決戦☆須王龍野vsジーク・バラモット…その①

「まだ生存者がいるかもしれない。オルガノとハーゲンは朱雀内を捜索せよ」

「はい」

「了解」

「お姉さまも同行してください」

「分かったわ」


 ミスミス総統とハーゲン・クロイツ、そしてオルガノ・ハナダの三名は屍食鬼グールの囲みを楽々と突破し、暗闇へと消えていく。


 その場に一人残ったララ。その姿を微笑みながら見つめるのは吸血鬼バラモットの王であるジーク・バラモットだった。


「ララ室長。貴方、私の配下になりませんか? どんな贅沢も思いのままですよ」

「貴様、私を食うのではなかったのか?」

「確かに、それも非常に魅力的なのですが、貴方の桁外れな戦力を目の当たりにしまして……その力を支配したいとね。そう考えたのです。貴方にとっても、食事にされるよりはその方が良いと思うのですが。いかがですかな?」

「断る」

「強情ですねぇ。でもそこが良い。何と言いますか、何があっても決してブレる事がない強い意志を感じます。素晴らしい魂をお持ちだ」


 ララを見つめほほ笑むジーク・バラモット。その瞳は最愛の人を慈しむかのような慈愛に満ちていた。


「腐っても王なのだな。貴様がそういう器なのは確かだ」

「お褒め頂き光栄でございますよ。私が貴方にこういう話をするのは、正直、ロクな部下に出会えなかったからなのです。どいつもこいつも口先だけでその芯は腐っていた。所詮、逃げてきた犯罪者ではその程度なのでしょう。その中であの男、グイード・シュルバには期待をしていたのです」

「そうなのか」

「ええ。p.w.カンパニーが滅ぼしたとある王国の騎士。私は彼の、熾烈な怨念の詰まった遺体を吸血鬼バラモットとして復活させたのです。しかし、彼は期待外れだった」

「貴様とウマが合わなかっただけなのではないか」

「そう。考え方の違いは大きい。先ほども申しましたが、私は貴方のような、ララ室長のような一貫した強い意志を持つ方が大好きなのです。逆に言えば意志の弱い者、相手によって主張を変える者に対しては嫌悪するのです」

「ダブルスタンダード」


 その一言を聞きジークはにやりと笑う。


「さすがはララ室長。良くお分かりですね」

「復讐とは、人権を踏みにじった敵の人権を奪おうとする行為だからな。それだけで矛盾が生じている」

「そう。あの男はその人権が踏みにじられたと繰り返し憤慨していたのです。ええ、私はそういうのも好きだったのです。人権を無視する私と人権を擁護するグイード・シュルバ。両者が対立していがみ合うのも一興。楽しい抗争が始まると思いきや」

「意外と従順だったのだろう」


 パンと手を叩きジークが破顔する。いかにも楽しくて仕方がないといった様子だった。


「そうなのです。私はですね。あの男がこのコロニーの生き残りを守って私と戦うのではないかと期待していたのです。しかし、残念なことに私の予想は外れてしまいました。彼はここの人々を家畜として扱い吸血鬼バラモットの餌として効率よく消費するための仕組みを作ってしまったのです。もちろんそれは大変便利ではありましたが、私としては非常につまらない策だったのです」

「便利な部下だったのではないのか」

「そう。便利な部下だった。しかし、私の期待は大いに裏切られてしまった」


 眉間にしわを寄せ、両掌を上に向け首を振るジーク。

 グイード・シュルバが、本当に期待外れだったという事なのだろう。


「それで私を嵌めようとした」

「そう。p.w.カンパニーの記録を検索しているうちにあなたの情報を見つけましてね。もうこれしかないと狂喜したのです。その話をグイード・シュルバにしたところ、上手に段取りをしてくれたと」

「そこでまた幻滅したのだな」


 ジークは頷きながらララを見つめる。それは憧憬のこもった熱いまなざしであった。


「そう。幻滅しましたよ。それでも私は我慢していたのです。貴方に出会える事を夢見て。そして出会えた。私の人生において、このような素晴らしい慶事は二度と来ないでしょう」

「なるほど」


 ララは頷きながら指を鳴らす。

 そこに現れたのは漆黒の鎧に身を包んだ偉丈夫。戦闘員のリュウだった。


「ララ室長。その男は?」

須王龍野すおうりゅうや。貴様に恥をかかされたので、その汚名をそそぎたいと志願してきたのだ」

「ララ室長。私は貴方が戦ってくれるとばかり思っておりました」

「心配するな。こいつを倒せたなら私が相手をしてやる」

「なるほど。ではこの黒騎士を前菜としていただきましょうか」


 スラリと短剣を抜くジーク・バラモット。刃渡りは30センチほど。諸刃で肉厚のその剣はダガーと呼ばれている。対してリュウは背負っていた大剣を引き抜いた。刀身は180センチ程、身幅は25センチ程の巨大な、大剣中の大剣である。 


 その超重量級の大剣を難なく振り回し、龍野が突進する。

 このような大剣が大振りになるのは必然。大剣を難なくかわしたジーク・バラモットは龍野の顔面を覆うプレートの隙間にダガーを突き刺す。籠手でダガーを弾いた龍野のわき腹を、ジークの回し蹴りがヒットした。


 数メートル吹き飛ばされた龍野が立ち上がる。


「大丈夫か?」

「問題ありません」


 ララの一言を片手で遮り、立ち上がる龍野。そしてまた大剣で斬りかかるのだが、ジークにはかわされてしまう。


 再びジークの回し蹴りを食らった龍野がララの前まで吹き飛ばされた。


「選手交代しようか?」

「御冗談を」


 立ち上がり大剣を構える龍野。その目はしっかりとジークを捕らえており、その闘志は失われていなかった。


「はあ!」


 気合一閃。龍野の大剣からビームが発射された。

 その光条はジークの右肩を貫き、彼の右腕は千切れ飛んでしまった。すかさず切り付ける龍野。しかし、ジークの左アッパーが龍野の顎を捕らえ、龍野はぐらついて右膝をつく。

 千切れた右腕を拾い、肩にあてがうジーク。肩から腕にかけて見る見るうち治癒し、何事もなかったかのように右腕が動く。


「化け物め」


 龍野が悪態をつくのだがジークは笑みを絶やさない。


「その言葉、そっくりお返ししますよ。私の蹴りは50トンの戦車をも吹き飛ばしますからね。それに耐えている貴方も相当な化け物だ」


 華麗な動きで龍野の斬撃を交わすジーク。

 そしてその重々しい攻撃は確実に龍野にダメージを与えていた。

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