第13話 夏祭り花火ガチ勢の喜憂

 水薙に連れられ、水薙の住むマンションの屋上についた。水薙の部屋に行くと思いドギマギしていた僕は肩透かしをくらった形だ。


「さあ、先輩ここで私たちの悲願である『愛の囁きが花火の音で掻き消される例のアレ』を実行しましょう」


水薙が前回の内容を覚えていない人にも優しくこれからしようとしていることを教えてくれた。そしていつの間にか『愛の囁きが花火の音で打ち消される例のアレ』は勝手に僕の悲願にもされていた。


「プログラムによると、あと5分、秒に換算すると300秒で花火が打ち上がります」


スマホの時計だった微妙に誤差が出るとかでやけにごつい時計を片手に持ち凝視していた。


「あと2分半、秒に換算すると150秒後に私は先輩に向けて語らい始めますので先輩は変に気取ったツッコミとかしなくていいので適当に相槌でも打っててください」


「ん、わかった。今まで変に気取ったツッコミした記憶はないけどわかった」 


今までの僕のツッコミ、変に気取ってたかな?てか、事前に注意しとかないとツッコミされるような内容なの?


「私は昨晩、1時間半、秒に換算すると、えーと、540秒かけて2分半ちょうどで愛を囁く練習をしました。失敗はしません」


秒に換算するの気に入ったのかな?1時間半は5400秒だけど。


「花火が鳴ってから1秒、秒に換算すると1秒後に先輩は『え?なんだって?』と言ってくださいね」


「わかったけど、何も換算されてなくない?」


なんかもう換算を言いたいだけだよね。ちょっとカッコいいけどさ、換算。


「先輩、本番ではそう言うツッコミなしでお願いしますね。先輩にツッコまれると字面で興奮しちゃうんで」


字面で興奮とは?今までも僕がツッコミを入れるたびに興奮してたの?と、ツッコミを入れたい気持ちを僕はグッと飲み込んだ。


「わかった、努力する」


もう今回は水薙に完全に主導権を委ねよう。はしゃいでる水薙は可愛いし。


「私のわがままに付き合ってくれてありがとうございます。先輩、愛してます」


え、もう愛の囁きしちゃうの?と、思ったけど必死に飲み込んだ。このくらいのこと、水薙はしょっちゅう言うし本番はもっとすごいこと言うんだろう。


「では時間になったので語らい始めますね。私と先輩が付き合い始めてからどれくらいの月日が流れたでしょうね。秒に換算は、流石にできませんね」


秒に換算ここにも入れてくるのか。僕は適当に頷いといた。


「初めて先輩と会ったのは今でも鮮明に覚えています。下校の電車で痴漢にあったときは私の勘違いですから違って、次の日の放課後ですね」


僕は水薙と初めて顔を合わせたのは水薙が告白してきたときだと思ってた。しかし、どうやら違うようだ。


「痴漢から助けてもらったときは恐怖やらなんやらで何も感じもしなかったですし何もできませんでした。なので翌日改めてお礼にと思って先輩の教室を訪ねましたが運悪く会うことは叶いませんでした」


この辺疑問なんだが、どのタイミングで水薙は僕を痴漢から助けくれた人と勘違いしたのだろうか?いずれ機会があれば聞いてみよう。


「ただ帰りに先輩の下駄箱を見たらまだ靴があったのでそこで待つことにしたんです。待っている間することもないので先輩の下駄箱にある靴を眺めてました。そしてちょっとして気づいたんです。私、濡れてるって。勿論下の話ですよ」


「な、」


思わず「なんで⁉︎」とツッコミそうになってしまった。普通に意味不明すぎて怖い。勿論の意味をちゃんと理解してるのかな?


「自覚したら止めれませんでした。最初は少し触るだけ匂いを嗅ぐだけと抑えていましたが最終的には舐めていました。そこまでいくととてもじゃないですけど先輩に会えるような状態でなかったので仕方なしにと撤退しました。あれ?これ私先輩本体に会ってなくないないですか?」 


それに気づいたなら何故、練習の時点で変えなかった?笑うところだったの?とりあえず、鼻で笑っとこ。 


「そんなこんなで先輩に興味を持った私は次の日から、ん?あ、もう時間ですね。虚実入り交えた与太話はこの辺にしといて本題に入りましょうか」


え、ぐだぐだが過ぎない?本当に練習してきたの?虚実入り混じってたの?とりあえず、濡れちゃったの件を虚だと信じておこう。水薙の持つ時計に目をやると時刻は6時59分53秒。テンカウントを既にきっている。


「…先輩、僭越ながら言わせてもらいます」


5秒経過、59分58秒。


「ふふっ」


水薙が謎の笑いをこぼす。1秒経過、59秒。そして、 


「先輩、先輩とまぐわいたいです」 


水薙のあまりに赤裸々な愛の囁き(?)が炸裂する。そして、花火はならなかった。 


「え?なんだって?」 


水薙に指定されたこの文言が僕の言いたいことは一致していた。意味合いは微妙に異なってしまったけど。何故か水薙はドヤ顔だった。君、失敗したんだよね? 


「せんぱ」


水薙の発言を拒絶するようなタイミングでようやく花火が轟音ともに空に咲く。水薙の時計を見ると現在時刻は7時00分06秒。誤差としてはたった6秒。この程度の誤差を花火の主催者側に文句を言うのも酷な話だろう。僕も普段なら気にしないし気付きもしないだろう。


「えーと、水薙。ここの花火って手動なの?」


先程の発言を掘り返す勇気は持ち合わせていなかったので適当に話を逸らす。


「機械でだったと思います。ただここの花火は地元ラジオのカウントダウンともにドカンですからラジオのカウントダウンが遅れたのかもです」


なのほど、それがわかっているのなら自力で時間計らないでラジオを聴いてそれに合わせればよかったのでは?


「あ、先輩先輩、先ほどの愛の囁きどうした?」


あんな直情的な囁きを聴かれても水薙はノーダメージそうだった。むしろ生き生きしてる。痴女かな? 


「ノーコメントで」


どう答えても絶対変な感じになるし沈黙それが答えかと。冷静になると水薙は直前にもっとヤバいこと語ってるし、ある程度僕もセクシャルなことに積極になるべきかもしれないけど。


「先輩、彼女が夜に家の屋上であんなこと言ったんですよ。少しは察してください」 


水薙は呆れたような拗ねたような雰囲気を笑顔に含ませて言った。やはり僕は奥手になりすぎて彼女の真面目なセックスアピールを見逃していたらしい。 


「ごめん、水薙。えーと、僕も同じ気持ちではいるよ」 


なんて話を持っていけばいいのかわからず、どうしても不自然な返答になってしまう。


「え、先輩もそんなアブノーマルなプレイを⁉︎」


「違うよ⁉︎」


もっとピュアな感じかと思ってたけど違った。靴で濡れたと語った彼女の思うアブノーマルなプレイとか絶対ヤバい。


「そんなぁ、先輩もポゼッションプレイがしたいんじゃなかったんですか」


ヤバい、彼女の口から未知なるプレイが飛び出してきた。ポゼッションみたいな英単語を習ったような気もするけど覚えてなかった。


「もう少しだけプラトニックに考えて」


やっぱり僕の彼女は痴女なのか⁈マジか、こんな可愛い痴女ウェルカムだわ。


「プラトニック?意味はよくわかりませんがどんな性癖でも私は受け入れますよ。プラトニック…プラトンみたいなプレイでしょうか?イデア論ですか?エロースなんですか⁉︎」


おっと、暴走機関車水薙帰ってくるの早いな。


「プラトンは詳しいんだ」


プラトニックはわからないのに。どうして水薙の知識はこうも偏っているのか。


「とにかく御主人様が望むなら不肖この水薙、なんでもします。犬にでも椅子にでもなんでもなります!」 


御主人様呼び前回しなかったし徐々にフェードアウトさせてく習慣かと思ったけど復活するのね。前々から疑惑はあったけど水薙ってMだよね。


「僕も水薙とならどんなプレイも受け入れるけど最低限人間の彼女彼氏の関係は維持したいかな」


そもそも童貞には特殊なのは荷が重すぎる。


「く、この火照る身体をどうしたらいいんですか」


「え、だからもっとソフトに」


僕だってこんな可愛い彼女が前でセクシャルな話して若干前屈みであって、僕と水薙の利害は一致してる筈なのにどうしてこうも話が纏まらない。 


「こうなりゃ先輩、これから私の部屋にいってヤりましょう」


「え、ああ、はい⁉︎」


この後2人で水薙の部屋でめっちゃス◯ブラした。…なんで?

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