3. バイトを始めました。

「ちょっと、誰かに見られたらどうするの?」

「大丈夫だよ。周りには誰もいないのを確認したから」

「そ、そういう問題じゃないよ!」


 もうっ!!

 少し、頬を膨らまして見せる。

 何でそんな風にからかうのかな。


「と、取り敢えず行くよ」

「はーい」

 橋を渡って真っすぐ行った魔道具屋さんの隣。


 魔道具屋さんは、綺麗な宝石を多用したものを多く置いていた。

 瑠璃色の宝石を埋め込んだランプ。

 ピンク色の透明感のある宝石を飾りに付けている可憐な指輪。

 ランプからはほのかに甘い香りがして心を安らげてくれた。


「綺麗な魔道具ばっかりだねぇ。私、こういうの大好きかも」

「うん。あたしも」

 看板には、可愛らしい文字で魔道具店『マリンホッドの魔道具屋』と書かれてあった。

「あら、いらっしゃい」

 中からは、エプロンをした猫耳の綺麗なおねえさんが出てきた。

 お花屋さんとかでいそうだ。


 頭から生えた二つの可愛らしい茶色の耳に、スレンダーな体形をしている。

 顔は、一見しっかり者だけれど、おっとりとしている。

 胸は顔かから十数センチほど離れている。

 スイカと見間違えそう。

 彼女のような体をダイナマイトボディと言うのだろう。


 彼女は、純白のドレスに身を包んでいた。

 その姿は、妖精のようでもあり、天使のようでもあった。


 私もいつかはこんなに胸が大きくなるのかなと不安な気持ちになる。

 彼女からほのかにお花のようなお甘い香りが漂ってくる。


 両親のことを考えると、それはないだろうと思う。

 いや、でも、まだ13歳だし。

 まだ、希望はあるし。

 自分の薄っぺらな胸に両手を当てて嘆息。


「なにかお探し?」

 にっこりと微笑むお姉さん。

 うるわしゅうございます。


「い、いえ。そうではないんですけど……」

「隣のカフェにバイトをしに」

 マリーちゃんが話に入る。


「あら。そうなのねぇ」

 彼女の穏やかな、自然と安心する声だった。

 彼女は言葉を紡ぐ。

「それじゃ、貴方達が今日から来る新しいアルバイトさんなのねぇ」


「へ?」

 なんか、変な気がする。

 まるで、私たちがここでアルバイトをするような言い方だ。


「あ、あの。私達ここで働くんじゃなくて、隣のカフェで働こうとしているんですけど……」

「知っているわよ。このお店と隣のお店は私と妹が経営しているんだもの。お話は聞いているわ。う・ち・の・妹・から聞いてきたのよね。やっぱり、二人でお店を回すのは難しくって――――。人手に困っていたのよ」


「え?」

 今、この人なんて言った?

 う・ち・の・妹・?


「おねぇちゃん。誰にゃ? お客さんなのにゃ?」

 鈴がなったかのような澄んだ声。

 右側のカウンター席から出てきたのは、私たちのよく知っているお友達――――ローズちゃんだった。


 ――――烏濡色の艶の良い毛。

 ――――私とさほど変わらない身長に、端正に整った顔。

 ――――小さい桜色の唇に、黒曜石のような澄んだ瞳。

 ――――頭から生えた墨色の耳。

 ――――小さなお尻からは彼女の身長の半分ほどのふわふわな尻尾がちょこんと覗いている。

 彼女もおねぇさん同様、純白のドレスに身に纏っていた。


「あれ? ローズちゃん? なんで?」

 状況をさっぱり理解出来ない。


「いやぁ。最近、おねぇちゃんとお店に賑わいがない。っていうことで、誰か雇おうってなってにゃ。それで、ミャーが二人を紹介したのにゃ」

 てへぺろ、と舌を出して、右拳で頭をこつんと叩く。

 そんな可愛い仕草しても駄目だから!!


「別にいいにゃんか。楽しいにゃんよ。お客さんは正直そんなに来ないし。給料はきちんと払うし。ね」


 と言うわけで、半ば強引に私とリーちゃんはバイトを始めることになりました。

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