ。

思い出すまいとしようとしたがこの痛みがあれば連鎖的に思い出してしまう。だからここからどこか別の場所に移動しようと考えるが自分の犯した罪から逃げるように思えて自分を侮蔑する。だがここにいても思考がループするだけなので椅子から立ち会がり会議室正面にある両開きの大扉の前で振り返る。

アルクシィのメンバーが集まるときは必ずといっていいほどここに集まった。

50以上のメンバーが全員席に座っていたことは本当に楽しかった。今日は何をするか、手に入れたアイテムを何に使うか、こんなネタ編成にしたいがどうすればいいか、上司がうすさくてかなわないとか。そんな光景を思い出すたびに笑みが深くなる。そんな会議て時々激しく意見がぶつかり合う時にフォローし、最終決定をするのが私の仕事だった。だが私一人の判断では常に不安だった。だから決定の前にはいつもとなりに座っていた「彼」に確かめた。そして彼はいつも黙ってうなずいてくれた。「彼」の事を思い出しても嫌にならならないということは本当に楽しかったのだろう。

足をそろえ、手を伸ばし深く一礼する。

「ありがとうございましたっ!」

こっぱずかしさを感じるが最後だから別に構わないだろう。私以外誰もいないわけだし。

すがすがしい気持ちで会議室出たのはいいが一つ困ったことがあった。本来の予定はみんなとの思い出がたくさんあるあそこでサービス終了を迎えるつもりだったがその予定が狂ってしまった。会議室以外に気持ちが締まるところといえばノンソーロム神殿の最奥にある謁見の間だがあそこに一人でいても寂しさしかないだろう。

仲間たちとともに作ったNPCを引き連れてもよかったが決めてある理想の位置から動かすのは仲間たちを裏切るような気がしてできなかった。皆がいなくなってから設定などを読むことぐらいしかなく設定を読み漁りそこそこ設定を覚えているからなおさらだ。それならいっそのこと正面入り口で終えようかと半分真面目に考え付いたころには謁見の間にたどり着いていた。

ノンソーロム神殿は階段状に上に階が二階ごとに重なっており一の段で一階と二階。二の段で三階と四階。三の段で五階と六階。そして四の段で七階と八階という作りになっている。一から三の段は侵入者排除のために、四の段は居住スペースになっている。そして珍しいことにノンソーロム神殿には外がありそこで作物などが栽培できるようになっている。

謁見の間はノンソーロム神殿の八階にある。というか八階には謁見の間しかない。

ここまで来て一階に出るのはめんどくさいからとりあえず扉を開ける。

そうした私の正面に見えるのは一段高いところにある椅子だった。その手前には床につくほど長いヴェールが垂れ下がっており、さらに椅子の後ろから太陽光のようなもの――ノンソーロム神殿は異空間にあり太陽はない――が常に差し込んでおりシルエットしか見ることが出来ない。あそこは見た目から教皇椅子とギルドメンバーが呼んでいた。話し合いは会議室で行っていたために私があの椅子に座ったことがあるのは数度しかない。

床には扉から教皇椅子へと続く赤と金を基調とした豪華なカーペットが一直線に敷かれていた。それ以外に特に装飾はなく白の大理石が敷き詰められているだけだった。

カーペットに沿って歩き半透明のヴェールの前に立つ。このヴェールは特殊能力が付与されておりここを管理するギルドマスターとギルドマスターが許可したものしか意図的に動かすことが出来ない。ギルドマスターの許可も一時間で切れるようになっている。もちろん攻撃による破壊も可能だが相当な耐久値がありヴェールに超位魔法を同時にぶつけられない限り奥の椅子に座っているものは逃げるだけの時間は稼ぐ事が出来るだろう。

段差に足をかけ、右手でヴェールを横によける。ギルドマスターである私の行動は当然阻害されない。逆光から解放されようやく詳細を見ることが出来た椅子はこれ正に今日のための椅子という感じだった。座面は美しい刺繍があしらわれたクッショ足に肘掛けや足には金箔があられておりさらにありとあらゆる宝石で装飾されている。

やわらかさを確かめるように一度クッションに右手をを押し付けて後はスルーする。こんな思い入れのないところでユグドラシルを終える気はない。

私が向かうのは教皇椅子の真後ろ。背もたれの裏を視界の正面に収め、視線を下す。そこは大理石がただ敷き詰められているただの床。そんなところに私は右手を押し付ける。たとえギルドメンバーがやっても何も起こりはしない無意味な行為だが私は違う。押し付けた手に反応し一部の大理石が砕けたガラスのように消滅する。できた穴には暗闇と底へと続く階段があった。私は迷わず歩く。アイテム欄から永続光コンティニュアル・ライトが入ったランタンを取り出す。別に闇視ダーク・ヴィジョンなどをかけてもいいがこれは雰囲気だ。

サービス終了まであと三分ほどになった時ようやく底が見えた。両の足が底につくと自動的に明かりがともる。こうなるとランタンはいらなくなるのでアイテム欄に戻しておく。

底にあった空間はテニスコート一面分より広いぐらいだった。ここは今までのノンソーロム神殿と違い装飾が一切ない。例えるならコンクリートを打ちっぱなししたようなところだ。そんなここの存在意義を示すものが壁にあった。

の正面に胡坐をかいて座り込む。は女性だった。肘より先と膝から下を壁に埋め込まれ全身を鎖で縛られている。高さ三メートルほどの高さに埋め込まれた彼女は夕焼けよりも美しい赤髪をもち、それは床まで垂れていた。目は閉じ、眠っているかのような無表情な彼女だが今まで出会ってきたどのキャラクターよりも美しいのはわかった。

偶然ここを見つけた時に彼女のことを知ろうと使える限りの鑑定、捜査系の魔法スキルを使ったがすべて拒絶された。ここへは私以外はいることが出来す、一度私が明けて鑑定全振りのプレイヤーに来てもらおうとしたが見えない何かにはじかれ残りHPが1になった事件があったため諦めた。

なら、と神殿内にある図書館で彼女についての記述を探そうとしたが一行たりとも彼女のことは書いてなかった。壁を砕こうも攻撃行為が一切禁止されており触れることすらできなかった。だが彼女に私は惹かれた。だれもギルドメンバーが来なくなった最近はずっとここに居ることも珍しくなかった。

時計を確認するとサービス終了まであと四十秒。アイテム欄から杯二つとお銚子を取り出す。

杯になみなみと酒を注ぎ片方を彼女の下へ置き、もう片方は口元へ。

酒をあおり一気に飲み干す。終わりという言葉にナーバスになっていた気持ちが若干すっきりしたような気がした。それと同時に能力強化バフを示す効果が表示されるが気にしない。どうせすぐに無意味になるのだから。

あと十秒。

杯に向かってお銚子をひっくり返す。酒が溢れ、光を反射しながら落ちていく。

壁の彼女を見つめ。さらに水面にも彼女を映し、二人の彼女を拝む。

四、三、二、・・・・。

「アルクシィと貴女に栄光あれ」

一。

心からそう思い杯を傾けた。




零。 




この瞬間は終了した。

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