第7話 酒に関する報告

This Message From NIRASAKI N-TOKYO JAPAN

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 グッモーニン、平成。昨日の夜、ちょっと飲みすぎて今、しんどい。アルコール分解錠剤を飲んだけど、あまり良くはならないな。この錠剤はドクの家の救急箱にあったけど、もしかしたら有効期限を過ぎているかもしれない。怖いので、見ないことにした。

 アルコールに関しては、令和における日本の一つの方針として、酒類は純粋な嗜好品である、という方向性が確立されている。タバコはほとんど絶滅したけど、アルコールも今ではなかなか、飲む機会もない。

 薬剤が忌避されたように、酒類も忌避されてしまったんだ。それは「嫌酒主義」とも呼ばれていて、なんだか、令和の人間は窮屈に生きているな、と、平成の人は思うかもしれない。でも僕からすれば当たり前というか、不自然では全然ない。大量の薬物も、タバコも酒も、みんな健康には悪いし、健康に悪いということは、そっくりそのまま国家財政を圧迫することになる。驚くべきことに、令和を過ごした日本人は、その点では愛国心を取り戻したらしい。

 自動車での飲酒運転は、自動運転車の普及で何の問題もなくなった。アルコール依存症は、強烈な薬が開発され、それが依存症を解消する一方で、月に一回の投薬でアルコールを摂取しても酔うことがなくなる、というデタラメな薬さえも発売された。この薬は、アルコールを体内で即座に分解し、無毒化するという謳い文句だ。発売から今の僕の時間で四年ほどが過ぎたが、健康被害は出ていない。

 そこまでしてアルコールを口にする理由を解明したりすればいいのに、科学者は何をやっているんだろう?

 酒造メーカーはまだ細々と残っているし、輸入されるウイスキーやブランデー、ワインも、特定の場所では売っている。酒屋、と呼ばれているけど、極めて珍しいショップではある。酒類は一定のアルコール度数を超えると、売るにも仕入れるのにも、運ぶことにさえも、制限が発生する。それくらい日本という国は、アルコールを危険視していたわけで、そのあたりの法整備が進んだ頃は、非難轟々だったと聞く。しかし数年でそれも消えた。

 平成の人は気にすると思うけど、ノンアルコール飲料、っていうのがあったよね。ビールも梅酒も、みんなノンアルコールになっていたはずだ。令和の時代にもあることはあるんだけど、もう、ノンアルコール、という表現は使わない。国が規制した。

 だって、よく考えてみてよ。ノンアルコール? アルコール度数がゼロの飲み物って、つまりは、ジュース、清涼飲料水と、どう違うんだ? 酒造会社は一時期、ノンアルコール飲料を相当、突き詰めて開発、製造したけど、これはほとんど飲料メーカーに近づいただけだった。今は、その手の飲み物は「ニアルコール」と酒造会社は呼んでいるけど、この辺りは、もはや意味が飲み込みづらい表現だ。ニアリー・アルコール、なんだろうけど。

 そんな社会で、僕がどうして今、二日酔いに苦しんでいるかといえば、昨日はドクの妹の誕生日だった。名前は伏せる。彼女もドク同様にいい歳なんだけど、彼女の住まいは長野県にある。山の中で、そこで家族とひっそりと暮らしている。何をして暮らしているかは、びっくりすることに、ワイナリーを経営している。本当にびっくりするのは、それがぶどうジュースの製造会社に偽装されていることだ。これは露見すると、とんでもない事件になる。

 それが露見しない理由はただ一つ、長野県の山の中なんて、辺境の中の辺境、タトゥイーンも目じゃない辺境で、無関係な人間は、少しも足を運ばない。人が来なければ、露見もしない。

 ごく限られた相手にだけワインを売っていて、これが密造酒だけあって、世の中のアルコールなんて比べ物にならない味なんだ。僕の手持ちのお金じゃ、瓶一本で電子マネーの貯蓄が二桁とか一桁とかになってしまう。

 というわけで、僕はドクの友人という立場を利用して、ドクの家で行われる彼の妹の誕生日パーテーに、まんまと忍び込んだ。誕生日パーティーをドクの家でやる理由はただ一つ、彼女の生活する土地では、ピザもフライドチキンも、肝心のバースデーケーキも、運んでくるだけでとんでもない料金になるし、味も悪い。それなら街にやってきて一晩中、騒ごうか、となるのも必定、ということ。

 で、僕は遠慮なくワインをガブガブ飲んで、この有様だ。ドクの妹は今朝、ピンピンしてドクと一緒に空港へ行ってしまった。ヘリコプターで帰るとのこと。

 うん、どうやら薬はしっかり聞いてきたらしい、具合が良くなってきた。

 ドクには内緒だけど、パーティーの途中で、懐に忍ばしていたガラス瓶に、グラス二杯分ほどのワインを、くすねておいた。今、それを飲み干したくて、仕方がない。

 この貴重なワインは、何かの時に飲むべきだというのはわかる。例えば女の子との秘密のデートの時とか。

 うーん、そんな女の子もいないし、このメッセージを送ったら、ちょっと飲んでみよう。

 いや、舐めるくらいかな。

 大事にしよう。大事に。





This Message is END.

Reply - Impossible.

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P.S. Girl Friend is Nothing. Sit.

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