#4





 ●





 部屋のブラインドからは、夜の街の灯りが差し込んでいる。

 床に敷かれたラグに、その灯りが縞模様になっている。


 気付いた時、エリはベッドに寝かされていた。

 男がシャツを羽織っている後ろ姿が見える。

 その肩から肘にかけて、不思議な熱帯の植物の文様のような刺青が見えた。


「それは…なに?」


 エリの立てた声に、男が振り向く。

 そして一言、


「モンステラ」


 と答えた。


 モンステラとは、何だろう。

 エリには分からなかった。

 それはなに、と聞こうとしたけれど、男は上着を羽織って部屋を出て行こうとしていた。


 そんな、急に。

 エリは焦る。

 今までの男たちとまるで違うやり方に、心が追いついてこないのだ。


 男は振り返らずに部屋を出ようとした。


「また会える?」

「さぁな」


 そっけない声が背中越しに戻ってきた。

 エリはその先に続けるべき言葉を持たなかった。

 何故なら会いたがるのは常に男たちの側だったから。エリはそれをあしらうことしか、知らなかったから。


 男が部屋のエントランスへ向かって歩き出した。


「名前は?」


 エリが必死に絞り出したのは、そんな質問だった。

 男が振り向く。

 そして、エリを見つめる。


 あの目で。

 あの、時を止めてしまう瞳で。


「モンステラ」


 そう、呟いた。

 そして二度と振り向かず、部屋を出て行った。




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