8改めてメンバー全員で自己紹介をしました

「うわあ、どこの名古屋飯だよこれ。完全にこの世界観から浮いているよね。この世界の創造主は本当にバカだな。」


「マジかよ。ありえねえ。ここは普通に異世界定番のシンプルな肉の焼いたものと、スープ、パンでいいだろ。ていうか、オレが来てから今朝まではそうだったんだぞ。それなのに、ここにきてこれはない。」



 カナデ、ユーリ、ソフィアの三人は、司祭が昼食を準備していた場所に到着した。ユーリは事前にどこで食事をとるのか聞いていたようで、迷いなく目的地までたどり着くことができた。そこは、教会から少し離れた場所にある小さな古民家だった。そこは、食事を提供している場所のようで、机とイスがいくつか並べられていた。しかし、現在は、魔王討伐メンバーが貸し切りにしているようで、カナデたち三人の他に、エミリア、イザベラ、司祭の六人しかいなかった。


 昼時ということもあり、机の上には昼食が置かれていた。その中身が大いに問題だった。


「不満なのでしょうか、勇者様。この料理は首都「ネームオールドハウス」の名物NOH(ノーフ)飯」と呼ばれるもので、大変おいしいのですが。お気に召さないのなら、別のものを取り寄せますが。」


 司祭がユーリの顔色を窺うように顔を覗き込む。心配そうな顔は本物で、嫌だと言えば、すぐにでも別の料理を取り寄せそうである。さすがにそこまでさせるわけにいかないと思ったユーリは慌てて弁解する。顔が引きつっていたが、何とか言葉を絞り出すことに成功する。


「いや、オレのいた世界にも、同じような料理があったのを思い出してな。その料理にあまりにもよく似ていたので、つい驚いてしまっただけだ。せっかく準備してくれた料理だ。有り難くいただくとしよう。」


 ユーリの言葉が食事開始の合図となったかのように、六人は自分の席の前に置かれた料理を食べ始めた。



「うん。これは完全に味噌だね。いや、異世界に来てまで味噌を味わうなんて思いもしなかった。ねえ、そう思うでしょう。ゆ、う、しゃ、さま。」


「……。」


「いや、突然黙られても。もしかして、あんたって、味噌が嫌いな、の。」


「勇者様。やはり、お口に会いませんでしたか。それなら、私が今すぐにでも、勇者様のお口に合うものを買ってきます。」


 目の前に置かれていた料理は、カナデたちがもといた世界では「名古屋飯」と呼ばれていたものだった。味噌を使った料理が並んでいた。もといた世界では、味噌カツに味噌煮込みうどん、味噌おでんと呼ばれていた料理そっくりのものが出ていた。カナデは愛知県出身だったので、味噌には親しみがあり、おいしくいただいていたのだが、ユーリにはなじみのないものらしかった。それとも、赤味噌が気に入らなったのだろうか。


「大丈夫だ。心配してくれてありがとう。ええと。」


 そこで、ここに居るメンバー同士が、お互いの自己紹介がまだなことを思い出したのだろう。司祭が急いで、うどんらしき麺を飲み込むと、自己紹介をしようと言い出した。


「申し訳ありません。私としたことが。魔王討伐メンバーが集まったら、それで安心して、自己紹介を怠ってしまいました。ですので、今からでも、それぞれの自己紹介をお願いしたいと思います。」


 そして、最初に言い出したからという理由で、司祭から自己紹介が始まった。





「私の名前はローエンと申します。ここ「ギーフ県」の教会管理を任されております。この度は、「ハイマウンテン」支部にお越しいただきありがとうございます。魔王討伐のメンバーがこちらにおいでになるという、女神さまからのお告げをいただきまして、私はここに居る次第であります。何か、わからないことがあれば、何なりとお聞きください。」



「突っ込みどころ満載で、どこから突っ込めばいいか不明だわ。」


 カナデの言葉は皆に華麗に無視されて、次の人物が紹介を始める。



「では、次は私が。私の名前はイザベラ。魔王討伐メンバーに選ばれるまでは、キョウトウ」で宮廷の騎士をしていました。魔王討伐では「剣士」としての役割をいただいております。」


 イザベラは食事中にも関わらず、席を立ち、自己紹介を終えると深々と皆に一礼してまた席に着く。続いて、エミリアが席を立つ。


「じゃあ、順番的に次はわたしかな。わたしはエミリア。討伐メンバーに選ばれるまでは、「ノースランド地方」で魔女として、薬を作っていました。ということで、わたしの今回の役割は「魔法使い」。よろしく頼むよ。勇者様。」


 ウインクをユーリに投げつけて、エミリアもまた自己紹介を終えて席に着く。突然のウインクにユーリはしばらく固まっていた。


「いたっ。」


「どうせ、お前に愛想がいいのは、異世界のハーレム効果のおかげだ。このクズ野郎。」


 カナデはユーリの真正面に座っていたので、机の下の正面の足をおもいきり踏みつけてやった。ただし、カナデの靴はヒールではなく、ただのスニーカーなので、大した威力にはならなかったが、正気に返るのには十分な威力を持っていた。



「では、つぎは私の番ですね。私はソフィア。「聖フローラ共和国」から来ました。今回は魔王討伐のメンバーに選ばれたことを心から誇りに思っております。どうかよろしくお願いします。」


 いつの間にか自己紹介の際は席を立つことになったようだ。ソフィアも例外ではなかった。立ち振る舞い一つとっても、上品さがにじみ出ていて、思わずほうっとため息をつきたくなるほどの所作だった。それでではない。出された料理も箸を使って食べる姿は違和感を呼ぶが、それでも美しかった。


「ふふふふ。では、最期はやはりオレだな。オレの名前はユーリ。皆も存じていると思うが、勇者として、この世界にやってきた。女神さまの依頼によってここに居る。皆の者、突然、異世界から来た人間を信用してくれとは言わないが、これから精一杯皆の信頼を勝ち取っていこうと思う。魔王を一緒に倒して、平和な世界を築いていこうではないか。」



 自信満々に自分を紹介するユーリになぜか、カナデ以外のメンバーは、うっとりと聞き入っている。イザベラとエミリアに至っては、ユーリの声だけで顔を赤くして、動機が激しくなっていた。


「これで、全員の紹介は終わったな。では、せっかく出された料理をたべつつ、今後の計画について話していこう。」



「いやいやいや、一人忘れているよね。わざとなの。あんな痛い演説した後で居心地悪いけど、私の紹介もさせてよね。」


 無理やり話しに入っていくカナデだが、ユーリに邪魔されてしまう。しまいには、ユーリがカナデの紹介を勝手にしてしまった。


「こいつは、オレの従者のカナデだ。ただのカナデ。オレを一人で異世界に行かせるのを不安に思った女神さまの好意によって、こいつはオレとともにこの世界にやってきた。まあ、いわゆる雑用係だ。お前たちも好きに扱っていい。」



 これで説明は終わりだと言わんばかりの態度にカナデは怒りが抑えられない。今すぐにも机の上の料理をユーリの顔面にぶつけたかったが、それをしなかった自分をほめたいくらいだった。


「ねえ、雑用ならいらないよね。だって、これからはわたしたち一緒に魔王を倒すために旅をするんだよね。だったら、勇者様のお世話はわたしたちがするよ。ていうことで、カナデだって。もうあんたは用済みだから。」



 まるで、カナデが恋敵のような目でみて、エミリアは低い声を出す。いつの間にか手には杖らしきものを携えている。臨戦態勢をとっているが、カナデには何も対応できるものはない。


 一触即発の雰囲気を止めたのは、ソフィアだった。優しくエミリアの手を包み込んで、諭すように話し出す。


「そんなひどいことを言ってはダメよ。カナデさんだって、役割が与えられてこの世界に来ているの。それを奪ってはいけないでしょう。それとも、あなたは女神さまの言うことに反対するつもりなのかしら。」


「ソフィアさんの言う通りです。エミリア、お前らしくない。突然そんなに怒りだして、いったいどうしたのですか。」



 こうして、ぎすぎすした感じになったが、互いの素性を知ることができた六人はしばらく無言で、NOH飯を食べることになった。

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