11話 君のお見舞い

♦︎買い物



聞かなきゃよかった。今更ながらに後悔していた。


お見舞い。自分はこの言葉が今でも大嫌いだ。でも少し興味が湧いた僕はそのお見舞いの奥の謎に手を伸ばした。


「誰のお見舞い?」


「お母さん。今日初めてお見舞い行くんだ」


「えっと、因みにどこから来たのかも聞いていい?」


「北海道だよ」


「…は?そんな遠いとこから来たの?」


流石に驚いた。北海道から東京にくるなんて今までそんな人と会ったことすらなかったから。


「…大変だね」


この言葉以外に言葉が見つからなかった。


「だからね…その。東京が全く分からないんだ。初めて来たのもあって。だからその上野まで」


「もうすぐ品川だよ。自分はこれでおさらば。上野はこれをずっと乗ってればアナウンスで上野って流れるからそしたら降りたらいいと思うよ」


そう言って、逃げようと降りる準備をし始めてすぐにドアから出れる位置に着く。


「んじゃ。またぁぁぁぁあ!?」


「ん?どうしたの?早く行こ」


「えっと、なんで降りてるの?」


「付いていくから?」


「なんで?」


「東京分からないから教えてもらう為に。ガイドさん?って奴かな?」


「いや、それはさっき説明…」


「いいから!早く行こうよ!」


やかましいわ!と言いたげにプンプン言いながら背中を押してきた。進む方向違う、からすぐに方向転換と同時に歩いたけど。


言った通り、女の子は付いてきた。歩いてる時は後ろに。横断歩道で止まってる時は横に。スーパーで買い物してる時も一緒に。而も食材を手に取る度に「料理できるの?楽しいよね」とか「へぇ〜意外と選ぶ」とか「あ!何作るかわかってきた」


ちなみに選んだ食材は挽き肉800g。卵(一人一つだったから彼女がいて助かった)と内心感謝しつつそれ以外に玉ねぎ二玉。

それとパン粉、片栗粉、ニンザン(人参)、赤ワイン。これが今日の晩御飯のメニューにする材料だった。さてこれで何を作るでしょうか!ハンバーグよ…。


これ以外に他にも色々と買った気がするけど保留。


「たくさん買ったんだね♪」


「一週間の食料だからね。親がいない分自分ひとりのご飯ぐらいは作らないと」


ちらっと女の子を見たら水とりんご。それとなんだろう…もう一つ…ナイフ?


「君も買ったの?」


うんうん♪と頷いてルンルンと言いながら袋に買ったものを入れ込んだ女の子は、自動ドアを潜っていった。


「…家に帰れるのは何時になるだろうなぁ…」


結局僕の本質は顔を覗かせて人助けをしてしまう。これは悪いことなのだろうか…

ずっと分からない。優しくするはいい事なのか。


知らずのうちに溜息を漏らして僕も自動ドアを出て女の子の元へと歩いていった。


終電問題が浮上してきた…。



♦︎お見舞い



「ホントにいいの?」


「嫌なら僕は帰るよ。んじゃバイバイ。卵ありがとう」


「あー!待って!待って!行かないでー誰もそんなこと言ってないよー!」


品川駅のホームで電車を待ちながら話している僕達。


現在。午後1時28分。家から出てかれこれ4時間経っていた。

家を出たのが9時30分くらいだったからもうそんくらい。


「あ!キタキタ!はい!起立!電車に乗る準備はいい〜?いいねー。おし!じゃあ行こう!」


いやぁ、この女の子にはずっと流されっぱなしだった。


「あーはいはい」


品川から上野。僕の家は目黒で帰る頃には遅い時間。今ならまだ…と思った。けどやっぱりそんな事は出来なかった…。


上野駅には20分くらいで着いた。


ここで、一つ聞き忘れていた事に気付いた。それは…


「病院の名前はなんて言うの?」


「…………………………………」


「…病院の名前は…」


「ごめんなさぃ。分からないです」


「あはは…あはははは…クソっ。おい。マジかよ」


ヤバイ早速来たけどこれ帰宅の準備かな〜?なんて考えたけど上野の病院を行き当たりバッタリで当たっていく事にした。あれ?僕って優しくない?(笑)


まず一つ目。ハズレ。あ、ここでお母さんの名前は理子さんというらしい。


病院の受付に「理子さんという方は入院してますか?」の繰り返しだった。


でも案外。上野だけだったからすぐに見つかった。


二つ目に言ったところですぐにビンゴ。「理子さんという方は」といった瞬間に、受付の人が「あ、花田さんのとこの面会ですね。わかりました。少々お待ちを」と言われてるあっという間にここまで来てしまった。


「受付の人に、病室の番号を教えて貰ったから行こう」


受付から離れた所に言って、マスクと消毒をした。そして女の子の手を引っ張ってこっちに寄せて口に早業でマスクをさせて手に消毒をかけて手の甲の上からとても速くゴシゴシと擦った。


マスクはスーパーで買った物。消毒は病院の物。


「な、何するのー!」


「病院の面会ルールを伝授してあげるから聞いて」


受付の所の待ちソファーに座って女の子に教えた。


「まず、一つ目。面会時間を守る事。二つ目。体調が悪い時、大人数で面会はしないこと。三つ目。今やったマスクと、アルコール消毒をすること。感染を防ぐ為にね。四つ目。これはうーん…やぁ一応。小学生以下の子供は連れて行かない。これに関してはノーコメントで。五つ目。生け花、食品の持ち込み禁止。リンゴでも大丈夫って言われたけどね。六つ目。患者が疲れないように配慮。七つ目。携帯端末のマナーモード。以上。常識的にはこのくらい。他にもあるだろうけど覚えきれてなかったからごめん」


酷く長い説明をしてしまった。なんでこんなことを知ってるかは色々とあったからだった。


「ほぇ〜よく知ってるね」


「ほら行くよ。4階の409号室だって」


受付の人から聞いた話、結構大変らしい。何か大きな事さえなければゆっくりしてと言われているから想像がつきにくかった。


ても僕は目の当たりにする。どれだけこの女の子が辛いか。


「えっとここだね。コンコン失礼しますと。どうやら一人部屋らしかった」


ナースコールの場所と、トイレの場所の確認。そして

女の子のお母さんの顔を見たとき僕は全てを察した。


この子のお母さんはしてるんだと。


「お母さんただいま。元気?お土産ここに置いとくだけ置いとくね。でも確か看護婦さんに回収されちゃうんだろうけど…」


それから何故か今日あった事を話した。今までのことではなく。今日の事を。

僕はこれが今でも謎で分からない。ピラミッドがクフ王の墓だけど実は違う説や、何年も昔に宇宙人がいた。とかそんなことよりもわからなかった。


「お母さん。こうして今ここに来たんだ。この子は…あれ?そういえば名前聞いてなかったね。私は花田秋乃 はなだあきの君は?」


「僕は…柚和。葱佐川柚和 きさかわゆわ


「ありがと。お母さん。柚和くんって言うんだって。おとうさんが急に来れなくなって怖かったけど柚和くんが私をここまで連れてきてくれたんだ。嬉しかった」


この時、今すぐにでもこの場から離れたかった。


「お母さんこのまま目を覚まさないんだって。なんでなんだろうね…もっと沢山の楽しいことがあるのに…」


「どうして君は今この場に泣かずにいられるの?」


「え?そういえばどうしてだろう…家でお母さんが一週間寝てばっかりでお父さんが変だと思って病院に行ってすぐに運ばれていったときは泣いた。けど今はなぜか悲しくないの。なんでかな…不思議だね」


言ってる意味がわからなかった。


は?何言ってるんだコイツ。そんな目を向けていたと思う。これは夢なんだろうなぁと思って頰を抓った痛みと脈拍の電車モニターからなるピッピッピッという音が現実だと知らせてくる。そんな気がしていた。


「お母さん。一週間後には死んじゃうんだ」


僕はやっぱり着いてこなければ良かった。助けるなんてしなければ良かったと後悔した。優しさの軸に行動した結果。こんなことを知ることになってしまったんだ。


現実逃避をした。

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