9魔王と勇者の戦いについて聞きました

 食事を終えたカナデたちは、旅に必要なものを店でそろえて、すぐにこの場を離れることになった。


「自己紹介しか聞いていないけど、そもそも、魔王討伐というからには、魔王の説明の一つでもしてもらいたかったんだけど。」


 ぶつぶつ言いながらも、メンバーに置いて行かれないように必死で歩くカナデに対して、ユーリも同様のことを思っていたようだ。


「オレも少しは魔王について聞けるかと思ったんだが。」


 二人は昼食でのことを思い出していた。




「それでは、自己紹介も終えたことですし、勇者間たちはすぐにでも首都「ネームオールドハウス」に向かってもらいます。」


 食事を終えて、カナデとユーリは、司祭のその言葉に驚きを隠せなかった。司祭が今後の話をしてくれると言い出したのだ。言い出したのに、話さずじまいとはどういうことだろうか。


「ええと、事情が変わりまして。先ほど、勇者様が聖女様と話をされている間に、女神さまからお告げがありまして、メンバーが集まりしだい、すぐに首都へ向かえということです。」


 女神さまのお告げは絶対なんですよね、と苦笑している司祭にカナデは一発殴ってやろうかと思ったが、それよりも先にユーリが司祭の頭をゴチンと殴っていた。



「な、なにをするんですか。いくら勇者様でも許しがたい行為ですよ。」


「殴りたくもなるだろ。こっちは話を聞けると思って期待していたんだ。それで、首都に行って何をするんだ。」


 魔王について聞くことをあきらめたユーリは、代わりに司祭に首都へ向かう目的を質問した。その質問に答えたのは、イザベラだった。



「首都へ向かい、女王「エリザベス様」と謁見します。魔王討伐のメンバーとして、一度挨拶をしておかなければなりません。この国を治める方に会う必要性はわかってもらえると思いますが。」


「挨拶したら、すぐにでも魔王が潜伏しているところまで転移装置でひとっとび。すぐにでも魔王討伐がはじまるよお。」


 エミリアがイザベラの言葉をついで説明する。



「そんな感じです。ですが、このお二人についていけば何の問題もありません。お二人にはすでにいろいろ今回のことについて話してありますので。」







「そういうわけで、私たちは今、首都である「ネームオールドハウス」に向かっているわけですが。いや、一つ言ってもいいかな。」


「うん。お前の言いたいことは、さすがにオレでもわかる。イザベラ、聞いてもいいか。この国の名前や地名を聞いて、予想していた首都名ではなかったんだが、何か理由はあるのか。なんで、「ネームオールドハウス」が首都になったのか、とか。」


 カナデとユーリは回想から戻り、一つの疑問が頭に浮かんだ。この国がもといた世界とよく似ている地名なのは、創造主に訴えればいい。しかし、首都が「ネームオールドハウス」ということについて尋ねずにはいられなかったのだ。ここまで地名が似ている、もはやバクられているとさえいえるこの国ならば、首都も同じように文字をいじっているだけのはずである。そうではないことが引っかかったからこその質問だ。


「ああ、そのことですか。勇者様は、異世界という場所から来たのでしたよね。私たちは歴史の授業で学ぶことなのですが、知らなくても無理はないということでしょうか。」


 ふうむ、と考え込むようにしているイザベラだが、ユーリが発しているハーレムオーラに充てられているのだろう。素直に答えてくれた。



「わかりました。説明していきましょう。どうせ、まだまだ、首都まで先が長いですし。退屈しのぎにはなりそうですね。その代わり、私もその異世界とやらのことを聞いてもいいでしょうか。」




 こうして、首都「ネームオールドハウス」に向かう道中、カナデとユーリは、この国の首都が「ネームオールドハウス」となった経緯を聞くこととなった。







「この国「ジャポン」では、魔王率いる魔族がたびたび攻めこんできていました。そのたびに、我々の先祖は勇者と聖女を私たちとは別の世界に住む住人、いわゆる異世界から呼んでいました。異世界から来た彼ら「勇者」「聖女」と「剣士」「魔法使い」の4人で、魔王率いる魔族を倒していたのです。魔王は何度倒しても、よみがえってくるので、魔王が復活するたびに異世界から勇者たちを呼び寄せていました。魔王が復活するための時間は約100年。今がちょうど前回の魔王を倒してから100年というわけです。」


「戦いといっても、魔王と4人が戦って、わたしたちが勝てば、それで終わり。1対4で戦うわけだから、こちらに有利だった。そもそも、今まで一度もわたしたちは負けたことがない。今回も楽勝だね。」


 イザベラとエミリアがかわるがわるに説明する。



「魔王とこの国の歴史はわかったけど、それと首都が「ネームオールドハウス」になった理由は何か関係があるのか。どうにも話が見えてこないんだが。」


 ユーリが疑問を投げかけると、すぐにイザベラが対応する。質問されたことがうれしいとらしく、顔を紅潮させて、説明する。



「そうですね。ええと、初めはキョウトウという場所がこの国の中心で、そこからトウキョに代わり、今のネームオールドハウスに首都は代わってきました。代わった理由は戦争などの争いが多いのですが、それでも最終的にネームオールドハウスに決まった理由は一つでした。」


『この国の中心に位置するから』



「なるほど、わかりやすすぎる説明だな。確かにネームオールドハウスはこの国の中心に位置する場所にあるということは理解できる。」


「わかったような、わからないような気がするけど、別にどうでもよくなってきた。そんなことをいちいちきにしていたら、身が持たないから、もう気にしないことにする。ああ、そうそう、根本的な質問があるけど、いいかな。」



「理解していただいて光栄です。勇者様。他に何か聞きたいことがあれば、何でも聞いてください。なんでもお答えします。」


「おいおい。私は無視ですか。」


 どうやら、カナデの話は徹底的に無視することに決めたイザベラのようで、彼女の耳には勇者の言葉しか耳に入らないようだ。



「そうだな。勇者たちは異世界から来ると言っていたが、今までの勇者たちは魔王討伐後、どうしたんだ。元の世界に帰ったのか、そのままこの世界に残ったのか。」



「ああ、ご自分の魔王討伐後のことが気になるのですね。大抵の魔王は元いた世界に戻りますが、たまにこの世界に残るものもいます。残ったものは勇者として、手厚くもてなされますから、快適な生活を送ることができます。結婚も可能で、勇者に限っては一夫多妻制で、たくさんの女性が勇者様の妻になろうと押し寄せています。」


「でも、なぜだか、子供は一人もいないんだよねえ。やっぱり、異世界とは血が合わないのかな。」


「一夫多妻制……。」



 ユーリはその言葉を聞いた瞬間に、顔がにやけだした。おおかた、異世界転移、転生物のお約束事を思い出して、それが自分にも起こることを想像しているのだろう。反対にカナデはまたもや自分の発言が無視されて大いに苛立っていた。


「こほん。勇者のその後はわかった。もう一つ質問してもいいか。魔族とか言っていたが、それはいったい……。」




「ドラゴンだー。それに魔王の手先が村に襲い掛かっている。早く隣の村に避難するんだ。」


「キャー。」



話をしていると、ある村にたどりついた。そして、のんきに話している場合ではなくなってしまった。

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