第5話

事態は5月に急速に動き出した。衣替えで何人かの生徒が、夏服を着だすようになったある日のことだった。

いつも通り教室に入ろうとすると、美波が駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

美波は笑顔ではなく、少し震えていた。教室に入ると、富田の笑い声が響いた。

私は、いじめが始まったのだと気づいた。ターゲットは高橋さんという人だった。机にはもとの茶色が見えないほど落書きがあった。彼女が座っているところに、グループの女子たちが水を頭からぶっかけた。女の子たちがキャッキャ笑っている。よく笑っていられるなと怒りがこみ上げた。

私が一歩前へ足を踏み出すと、美波は私を止めた。

「やめといたほうがいいよ。絶対負ける。」私は美波に笑いかけ、雑巾を手に取った。自分の近くにこぼれていた水を雑巾で拭き取ることを始めた。

「おい!何してんだよ!!」

いじめの主犯である子が叫んだ。

「助けてるんだったら、あんたも同じ目にあうよ。」

また別の子が言った。富田や橘も睨みつけてくる。

「別に。自分のところが濡れていたから拭いてるだけ。」

そう言うと、全員が黙った。富田達は自分達の席に戻ってまた喋りはじめた。男子達もぞろぞろと次の授業の準備を始める。

高橋さんは、今にも泣きそうな表情をしていた。美波と私は気になって仕方がなかった。

「……多分、ハルは目をつけられてない。」

美波が耳打ちした。

「……何が原因か探れる?」

「もちろん。ハル、絶対このいじめ無くそうね。」

強い決意の目だった。私も彼女に答えるようにうなづき返した。

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学校の死神 美雪綾香 @miyukiryoka309

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