第15話 攻防戦

 十日間開催される大イベント<攻防戦>。トーナメント式で総合ランクで組み込まれる。参加するチームメイトはクリストン学長に申請したうえで参加資格が得られる。


 <攻防戦>はみっつのブロックに分けられる。それぞれ独立したルールと戦い方があり、それぞれ異なる報酬が与えられる。


 店を開くうえで、最低ひとりは店で番をする必要があるため、<攻防戦>はふたつのブロック戦を選ぶことにした。


 Aブロック。チームメイト全員で戦う。攻撃隊と防御隊、支援隊に分かれて戦うもので、リック先輩たちが戦っていたのもこの試合方式。


 攻撃隊は、相手の防御隊を突破してゴールと呼ばれる結界が張られたプレイヤーに攻撃して破壊することが主な仕事。


 防御隊は、相手の攻撃隊からの攻撃を防ぐ役割。結界を張られたプレイヤーを守る仕事でもある。


 支援隊は、結界を強化するだけでなく仲間の回復や魔法の効果を高めるなどサポート向きな役割である。


 結界に入るプレイヤーは支援者が主だが、中には防御隊が選ばれることもある。

 結界が破壊されたら、相手のチームの勝ちということだ。

 相手が死なない限りはある程度危険な魔法でもOKとのことだ。

(普段はNGだけど)


 Bブロック。二対二で戦う争奪戦。

 先にフィールドに隠された宝石を見つけることが目的となる。チーム戦で戦うため、仲間との連携も必要不可欠である。


 Cブロック。一対一で戦う。

 魔法バトルと同じように、前後交代して魔法を攻撃する・魔法を防御するに別れる。先に、倒れた方が負けとなる。前後交代で一回分。最大五回まで行われる。


 Aブロックはクリストン学長に止められたため、残念ながら不参加となった。その理由は、前回優勝者の不正疑惑がまだ解決していないためとかなんとかでAブロックの試合は当分放棄すると言っていた。


 BとCブロックの試合は、同じランクで戦うため上位にも下位にも触れ合うことがない。実力を他クラスに知れ渡る可能性は低く制限を掛けられている。


 BブロックとCブロックにそれぞれチームメイトが参加することになった。


「最初の試合だけど、ルアとルシアーノに出てもらうわ」


 クロナがぼくらを指名した。


「どうして…?」

「わたしやエレナも参加したいところだけど…店のこともあるし。最初は止めておくわ。それに、ルアやルシアーノの実力ならBブロックもCブロックも一回戦突破できるでしょ」


 安易な判断だった。

 ルシアーノの武力、ぼくの魔法をもってすれば最初の試合なんてカスだとクロナはそう言っているのだ。

 ぼくは、クロナに押された気持ちになり、「わかった全力で遊んでくるよ」と伝えた。


 Bブロックの試合は午後からだったので、先にCブロックに参加した。


 Cブロックはトーナメント式で見事にルシアーノとは準決勝まで戦えないことが分かった。


「……」


 残念そうにしょぼくれるが。

 少し笑っていた。楽しみが少し先になるだけという気持ちと、初戦でチームメイトと戦わずに済んだという安堵の気持ちだった。


***


 Cブロック。フィールドは教室。数学で使われる教室だ。戦いの場所は教室で行われる。部屋の数が少ないから。

 数学の教師が審判として中央に立っている。


「この戦いは両者とも誇りとなるだろう。人生で初めて出会う相手であり、踏み台になる相手でもある。公平なる戦いだ、卑怯な手を下さず、正々堂々振る舞いたまえ」


 数学教師の誓いのもと、お辞儀をした。


「最初の試合は、転入生ルア VS 糸車のアニー」


 二つ名として名付けられる。フルネームは基本、この学校では名乗ることは禁止されている。家系の事情から切り離すことが主な理由だ。


 アニーは赤毛の少女だ。アフロ並の髪型で、ふっくらとたんぽぽのような綿上だ。


「はじめまして、アニーです。ルアさんと会うのは授業以外…しゃべったこともありませんでしたね」

「いえ、こちらこそ。」

「では、正々堂々と――」


 数学教師が旗を上げた。赤い旗があげられた。赤い旗はアニー選手。白い旗はルア選手のもの。旗があげられた選手は<攻撃>役として選ばれたという証である。


「それじゃ、いきますね」

「遠慮なくどうぞ」


 アニーは息を大きく吸った。

 そして、吐くと同時に心の中で魔法を唱えた。


(≪糸の縄張り(トラップゾーン)≫)


 口から糸を吐いた。まっすぐのび、軌道を変えることなく突き進む。

 ぼくはとっさに魔法を唱えた。


「≪炎の壁(ファイアウォール)≫」


 床から火柱が立ち上る。複数の火柱が重なり炎の壁となって遮断する。

 アニーが飛ばした糸を燃えつける。


「残念だったね」


 ぼくはこういった。

 でも、アニーは不敵な笑みを浮かべてこう返した。


「残念なのはあなたね」


 正面に展開した≪炎の壁(ファイアウォール)≫の隙間をかいくぐり、ぼく自身に向かって縛り上げた。狐に摘ままれた気分だ。確かに、炎の壁で燃えたはずだ。それをかいくぐり、束縛するとは伊達に『糸車のアニー』と呼ばれていないものだ。


「これで、あなたの攻撃は終了ね」

「どういうことだよ」

「攻防戦はお互い魔法一回分行うこと。つまり、もしあなたが魔法を唱えた場合、それは攻撃として行うこととなり、もしその糸を解除した場合、あなたは攻撃を放棄したということになる」

「そ、そうなのか先生!?」


 数学教師は頷いた。


「知らなかったのね。でもいいわ。棄権しなさい。あなたがここで棄権すれば、私は魔法で苦しめなくてすむ。転入生だし、まだ解除魔法も教えられていないでしょうし、どう? あきらめてくれる」


 見事な提案だ。

 転入生でまだここにきて一か月しかたっていない。しかも授業もまともに出ていないし、なおさらか。


「……悪いが、断る。ぼくは、戦いたい相手がいるんだ。棄権するということはその人に失礼だ。ぼくは、あきらめないよ。このまま、ぼくは攻撃を宣言する」

「はぁ~わかった。勝手にしな」


 口癖が変わった。

 やっぱ、可愛らしそうに見せて、中身は別物のようだ。


「≪炎の波(ファイア)≫!」


 ぼく自身に絡めていた糸を炎で焼き尽くし、炎の威力を少しずつ加熱させ、水がまるで炎のごとく発火する。

 ゴウゴウと炎がうねりを上げ、炎の高波となって相手に襲い掛かった。


「んなあ!? 自身を焼き付けてそのうえで攻撃だと!?」


 呆気な表情を浮かべる。

 炎の高波が目の前まで迫るとき、ぼくはこういった。


「魔法はイメージだ。自身を焦がさないほどの加減をするのは当たり前だ」

「クソッ! 準決勝まで取っておくつもりだったのに…奥義≪蜘蛛たちの巣窟(スパイダーズネット)≫!」


 教室の床や壁、天井を覆いつくすほどの蜘蛛の糸が張り巡らされた。膝までつかる糸の根が伸びる。一歩でも手や足に絡まると身動きが取れなくなるほどの弾力性と粘着力がある。


 ≪炎の波(ファイア)≫が≪蜘蛛たちの巣窟(スパイダーズネット)≫に絡まれ、威力が失っていく。

 アニーに届く前に沈黙してしまった。


「はぁはぁ、あぶなかったー」


 冷や汗をかき、両足を開け、腰を曲げ、体を前に突き出した。顔からにじみ出る汗を拭きとりながら次の対策を考えていた。


 感じてはいる。今のでかなり魔力が減ったことに。次の<攻撃>で仕留められなかったとき、アニーは敗北するだろう。


「次こそ、あなたの負けよ――」


(ルアは確実に足を止められ身動きは取れないはず。足が動かなければ逃げることはできない。もし隠し玉があっても、私の魔法なら余裕で突破できる。炎なんて弱い。私の糸は普通の糸じゃない)


 とアニーはルアの戦況状を調べていた。

 大きく息を吸い込み、ありったけの魔力を糸に流し込む。


「≪螺旋糸(スマッシュストリングス)≫」


 大きな口を開け放った。糸はとてつもなく大きくそして太い。身体の芯まで捨てるほどの勢いで飛び出し、そして渦を巻くようにして回転している。


 それは≪ドリルスマッシャー≫に似ている。

 形状は違うが相手に向けて放つあたり似ていた。


 空を切る。糸というよりも丸太に近い。

 丸太が急回転して襲ってきている。


(くっ…≪炎の波≫では防ぎきれないし…≪神の手≫だと足が埋まっているから勢いを出せないし…だからといって鍵を使うのも卑怯だ。あるのは一点集中して防ぐ魔法)


 ハッと思い出す。

 クロナが使っていた黒い金属の壁を。たしか、≪ドリルスマッシャー≫を止めていた。あれを強化すれば、防げるかもしれない。


「閃きだけど…≪赤き城壁(レッドプリズン)≫」


 赤く煮え立つ灼熱の炎に包まれた城壁が展開した。一点集中。そのお言葉を胸に城のサイズを極端に小さくし、自分の胴体ほどの大きさに縮める。


「なにをする…!?」


 それを丸太並みの糸を直撃する位置に配置させる。


 進化、≪小さき赤城壁(リトルレッドプリズン)≫。


 ガキンといって、丸太ほどの糸が衝突した。

 丸太の威力に押されるかのように城壁にひびが入る。


「うおおおおおおおおお!!」


 と声を上げ、魔力を一点集中して城壁のガードを固める。


「うわあああああああ!!」


 アニーも魔力を流し込み、威力をそのまま維持する。


 両者とも激しいぶつかり合う。

 そして、旗が上がった。


「勝者 ルア選手!」


 アニーがふらつき、ばたりと倒れたのはすぐだった。

 アニーの魔力が付き、丸太に化けた糸は形を失い、消滅した。


 城壁はヒビがはいったものの壊れることはなかった。


「あぶなかったー。君の分までぼくは勝つよ」


 といって、教室を後にした。

 後で合流したルシアーノから、無事に勝利したと言った。


 廊下ですれ違う時、二人の長身の男たちの視線が入った。なにやらニヤニヤと口元が笑っているように見え、思わず振り向いたが、そこには誰もいなかった。

 気のせいだと思い、ルシアーノと一緒に午後の会場へ向かった。

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