2 その恋は、涙の色をしていた。

 その恋は、涙の色をしていた。


 菜奈は蛍の隣に座ったまま、じっと周囲の様子を観察していた。

 その表情はどこか硬くで、少し緊張しているように見えた。

「貝塚さんは、病院、あまり慣れてないの?」

「え?」

 蛍の言葉に菜奈はすごく驚いた顔をした。

 それはまるで、どうしてそのことを知っているの? と蛍に言葉で言ったような驚きだった。

「なんだか緊張しているみたいだったから」

 くすっと笑って、蛍は言った。

「すみません」

 少し顔を赤くしながら、菜奈は言った。

 それから菜奈は天井を見た。

 蛍も同じように天井を見た。

 そこには白い蛍光灯の明かりがあった。

 いつもそこにある、蛍の見慣れた病院の天井にある人工の光だった。

「……お母さんが入院しているんです」

 それはまるで独り言のようなつぶやきだった。

 蛍は菜奈を見たが、菜奈はまだ、天井の光をじっと見つめていた。

「お母さんが?」

 蛍は言う。

「はい。先月から」

 菜奈は蛍を見て、なぜかにっこりと笑ってそう言った。

 蛍はなにも言葉を話さなかった。

 それはそう言った菜奈の笑顔の中に、ありありと悲しみの色が溢れていたからだった。

 笑っている菜奈は今にも、泣きそうな子供の顔をしていた。

 それはお母さんがいなくなってしまって、怖くて、悲して、泣き出しそうにしている小さな子供の顔だった。

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