第6話 そうだ、エチオピアに行こう?

「水薙、紹介するわ。妹の汐菜だ」


水薙に僕の二つ下の妹の汐菜シオナを紹介する。


「初めまして、ご紹介にあずかりました、町田汐菜です」


汐菜もそれに続いて挨拶をする。


「初めまして、汐菜さん。あ、私は先輩、弥霧さんの後輩での蓋品水薙です」


水薙は身長も小柄でどう見ても歳下の汐菜にも敬語で、やけに一部強調された自己紹介を済ませた。 それに我が妹はどう反応するか?


「へぇー、そうですか」


意外にも特にリアクションもなく、軽く流された。


「え?それだけ?」


僕的には結構なビックニュースだと思ってるんだけど?少なくても学校で催眠術使えるって噂になるレベルのビックニュースなんだけど。


「お兄ちゃんは私にどんなリアクションを求めるのさ。別にどうでもいいよ、お兄ちゃんの交際関係なんて。ところで、エチオピアの首都ってどこだっけ?」


「兄の交際関係はエチオピアの首都にも魅力で劣るの!?」


ていうか、前話でエチオピアのボンゴレビアンがうんたら言ってなかったっけ?どこにいった、ボンゴレビアン。なんなんだ、ボンゴレビアン。


「で、どこなの?エチオピアの首都?」


汐菜はさっきまでえらくどうでもよさそうな顔してた癖してエチオピアの首都には興味津々みたいです。


「知らないよ、ググれ」


そもそもエチオピアがどこの国かもわからない。僕もしかして妹から物知り博士として慕われてた?


「その手があった」


信じられないことに我が妹は本当にその手を思いつかなかったらしく、本当に感心したような顔をしている。まじかよ。


「あー、アジスアベバか、そっか、そうだよね」


汐菜はなんかど忘れしてただけ感を出しているが間違いなく知らなかった。僕も初耳。


「で、どうして急にエチオピア?」


家に帰ってきていの一番にエチオピアの話になること普通ないからね。


「まったくもー、お兄ちゃんは察しが悪いですね」


汐菜は呆れたように言うが、まったく分からん。


「まったくもー、お兄ちゃんは鈍いですね」


「何故、表現変えて二回も言った⁉︎」


何を僕は察すべきなんだ?僕が察せたのは今僕が煽られてるってことだけだな。


「何故、エチオピアかって、そんなの単純じゃん。そこにエチオピアがあるからだよ」


「そこってどこだよ」


エチオピアってどこにあるの?アフリカ?中東?南米?


「正味、お兄ちゃんと話すことなんてエチオピアしかなくて」


「兄との会話の選択肢ってそんな狭い⁉︎」


だとしてもエチオピアには悪いけど、エチオピアはないよね。


「ふふ、2人はとっても仲良しなんですね」


ここで、今まで傍観していた水薙が微笑みながら声を発した。


「ええ、私とお兄ちゃんは仲良しです。私、お兄ちゃんのこと大好きですから。具体的にはアジスアベマの次くらいには好きですよ」


「僕への好意ってそんな名前も曖昧な都市に負けるの⁉︎アジスアベバね」


汐菜が胸を張って堂々と大好きって言ってくれて一瞬めっちゃ嬉しかったのに。何この、上げて落とすスタイル?


「じゃあ、お兄ちゃん。私はお暇するよ。あとは、若い者だけでね」


話も一段落すると汐菜は胸元をパタパタさせながらそう言った。こら、はしたない。


「一番若いやつが何言ってんだ」


まあ、帰ってきてばっかで汗かいた制服のままだもんな。引き留める理由もないのでそのまま行かせる。


「おもしろい妹さんだね」


「まあ、そうだな。水薙は兄弟とかいないの?」


この前、個人情報をベラベラ喋ってた時に家族構成の話の直前で話を切っちゃったから水薙の家族構成を僕は知らない。まあ、自分から話そうとするくらいだし、聞いちゃいけない質問ではないはずだ。


「姉と弟がいます」


「へー、そうなんだ」


「はい、兄弟はいるって設定にした方が後々ネタが尽きた時に新キャラとして出せますからね」


「そんなことを気にして聞いたわけじゃないからね⁉︎」


確かに今の時点でだいぶ更新が止まってるから心配になるのもわかるけど。


「私もそろそろ帰りますね。当初の目的は果たせましたし、長居して迷惑かけるわけにはいきませんので」


アルバムを閉じて帰り支度を整えながら水薙は言った。僕も僕で女の子を遅くまで拘束するわけにはいかないので賛成だ。


「家まで送っていくよ」


時間的にはまだそこまで遅くはなく、部活帰りならもっと遅く帰ることも多いだろうが紳士の嗜みとして申し出る。


「じゃあ、お願いします。実は先輩が申し出なかったら自分からお願いするつもりでしたし」


「そうだったのか?」


なんか意外だ。水薙はなんとなくこういうの遠慮するタイプかと思ってた。まあ、遠慮されても辞退するつもりはなかったので有難いことではある。


「まだ、文字数的に話を終わらせるわけにはいきませんからね」


「さっきから作者の都合考え過ぎじゃない⁉︎」


思ってても言わなくてよかったよ。


「もしかして先輩、嫉妬ですか?愛いですね!」


どこに作者に嫉妬する主人公がいる?そういう水薙の方がよっぽど愛いわ。てか、愛いってよくそのボギャブラリーが出てきたな。なんか最後の!でアホっぽさが出ちゃったけど。


「違うから、ほら行くよ」


これ以上この話題を広げない方がいいと悟った僕はさっさと水薙を送り出すことにした。この辺でちょうど2000文字超えるし。あ、僕も言っちゃったよ。


「待ってください、先輩。あ、えーと、お邪魔しました」


外に出た瞬間、夏の暑さが僕らを襲う。日が沈み始めたこの時間でも真夏の気温はバカにならない。いっきに汗腺が活発に動く。


「暑いな」


言っても余計怠くなるだけだがついつい言ってしまう。


「そうですね。私、先輩の家が天国に思えてきましたよ、クーラーも先輩もいますので」


水薙も運動部とはいえ、水泳部なので暑さへの耐性は僕とそう変わりないようだ。


「もうすぐ夏休みだな」


実はもう来週に控えている夏休みは昨日付き合い始めたばかりの僕らにとっては当然共に過ごす最初の夏休みだ。


「そうですね。休みの間の部活の予定とかそろそろ分かると思うので分かり次第伝えますね」


水泳部の次期エースの水薙は当然部活で忙しいのだろう。デートする時間はあまりなさそうで残念だが、そこは彼氏として水薙を応援しよう。


「大会とかあるなら応援行くよ」


「ありがとうございます。部活がないときは全力でデートしましょう。幸い体力には自信があります」


「まあ、ほどほどにな」


僕とデートしたがために水薙が倒れたなんてなったら大変だからな。


「海にはいきましょうね」


「ああ」


「BBQもしたいです」


「ああ」


「山にも行きたいです」


「ああ」


「映画も行きたいですし、カラオケにも行きたいです。あと、川と沢と湖と池と干潟にもいきたいです。遊園地とかもいきたいですね。当然、動物園と水族館もです」


夢を語る幼子の如くキラキラと目を輝かせて水薙は夏休みの計画を羅列した。川、沢、湖、池あたりはどれかでよくないか?


「あと、市役所も行きたいです」


「なぜに⁉︎」


「当然、婚姻届を出す練習ですよ」


常識を語るがように水薙の口から飛び出たのはとんでもないことだった。


「気が早すぎるだろ」


そもそも練習することでもないし。


「冗句です。あ、そうだ。汐菜ちゃんを誘ってアジスアベバにも行きたいですね」


「そんな気軽に行ける場所じゃないと思うけどね⁉︎」


エチオピアだろ?どこにある国かもわからないけどエチオピアは遠すぎるよ。


「あ、絶対にラブホもいきたいですね」


「は?え?」


聞き間違いかな?幼子の如く純粋に夏休みのやりたいことリストを語る水薙から汚れた施設の代表格みたいな名称が出てきたんだけど⁉︎


「先輩と一つになりたいです!」


「とりあえずここ外だから静かに、ね?」


「あー、先輩とめちゃくちゃヤりたいです」


「こら、男子中学生みたいなこと言わない」


やっぱりセクハラだよね?事案だよね?男女逆なら拳が出かねないよ。


「まあ、それは冗談として、夏休みは期待しててくださいね。私、頑張っちゃいます」


握り拳を顔の前で作り水薙は宣言した。うん、可愛い。何を頑張るかはよくわからないけど可愛いから問題ないだろ。


「ところで一応聞くけど補習とか大丈夫だよね?」


先々週に行われた期末試験の如何によっては夏休みの数日を補習で奪われることとなる。部活で忙しい水薙にとっては致命的だろう。ちなみに僕は全教科平均ぐらいで平均点が赤点なんて教科はないので問題ない。


「…夏休み、楽しみですね」


露骨に視線を逸らされて露骨に話題を変えられた。僕らの夏休みはどうやら一筋縄ではいかないようだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る