第16話 争奪戦

 赤い血肉の雨が振りそぐなか、死体の道を歩いていた。

 ルキアが見せる夢だ。


 暖かい布団に包まり、鳥たちの宴で目を覚ます。

 外は青い空に包まれ、仲間たちの挨拶とともにベットから立つ。


 ――目を覚めた。

 景色は教室のなかだった。


 どうやら昼飯を食べた後、軽くひと眠りしたらしい。

 寝た気がしない…ルキアの夢だ。


 食器を片付け、食堂を出た。

 Bブロックの試合が始まることを耳にして、会場に向かった。


 Bブロックの試合。宝石を最初に奪取したほうが勝利となるこの試合。仲間との連携=絆が勝利への架け橋となる。

 ルシアーノと連携を組むのは、なんどか練習してきてはいるが、本番になると妙に動揺する。


 相手も同じだ。表情から相手の次の行動が読めないからだ。一人の少年がルシアーノを見て困っている様子だった。


 相手のチームとにらめっこ。相手は真剣そうな顔ぶれだ。一人を除いて。


「かわいいですだよおおおおーーー!!」


 童顔の少年がルシアーノに指をさして顔を真っ赤にしている。


「おい、おちつけ」

「いや、めっちゃかわいい! ああ…心が昇天してしまいそうだああ!」


 戦う前から離脱している。

 天に昇っていくのが見えそうだ。


「あのー…」


 突然悟ったかのように無表情になった。


「ぼくが勝ったら、付き合ってください」


 いきなり告った。


「……」


 ペコリとルシアーノは謝った。


「だめかぁああ!」


 童顔の少年はショックで土下座した。

 悔しそうに体を震わせている。


 正直言って、ぼくと相手チームの相方がドン引きである。


「無駄にテンションが高い人ですね」

「まあ、テンションだけはねー」


 お互い息があったように述べた。

 ひとりのせいで、なかなか戦いが始まらない。


 審判の国語の教師も面倒くさそうに鼻をほじっている。


「……」


 ルシアーノが手を伸ばした。

 童顔の少年はハッと頭を上げ、ルシアーノに近づく。そして、手を握ろうとしたとき、ルシアーノが背中にさしていた剣を抜き、少年に向けた。


「……」

「プレゼントですか…?」


 正々堂々と戦おうという誓いなのだが、少年の意思はすでに花畑にいるようだ。


「おい、さっさと始めよう」

「同じく。ルシアーノがキレそうだ」


 ルシアーノが無言でこちらに振り向いた。

 そんなことは言っていないと。でも、そうまで言わないと、いつまでたっても始まらないからな。


「それじゃ、はじめー」


 国語の教師が旗を上げた。

 試合開始した。


 先に宝石を見つけ、手に入れたチームが勝ち。

 この勝負、相手の行動を妨害して時間稼ぎするのが先決だとクロナが言っていた。


「あなたの心に届かない。ぼくはあなたの心を虜にします≪薔薇の園(ばらのその)≫」


 スケートのように滑るようにして華麗に舞う。赤いバラを口に加え、かっこよくポーズをとった。


 すると、みるみる棘が咲き乱れ、床一面、薔薇に覆われた。


「さぁ、いまです! ぼくの愛と棘の結束を――」


「≪炎の波(ファイア)≫」


 ぼくを中心に炎の波を展開させ、外側へ流れるよう放った。

 せっかくきれいだった薔薇の園が壊滅的被害をもたらした。


「あ”あ”ああああああ!! ぼくの情熱を灰にするなんてぇええ!! お前はルシアーノの気持ちを踏みにじったんだぞ!!」


「勝負中に、告白しているなよ。それに、ルシアーノが困っているんだ。それ以下でもそれ以上でもやめろ。そして、あきらめろ」


「ふ、ふざけるなよっ! お前の指図なんて知るかぁああ!」


「……」


 剣を握り、男の首に向かって剣を突き出した。


「えひぃっ!」


 男の変な悲鳴とともにルシアーノは動かない唇で男に威嚇した。

 

≪威嚇(恐怖)≫


 男は絶句し、そのまま崩れ落ちた。

 ルシアーノの魔法に敗れたようだ。

 友達が言っていた通りにメンタルは弱いようだ。


「勝者! 紅組の勝利です!」


 敗れた男の相方であった人が宝石を掴み、天に向かって差し出していた。教師はそれを見て、勝敗を定めた。


「い、いつのまに!?」


「簡単だったよ。俺の能力でね」


 男はへらへらと笑い、怯んでいた男が立ち上がり、こういった。


「見事な作戦だったよ。ぼくがヘイト(視線)を集めているあいだ、友が宝石を見つけ出していたってね」


 ルシアーノに告白していたのは演技だったのか。

 やられたのもフリだったようだ。


「この勝負、俺達の勝ちだ」


 そう言って笑いながら会場を後にした。


***


 ぼくは、おちこむルシアーノにそっと声をかけた。

 あんなにも無様に負けてしまった。


 しかも、相手チームのベースにすっかりと乗せられていた。

 ぼくは相手チームをちゃんと観察しなくてはいけなかった。

 ぼくは、まだまだダメだ。


「……」


 ぼくはただ、ごめんと謝った。

 ルシアーノは頭を左右に振り、違うと言った。


 紙に文字を書いて、自分の気持ちを教えてくれた。


『作戦で、わたしが先に宝石を見つけることだった。それを無視してしまった』


 と、ルシアーノは反省していた。

 でも、それは作戦であって、必ずしもその通りに実行するものじゃない。


 ぼくは、ルシアーノは悪くないというも、ルシアーノは「しばらく、ひとりにさせて」といって、その場から離れた。


 ぼくは、なにも声をかけることができなかった。

 もう少しフォローができたのかもしれない。


 でも、ぼくはまだ言葉力がない。

 この勝負、負けたけど。

 まだ、<クロナ&エレナ>のチームが残っている。


 それに、<攻防戦>も残っている。

 次に勝てば準決勝だ。


 ぼくは、ルシアーノをもう一度会って話そうと、後を追いかけた。


 ――取引 に続く。

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