AV

#5




 高層階の窓を背にしたソファーには、リエが座っている。レースのカーテンがかかった窓の向こうには隣のビルの高層階と、その向こうの青い空。

 身体のラインの見えるベージュのツーピースのスーツに、白いカットソー。デコルテにはシンプルな銀のネックレス。有能なビジネスウーマンの装いのリエ。


「それで…ひとりでしちゃうのは好きなの?」


 今は見えない男性の声に、リエは照れ笑いを浮かべる。


「好きっていうか…」

「ホントは彼にしてもらうより好きなんじゃないの?」

「そんな…」

「こうやって聞かれるだけでも、ドキドキしちゃうんじゃない?」

「……少し…」


 リエはうつむいて、目をそらして答える。


「ドキドキさせられちゃうの、弱いでしょ?」


 男性がソファーに座るリエの後ろに入ってくる。

 彼は際どいビキニブリーフの黒いショーツをつけ、良く陽に焼けた上半身を裸のままでいる。

 リエはそのセクシーな彼から目をそらす。


「ひとりエッチの時は…お道具つかうんじゃないの?」


 彼はソファーに座るリエの肩に手を置いて、そう聞く。


「そんなの…」

「何持ってるの? ピンクのちっちゃい奴?」

「ちがいます…」


 彼の指が、肩からリエの首筋に移る。


「なに? もっと大胆な奴?」


 その手が首筋の素肌から、襟足の髪の中に入ってゆく。


「分かった。オトコのアレのカタチした奴でしょ?」


 リエは首をすくめる。ジワジワとした言葉による責めと、柔らかな指使いに、身震いする。

 彼の指はその気配を敏感に捉え、うなじから耳へ、滑るように移動した。


 はぁ…っ…


 リエの口から、短い吐息が漏れる。リエは唇を噛んで、その息を殺そうとする。


「違い…ます…」

 眉を寄せ、精一杯の拒絶をしながら、リエはそう答える。


「なら、どんなの?」


 彼の指が、敏感になってしまった耳の中に入り、そこをやわらかく刺激する。

 リエはイヤイヤをするように首を振ってから肩をすぼめ、その感触に耐える。


「持ってない…です」

「嘘だね」


 彼は身をかがめると、リエのセミロングの髪を掻き分け、形の良いその耳を露出させた。そして身をかがめると、その前歯で、リエの耳を甘噛みした。


 やぁ…んんん……


 リエの口から、甘えたような声が漏れてしまう。

 眉を寄せ、唇を噛み締めても、耐えられない吐息が、彼に聞かれてしまう。

 彼の舌が、リエの耳の中をソフトにねぶる。チロチロと戯れて、その耳たぶに前歯を立てる。


 ひやぁぁ…


「教えて…どんなお道具?」


 低いバリトンボイスが、リエの理性を溶かすようだ。

 リエは前歯で下唇を噛む。

 甘い吐息が漏れてしまわぬように。卑猥な声を聞かれないように。

 彼は舌をリエの耳の穴の中に入れてきた。ぬめる柔らかな舌が、デリケートなリエの耳を責める。


「どんな…」

 熱い吐息を、その穴に吹き込んでくる。「―――道具なの?」


 んんん…。


「…歯ブラシ…電動の…」

「あぁ…」




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