第11話 tapioca'

「先輩、おじゃまします」


デートから数日後、水薙が僕の家に来た。デートの時にした手料理を振る舞ってくる約束を果たしにきてくれたのだ。


「いらっしゃい」


ぶっちゃけあの時だけの話で終わると思っていたので昨日水薙がこの話をしてきた時は驚いたが、やっぱり断る理由もないし純粋に水薙の手料理は食べてみたい。


「先輩、今日はとりあえず作っておけば胃袋は掴めるだろうともっぱら噂のカレー、豚汁、唐揚げの3コンボとバランス的にサラダをつくります」


水薙の手にはパンパンに膨らんだスーパーの袋があった。


「ん、お兄ちゃん。蓋品さん、だっけ?来てるの?」


家の中ということもありラフなキャミソール姿の汐菜がリビングからひょっこり顔を出した。


「ああ、水薙が昼飯作ってくれるんだ。あっ、」


言ってから気づいたが汐菜のことを全く考えてなかった。僕が暇なときは遊びいくのにこういうときはいるのな。


「大丈夫ですよ、先輩。急に先輩が増殖したときを考慮して3人分買ってきました」


「急に増殖したらそれどころじゃないけどね」


まあ、水薙なりの冗談で汐菜がいた場合も考えていたのだろう。最近水薙の突飛な発言にも慣れてきて落ち着いてツッコミを入れることができるようになった。


「早速料理を開始したいと思います。できてからのお楽しみということで先輩はテレビでも観てゆっくりしててくださいな」


手伝いとかしようかと思っていたけど、包丁もろくに扱えない僕じゃ邪魔になるだけかもだし水薙の言う通り休んでいることにした。


「あ、私手伝います」


僕と違いちょくちょく料理をする汐菜は水薙の助手に立候補した。


「助かります。私だけだと調理器具の場所とかわからなかったので」


これはあれか?僕は料理スキルがないせいで水薙とのドキドキはじめての共同作業を見送ってしまったのか?いや、料理スキルがあったら水薙が手料理を振る舞ってくれる話もなかったし、料理スキルがなくてよかったのか?

そんなこんなを僕が考えてるうちにキッチンでは水薙と汐菜が和気藹藹とクッキングを始めていた。特にやることもなく水薙と汐菜の会話に少し興味があるので聞き耳を立ててみる。


「わぁ、このジップロックに入ってるのタピオカ?」


「いえ、チョコボールです」


「あ、こっちのジップロックのは白タピオカ?」


「いえ、たまごボーロです」


「じゃあ、この瓶の中のがタピオカ?」


「正露丸ですね。ビンに思いっきり正露丸って書いてありますね」


断片的に聴こえてくる会話はいかにも若者っぽかった。特にタピオカが。我が家にタピオカなんてないと思うけどね。なんでジップロックにチョコボールやら入ってるのかも謎だけども。


「とりあえず煮込みに時間がかかるカレーから作っちゃおうか」


「わかりました。白米は炊いてあります」


「あ、そうだ。イタズラでカレーにこのタピオカ入れようよ」


「いや、それは、えーと、なんですか?」


「ザクロだよ」


「もっとツッコミやすいボケしてください。てか、なんでザクロなんて持ってるんですか⁉︎」


二人とも大して人見知りしない性格なので思ったよららフレンドリーだ。やや水薙のペースにのまれてる感はあるけど。


「見てみて、汐菜ちゃん。人参タピオカ」


「にんじんを綺麗に球体に切る技術は感心しますけど、球体のものなんでもタピオカっていうのやめません?」


「えー、でもJKの会話って基本タピオカに関連付けないといけないんじゃないの?」


「違いますし、多分もうブーム終わりがけです」


なんか今日の水薙は年下相手だとちゃめっ気が出るな。普段部活で先輩だらけの空間にいる水薙は久々の年下との会話を楽しんでるのだろう。


「そういえば御主人様、じゃなくて先輩って小さい頃ってどんな子でした?」


うん、今回の御主人様ノルマ達成だね。本当にこのノルマあるの?なんで?


「え、御主人様⁉︎そういうプレ‥いや、私はなんも聞いてないです。えーと、幼少期の兄でしたね。お兄ちゃんの昔はですね、今と変わりなく特に特筆すべき点もない普通のボーイでしたよ」


なんか妹からあらぬ誤解を受けた挙句に軽くディスられてるんだが。もう聞いてるって素直に告白しよっかな。


「まあ、アルバム見たときからそんな感じはしてました。さすが先輩です」


最近さすがって言葉が嘲りに思えてきた。


「なんか蓋品さんって仮に兄の脱糞シーンを目撃しても同じこと言ってそうですね」  


「確かにそうだけどカレー作ってる最中には言わない方がよかったかもね」


2人は談笑しながらも手は止まっておらず、包丁の音やら調理音は絶えず聴こえてくる。


「ところで汐菜ちゃん、もう一個聞きたいことがあるんだけど」


「なんですか?」


そろそろ料理も完成に迫ったくらいだろうか水薙の声色が少し真面目なテイストのものになった。


「私のキャラってこんな感じであってたっけ?」


「知りませんよ⁉︎急になんですか?」


僕が思うに急にメタ発言が出るあたりはいつも通りの水薙だと思う。


「新話更新に時間開きすぎてキャラブレてないかな?一話から順番に読んだら違和感の塊だったりしないかな?そういえば私、不器用って設定だけど料理得意で大丈夫かな?」


水薙は急に早口になった。心配なのはわかるけど投稿者の代弁をしなくていいから。


「もう少し自分を確かにしてください。あ、そう言えば、私も前回出たときはボケよりのキャラだった気がします。なんでツッコミ入れてるんですか⁉︎」


なんかまた汐菜も水薙のノリに染まってしまった。お前はボケもツッコミもこなせる器用な子だよ。


「正直そこまで絡みがあった訳じゃないからわかんない!」


「私もです!」


2人ともわからないのに何故そんなに強気なんだ⁉︎なんか僕まで不安になってきた。前まで地の文こんな感じだっけ?


「なんやかんやでおいしそうにできたね、汐菜ちゃん」


「はい、何故かタピオカもできましたね」


何故かでタピオカってできるものなんだろうか?正露丸じゃないよね?


「まさかポイ◯ルをアレしたらタピオカになるなんてね」


「アレしたらああなるとは驚きでいっぱいですね」


アレって何?タピオカの原料ポ◯フルなの?


「先輩、時間も文字数もそこそこなのでご飯にしましょう」


不意打ち気味に水薙が僕に話しかけてきてびっくりした。


「ああ、うん。あ、お皿くらいは運ぶよ」


台所に足を踏み入れると宣言通りの3セットとポイ◯ルが原料なのに何故か黒いタピオカ(推定)、そしてフリルの付いたエプロン姿の水薙がいた。やばい、可愛い。


「あ、先輩。どうです?」


水薙はその場でヒラっと回ってみせる。天使降臨って感じ。我が家の台所は聖地となったのだ。


「似合ってる、可愛いよ」


当然お世辞などではなく心からの言葉だ。もう少し小洒落た返しでもできるように勉強しようかな。


「ほら、2人ともいちゃつかない。私の居心地が悪いでしょ。実際、邪魔者なんでしょうけど」


呆れた顔の汐菜が僕と水薙のハッピータイムを壊す。まあ、ぶっちゃけ邪魔だよ。今日は2人っきりだと思ったのに。


「先輩、そんな顔しないでくださいよ。大丈夫ですよ。だって、今日の夜は2人でですから」


え、今日の夜は2人なの?そういえばこれからのこと全く考えてなかった。やっぱりナイトだしそういうこと?


「マジか」


え、夜はナイトでナイトは2人で2人は2ピーポーで、、アレ?よくわからなくなってきた。結局一線超えちゃう系?


「はい、なんてたって今日は夏祭ですから」


ナス祭り?要は僕の股間のナスがアレでアレする祭?あー、わかりみ。


「へー、夏祭行くんですね。私は人多いし行きませんけど」


「だって夏祭だよ、サマーフェスティバルだよ。いかないと損損だよ」


あー、サマーフェスティバルか。どうやらエッグプラントフェスティバルはないみたいだ、残念。


「そんなことよりまずは食べましょう、さぁさぁ」


なんか勝手に期待して勝手に落ち込んだ僕だったけど普通にカレーは美味しかった。当然、あと二品とタピオカも。食べながら思った、もしかしてカクヨムで連載してる限り僕ってずっと童貞?

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