超訳:鶴の恩返し(feat.ヤクザ)

ちびまるフォイ

鶴の怨返し

それは雪の深い日のことでした。


おじいさんが雪の山道を歩いていると、

ドスのささった鶴が倒れていました。


「おお、かわいそうに。ひどいことをする」


優しいおじいさんは鶴からドスを抜いてあげました。


そして、そっと手当てしてあげると鶴は飛び去ってしまいました。


その夜のことです。



ドンドン!!



ドンドンドン!!!



「開けんかい!! コラ! いるのはわかっとるんじゃボケェ!!」


「な、なんじゃ!?」


「カスコラ! はよ出てこいやコラァ! おいカス!!」


「な、なんですか。誰ですか」


戸をあけると肌が白い、美しいヤクザが立っていました。


「やっとカスが来よったかコラ」


「なにか用ですか……?」


「おう、恩返ししに来たに決まってんだろうが。

 さっさと開けぇやボケコラ、ぶち殺すぞ」


「結構です」


「こっちにも通さなきゃいけねえ道理ってのがあんだよ」


「いいから帰ってください~~!」


「てめぇこっちがわざわざこの雪の中を歩いて来たってのに、

 なにも恩返しさせずに帰れって? おう?

 こっちが帰るか帰らないかを決めるんじゃコラ!!」


「なんなのこれもう……」


おじいさんはこれ以上の抵抗はやり取りを長くするだけで

早く帰らせることはできないと察しておとなしく従うことに。


こういうところの適応力というか、我慢強さは昔ながらの日本人らしさだった。


「ええか、こっちのシマに入ったらどうなるかわかっとるな?」


「シマって?」


「ふすまに決まっとるじゃろがい!! ガタガタ抜かしてんじゃねぇぞ!」


「なんで勝手に人の家来て、そのうえ仕切るんですかぁ!」


「サプライズじゃコラ」

「ええ……」


「ええな、開けぇ言うまで開けんじゃねぇぞ」


「サプライズなんですよね……?」


「馬鹿じゃねぇかこの野郎! さっきから同じこと言わせやがってよォ!!

 かかしじゃねぇんだからてめぇの頭で考えやがれカス!!!」


「もう帰ってくださぃ!」


「義理人情って言ってんだろぉ!! おい!!」


ふすまをしめると障子の向こう側でなにやら音がし始めた。


何をしているのか気になるということよりも、

人の家で勝手になにをしてくれているんだという気持ちが勝っていた。


なにか工事をしているような爆音がひびいいていたが静かになった。


「あの、もう終わりましたか? 終わったら帰ってほしいんじゃが……」


「……」


「あのぅ……?」


「……」


「入っちゃいますよ……?」


「……」


怒号で返事されるかとびくびくしていたおじいさんだったが、

さすがに反応がなかったのでおそるおそる障子に寄っていく。


「大丈夫ですかぁ? 開けますよぉ?」


ふすまを開けると、そこには鶴の羽で織られた美しい着物ができあがっていました。

機織りの横には1通の書き置きが残されていました。



『 おじいさんへ



  お別れの言葉を言えなくてごめんなさい。



  顔を見てしまうとはずかしくて乱暴な言葉が出てしまうので


  こうしてお手紙でお伝えすることをお許しください。



  私はあのとき抜いてもらったドスです。



  あなたに助けられたご恩で着物を作りました。


  これをどうか売って裕福に暮らしてください 』




「いや、鶴の羽どこから持ってきたんじゃ……」


おじいさんは出来上がった着物を見て思ったが、

深くは考えないように、できるだけでかかわらないように着物をすぐに売っぱらった。


着物はもはや着物の価格帯をはるかに凌駕した金額で売れて、

おじいさんはその後も幸せに裕福に暮らしました。


なんやかんやで幸せな生活を手に入れたおじいさんは、

当時の恐怖も薄らいできた頃に感謝したいと思い始めました。


「はぁ、また来てくれないかなぁ。今度はちゃんとお礼を言わなくちゃなぁ」



ドンドン!



「こ、この戸を叩く音は!!」


おじいさんは嬉しくなって戸を開けました。

そこにはヤクザのような顔つきで待っていました。



「着物に麻薬を仕込んで密売していたのはお前だな?

 タケトリノ翁、お前を逮捕する」




「なんやコラボケェ!! 証拠はあるんかい証拠は!!」



おじいさんの顔は昔の頃の悪人の顔に変わってしまいました。

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