守護英霊再び


 とある田舎村の教会、その礼拝堂では辺り一面に謎の光が溢れ出していた。


「きゃぁぁ!?」

「リリー、私の後ろに隠れて居なさい! くっ、まさかこの子にまで魔族の手が伸びたというの!? 既に英雄の血は奴らの脅威ではないと判断されたはずなのに」


 突如教会の聖堂に現れた、後光(手動)のさす謎の美少女。

そして何かのおまけのように僕がそれに付き添い、二人の前に姿を現した。


 しかし向こうの二人はそれどころではないようで、部屋を覆う眩しさに目を伏せるリリーちゃんを庇うように、彼女を守ろうとするシスターさんが大慌てで自分の後ろへと隠す。


 まあ普通は驚くよね、だからやめようって言ったんだけどなぁ。


「何も怯える事はありません、英雄の子よ。私達はあなたを助けに来たのです」

「ど、どうも~」

「なっ、魔族ではない……? それでは、あなた方はいったい……。人間、いえ、幽霊? ま、まさか……」


 光が収まってきた影響か、僕たちの姿がよく見えるようになり、シスターさんの態度も落ち着いてきた。

あれ、でもおかしいな、今の僕らってかなり特殊な存在に見えるはずなんだけど。


 なにせ半透明の幽霊だし。

そんな僕の考察を余所に、シスターさんは続ける。


「シザード王国物語『救国の大英雄グラン』運命の章、一節。『そして絶体絶命となったグランの前に、彼の者らは現れた。半透明なその姿に、浮遊する肉体。彼らこそは古の時代から語られし千の魔法を編む者、英霊テンイ。そして千の魔法を解く者、英霊アンナと言う』……。そ、そんなまさか。それでは……」


 シスターさんはぶつぶつと伝承のようなものを語り、一人で納得しだした。


 それになんだろう、その凄くカッコイイ二つ名は。

安奈さんなんかが大はしゃぎしそうな匂いを感じる。


 もしかして百数十年経ってから僕たちの存在が伝説とかになったのだろうか。

この時の出来事を知るのはグランくんだけだし、彼が自分の真実を語ればもしかしたらあり得ない事でもないのかも知れない。


「千の魔法を解く者、英霊アンナ……。くくふ、いいですよその二つ名、むふ」

「ニヤけ過ぎて表情思いっきり崩れてますよ安奈さん。荘厳なる光の使者設定はどこいったんですか」

「もう、せっかくいい気分だったのに水を差さないで下さいテンイさん。ぷんぷん」


 えぇ……。

せっかく教えてあげたのに……。


 しかしシスターは安奈さんの崩れた表情を気にする事もなく感激した様子で、声を震わせながら僕たちの前に跪く。


 この人もこの人で過激だよね。

まあ信心深い教会の人がこの展開を見たらそうなるのも頷けるけど。


「やはり、やはりあの英霊テンイなのですね!? あなた様は英雄の血を持つリリーの窮地を察してこの地へと再び赴き、彼女をその呪いから解き放ちに来て頂いたのですね!? ああ、ああ……、神よ感謝致します……」


 そして彼女は言った。

ずっと、この時をお待ちしておりましたと。



──☆☆☆──



 僕たちが二人の前に姿を見せてからしばしの時間が過ぎ、太陽が上りきって昼になった。

今は極度の興奮状態から落ち着いたシスターさんと、何が何だかよく分かってないリリーちゃんと共に食卓を囲って談笑している。


 もちろん僕らは何も食べる事はないので、見ているだけ。


「えーと、えーと……、それじゃこっちがご先祖さまの師匠だったテンイお兄ちゃんで、こっちがテンイお兄ちゃんがメロメロになっちゃって、もうどうしようも無いからお兄ちゃんのお嫁さんになったアンナお姉ちゃん?」


 いや、なぜそうなる。

途中から完全に捏造された情報だよねそれ。


「はいそうですよリリーちゃん。よくできましたね~、偉い偉い。むふ」

「安奈さん、子供に嘘を教えるのって虚しくない……?」

「はあぁ!?」

「あ、いや何でもないよ……」

「ふふふ、テンイ様はモテモテなんですね。羨ましいわ」 


 女3人に男1人という状況になり、この場のヒエラルキーが最下位となってしまった僕に許される返答は『はい』だけらしい。

どうしてこうなったんだ……。


「だけど本当に驚きましたよルーニアさん、まさか僕らの事が後世にまで伝わっていたなんて。てっきりあのグランくんの事だから、こういう伝承とかには興味がないと思っていたのですが」

「あらあら、あの大英雄グラン様を子供のようにくん呼ばわりだなんて、さすが英霊様。しかしそれならば私の事もルーニアさんだなんて他人行儀な呼び方ではなく、ルーニアって呼んで頂いても構いませんよ?」


 このシスターさんの名前はルーニア・エンジェリィ。

まるで天使のような名前を持つ、天使のような女性だ。


 僕たちが気の遠くなるような年月を生きていると彼女は思っているので、ルーニアさん本人は気軽に接して欲しいらしい。

しかし実際はそうではないと知っている僕からしたらそういう訳にもいかず、どうしても大人な女性である彼女に気安くする事ができないのだ。


 何よりルーニアさんの徳が高すぎるのがいけないと思う。


「くっ、こんな所に思わぬ強敵が……。テンイさんはあげませんからね!?」

「わー! アンナお姉ちゃんが怒ったー! お兄ちゃんとラブラブだから怒ったー!」

「あ、違いますよリリーちゃん! これは大人の余裕っていうやつなのです、ホントですよ!? ムキー!」


 安奈さん、それ全然余裕そうに見えないよ。

見てて面白いから言わないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る