17話 地獄の綱引き ナラ

♦︎綱引き



「おし!てめえら!所定の位置につけー!」


ドドドドドドドド。僕を含め鬼の形相をした男達が校庭のど真ん中まで突っ走る。

その雰囲気だけで、校庭が地割れしてしまうのではないかと焦るほどの緊迫感。


「おし!ついたな!綱を持て!そしてデケェ声でいつもの勝利文句を叫べ!」


熱が凝縮してできたようなレディがそう叫んだ。


そして男達、いや闘う者達は


「白組ーしねぇぇぇぇえええええええええ!」

「赤組ーしねぇぇぇぇえええええええええ!」


と同時に上げた殺害予告の勝利文句で始まった。


「うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉおおおお」


どでかい声しか聞こえない。


実況してる生徒の声が聞こえない程の雄叫びが校庭を支配する。


「白組……い……かぐ…まだどちらが…か……わからない!」


実況してくれる人の声が曖昧ながらに聞こえた。


でも、そんな事には意識を向けられず僕は綱引きに真剣に取り掛かった。



♦︎不当な悪戯



こんなのは見てる側からしたらヒヤヒヤする。


開始初っ端からぶっ倒れていく人を見て館半ナラはそう思った。


「柚和まだ生きてる〜♪良かった〜」


私からすると、柚和が危なくなければいいや。って感じなので他の赤組は基本的にどうでもいい。


柚和がいる方の赤組は一目見て分かるほどに劣勢だった。


この男達の熱さもエグいけど、朝礼台に立ってる先生が私はヤバイと思う。


だって


「赤組どうした!おめぇらクソ弱えぞ!?そんな貧弱だと一生童貞とお付き合いするハメになるぞ!?わかってんのか〜!?あー!ぶっ倒れてるやつら!さっさと!起きろ!キン○マ無くなっちまったのか?だったら退場しろ〜!」


なんてすごい教師らしからぬ言葉を吐いてるけれど優しい先生。一応ね。


この先生は東島とうじま先生。口は悪いけど強制的に相談を請け負ってくれる先生なんだけどやる気スイッチが入ると、ね。ちょっと熱い性格になるんだよね〜。


「でも、本当に赤組倒れる人多い気がする…白組も倒れてる人続々と出てるけど」


柚和はまだ頑張って引っ張ってる。ふぁいと!。


そろそろ結構ヤバイ人がでてくるかもと思ってたら案の定、でてきた。

先生に運ばれていく生徒が何人も救護テントに運ばれていく。


「これって、ふつうにいけない競技だよね…」


私は今更そんな事を思った。運ばれていく人は白組さん達が多い。

赤組は倒れてる人多いけど。


「頑張れ〜」


取り敢えず赤組を応援しとく。おっ!赤組立て直してきた。そのままいけぇ〜

あ!すごい勢いでぶっ倒れた人がいる。大丈夫かな〜?


「柚和はまだ粘ってる♪去年も最後までちゃんと引っ張ってたし。最後まで頑張るのはカッコいいなぁ」


素直に賞賛。だって周りの男達は軽々と倒れていくんだもん。

男は度胸と根性!踏ん張れっ。


「やっほーナラ」


突然声をかけられて、ん?となったけど偶に話す水鶏くいなちゃんだった。


「どうしたの?」


「一人で見てたから、どうしたんだろうと思ってきたんだよ」


「そうなんだ。私はどうもしないよ。大丈夫!水鶏ちゃんは戻って大丈夫だよ」


「そう?分かったー。私向こうにいるから何かあったら来てね」


「ほーい。じゃあね〜」


水鶏ちゃんは4組の子だから、今は敵さん。仲はいいよ?

校庭の方に目を向けると赤組が劣勢になっていた。よく見ると運ばれていった人達が戻っていた。赤組でまた3人ダウンして一気に形勢が傾いた。


赤組は今はぱっと見でも分かる人数になっていた。13人かな?


対して白組はまだ20人以上。でもまだまだ続きそう。だって倒れてると


「倒れたまま、負けたやつは後で外周50周だからな!」


そんな言葉発せられた瞬間今倒れてた人全員が立ち上がった。

今年もあの先生はすごいなぁ…。


それでも倒れていく人は怪我をした人だと思う。

去年なんて、骨折も何人か出た。綱引きで骨折というのがまず私には分からないのだけれど柚和は骨折して欲しくないなぁ〜。


今も、白組の方で膝から出血してる人や、転んだ人が他の引っ張っている男子に、踏まれたりと色々と惨状な光景。


赤組は…?手じゃなくて口で引っ張ってる奇行種がいる。

腕使えないのかな…。あとは口内を噛み切ってしまったのか口から血が出てる人もいれば火傷する人もいた。


柚和も右手をふーふーしてるから摩擦で火傷したらしい。

あとよく見ると、膝を擦りむいてる。血が足まで流れてるから結構前から出血したと思われる。


終わったら絆創膏とガーゼは確定。


「ぎゃああああああ。火傷したーー。いってぇぇぇ」


クソでかい声で叫んだ男子に一同観客たちの視線が集中する。大丈夫?


前の方で綱を引っ張っていた赤組が倒れ始めた。序盤から頑張っていたから体力的に限界なのかな?と思ったけどそうじゃないらしい。


おーい。どうしたのー?足を抱えて蹲ってる。捻った?それとも…擦りむいたのかな?とどうしたのか考えていたら真ん中にいた人達も綱から手を離した。


柚和も真ん中の列にいたから、手を離したけど苦虫を噛み潰したような表情でまた綱を握った。


でも、一気に人が綱から手を離したからかそのまま白組が綱を引っ張って赤組の人は転んで全員手を離してしまった。


「終了!勝者白組!手を離してた奴はプログラム最後の持久走に強制参加だ。よし白組!赤組!起立!退場!」


びっくりマーク連発の声を張り上げた東島先生の退場という声と共に退場する。


「続いて、2年生女子シャトルランです。2年生女子は準備をお願いします」


「女子〜俺らの分。頼むぜ」


綱引きが終わって帰ってきた男子達が帰ってきて開口一番にそう言った。

でもそんな事はどうでもよくて。


「柚和は帰ってきてないの?」


「あー。柚和なら退場すると同時に救護テント行ったぞ。左足の脹脛酷かったから行くのも仕方ねぇよあれは」


山瀬という男子が答えてくれたのでお礼をいう。大丈夫かな〜?


「山瀬ありがとう♪」


私はそう言って、救護テントまで走った。


で、着いてみたのは苦笑いを浮かべる柚和だった。


「いやぁ、気づいたらこうなってて」


「普通は気づくのよ。こんな怪我。我慢してたでしょ?正直に言えば怒らないわ」


「気づいてませんでした」


「分かったわ。消毒液を直でかけてあげる」


「先生やめてください。ってナラどうしたの?」


柚和は私が救護テントの端っこで膝の上に肘を置いて顎に手を添えていた私を見つけてそう言った。脹脛は裂傷で何かで切った感じの傷だった。


「いやぁ〜別に〜。大丈夫そうだね良かった良かった。私シャトルラン行ってくるから応援してね」


「心の中でね。ま、頑張ってきて」


「ラジャ!」


私はそう言って入場門まで走っていった。



♦︎蒙



結果的に言って。綱引きは地獄だった。

俺は第三者目線から見たら辛そうには見えるだろうけど痛さはわからない。

そんな競技だから。


僕は、転んだ時石で脹脛を切ってしまった。


普通は事前に大きい石は取り除かれてるんだけど白組さんがの誰かが何処かから持ってきたと思う。


一番先頭にいた子が石を踏んで転んで前列の人達が転んだから、その巻き添えをくらって中列にいた僕のところまで被害が及んだと考えてる。


次の女子20mシャトルランは一番最後まで走ってた人の数が点数になる。


だから、130回くらいまで走ったら130点ということになる。


体力テストでもやったからか、そこまでひどい競技じゃない。


まぁ、これはマジで赤組勝ち確定だからなんの心配もしてないのだけれど。


「先生ありがとうございます」


「はーい。この後も頑張ってね」


「はい!」


入場していく女子を見ながらテントに歩いて戻った。

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