親子 第三章

 ふたりは六本木ビルにほうちやくした。

 真夜中のビルはいんしんとしていた。

 爆走してきた250GT Type S を六本木通りに急停車させると父親は息子をきようどうしてゆく。六本木ビル正面玄関までの階段のまえに従業員たちがさんそうしていた。車椅子に搭乗しているものやまつづえを掌握しているものやステッキをもった視覚しようがいしやふんうんと議論している。社長に勘付くと全員でかんとして〈おつかれさまです社長〉と挨拶した。専務がする。〈六本木森ビル正面玄関およびけやき坂ビル一階入口は完全にぼうぎよしております相手もビルサイドへのちんにゆうは不可能です武装といっても会社の事務用品くらいしかありませんでしたが全身全霊でたたかいます〉と。社長はとしていう。〈ありがとうみんなおれとひろはこれからビルサイド屋上へむかうまもなく警察がビルサイドへの襲撃をはじめるはずだそれをようそく阻止してくれこれが我我最後の仕事だ〉と。しようがいしやたちは各各に鯨ときこえをあげてゆく。〈最後の仕事だ〉〈警察なんてぶっころせ〉〈政府の番犬をやっちまえ〉〈戦争だ〉と。きつきゆうじよとした社長はとうしなれていう。〈すまないみんなありがとう〉と。

 ふたりはばくしんした。

 六本木通りからの階段をとうはんしてゆきメトロハットをけみして六本木森ビルサイド二階へとってゆく。エレベーターをぎようぼうしながらふたりは沈黙していた。息子が誕生してからこれほど会話した経験はなかった。ひつきよう今日こそは息子とすべてについて物語りあわなければならなかった。といえども言葉がでてこない。やがてエレベーターが二階にほうちやくした。ふたりでがら張りの室内に搭乗する。エレベーターが上昇しはじめてやくやく父親はしゃべりはじめた。〈おまえはカラバッジョがすきだったな〉と。〈カラバッジョもひとをころしたことがあったよな〉と。〈テニスでまけて相手をさしたんだっけ〉と。〈それから世界を放浪して聖書の世界をえがきつづけた〉と。〈最後には聖なる画家とよばれたそうだな〉と。息子はとうするかたちで両手をくんで沈黙している。しゆうしようろうばいしながら父親はつづけた。〈おまえも立派な画家になるんだぞ〉と。〈もし駄目だとしてもゆめをおうんだ〉と。〈それがとうさんとかあさんのゆめだったからな〉と。〈ひとりで生きていけるかい〉と。父親ががら張りの壁面からけんらんごうなる夜景をはるかしていると息子がやくやくこたえた。〈わかりません〉と。

 六本木ビルまえは緊張していた。

 社長のしつげきれいに奮起したものの警察が相手となればこくそくうつぼつたるところがある。といえども警察がけんれいおうさつすることもない。やがてサイレンもめかさずに数台のパトロールカーが六本木通りにほうちやくして警察が肉薄してきた。警察たちも〈なんだこいつら〉〈なにがおこってるんだ〉としようじゆしあいじゆつてきそくいんしている。るいじやくなるしようがいしやたちが一致団結して武装しているわけだ。現場はこんとんとする。最後にほうちやくしたパトロールカーから銀髪の壮年が現前し警察手帳を掲揚した。いわく〈こちら警視庁捜査一課である現在六本木ビルに女性殺害事件の犯人および拳銃を携帯した殺人犯がひつそくしているとの情報提供があったをとおさない場合公務執行ぼうがいにて全員逮捕させてもらう〉と。たいした車椅子の専務がほうこうする。〈我我は大家社長の指示によりくそったれのこつ権力と最後までたたかう所存でございます貴あなたたちこそこれじようろうぜきをなさるのであればみなごろしに致します〉と。従業員たちの緊張が断絶されてふたたび鯨ときこえがあがる。〈政府を転覆せよ〉〈革命のときがきた〉と。くだんの銀髪の壮年が巨漢にしようじゆする。〈けちらせ〉と。巨漢の警官が指揮をとって警察側は一致団結した。

 衝突は勃発した。

 金属製やゴム製の警棒をていせいした警察の一塊がへきとうの専務を片腕でひんせきせんとする。〈じんけんじゆうりんだ〉とほうこうした統合失調症の女性が会社のパソコンをふりまわして一塊を雲散霧消させる。奮起した専務が車椅子をばくしんさせて警察たちをけちらしてゆくと背後から社員全員が警察への襲撃をはじめた。そうびようの社員がハサミで警察のとうちようちやくする。鬱病の社員がカッターナイフを片手に若手警察を威嚇している。トランスジェンダーの女性は会社の椅子をふちまわして警察をぶちのめしてゆく。全盲の社員が警察の頭部をわしづかみにしてがらの灰皿でなぐっている。サイコパスの男性がプラスドライバーで警察のにくたいてつけつしている。りゆうじようはくのなか銀髪の壮年がちようの警察に命令する。〈警察ヘリをだせおれがのる〉と。ちようの警察が〈警視正相手は拳銃を所持してるんですよ〉というと〈おれも拳銃をもってのりこむ超法規的措置としろ〉とこたえる。銀髪の捜査一課長がパトロールカーでくりげたことに勘付かずしようがいしやたちは警察ととうじようしている。しようがいしやが絶叫する。

しようがいしやをなめるなよ〉と。

〈おれたちのたましいは最強だ〉と。

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