親友 第二章

 しのはら清一はおなじ中学だった。

 それぞれ相違するゆめをもっていた。

 へんなる長岡市内の公立中学校の一室にて進路授業の一環として憂鬱うつぼつたる生徒たちが将来の〈ゆめ〉を発表させられていた。熱血漢らしい教師はいこよかたるこうふんでひとりびとりそうしてゆめをれきさせて首肯している。教師が〈しのはら〉というと例外的にうつゆうとしていた生徒たちがしようりつした生徒を衆人環視する。生徒は断言する。〈ぼくは小説家になりたいです〉と。げきせきとしていた生徒たちはそれぞれの隣席者としようじゆしあう。いわく〈しのはらって長岡高校いくんだろ〉〈長岡高校の偏差値だと東大とかいけんの〉〈までいかなくても小説家にはなれるんじゃねえの〉うんぬんと。熱血漢の教師がてい生徒を名指ししても生徒たちは私語をしつづける。教師は生徒たちに頓着もせずにいう。〈内藤〉と。指名された生徒はかんじよとしててきちよくしていう。〈ぼくは画家になりたいです〉と。まで小説家志望の生徒のこうせついんしんとしていた生徒たちはかんとして微笑しながら画家志望の生徒について私語する。いわく〈画家になるまえに死にそうだな〉〈今日こそ死ぬんじゃねえの〉〈死んでから有名になるパターンもあるじゃん〉うんぬんと。

 実際に死んでもおかしくない。

 じんぜんたる授業を完遂すると小説家志望の生徒はどんなる友人ふたりとともに画家志望の生徒をきようどうして長岡駅前大手通の裏路地にしようりつするはいきよのマンションをとうはんしていった。三階にほうちやくすると〈遺書もってきたな〉と小説家志望の生徒がいう。画家志望の生徒は〈遺書〉を譲渡する。ろんなる友人がいう。〈大丈夫七階じようからとびおりなければ確実には死なないから〉と。〈だから実験なの〉と。〈六階までで死ななけりゃ必要ないの〉と。片方の友人がいう。〈昨日二階からとびおりてもなんもしなかったでしょ〉と。〈多分三階も大丈夫だって〉と。三人にそうされて画家志望の生徒は三階の廊下のりをわしづかみにする。いわく〈ほんとうに死んだらとうさんとかあさんに遺書わたしてね〉と。しゆんじゆんしていると小説家志望の生徒が背後からがんがらめにして三階からほうてきした。画家志望の生徒は一階の花壇の跡地らしい土壌に墜落する。ちようさいぼうのふたりはこうしようし小説家志望の生徒はかんとしながら一階をはるかす。壮年のおとこたちらしいこえめいた。いわく〈なにやってがあやこら〉と。三人の生徒はくりげていった。

 画家志望の生徒は無事だった。

 造次てんぱいもなく一階の花壇にさんそうしたおとなたちのこうによりないに立川そうごう病院へと搬送され軽度の捻挫とされた。じんたいそんもない。画家志望の生徒は内藤清一と自称しでんした住所にきようどうされた。しよくそうぜんたる一軒家にほうちやくすると父親と母親がきよしながら介抱しておとなたちに感謝する。おとなたちはいう。〈わたしたちはビルの解体業者でして最新型の高層ビル解体方法を公式サイトで紹介するためにはいきよのマンションの内部をビデオ撮影してたんですよ〉〈無論清一君がつきおとされたときの映像ものこってます〉〈これ多分陰湿ないじめだとおもいます弁護士に御相談なさるのであれば記録映像もおかしいたします〉と。両親のこうというよりもビル解体業者の情熱に圧倒されて家族は弁護士への相談をけつする。ビル解体業者から映像記録入りのDVD-Rを譲渡してもらい父親の会社の社長がじつこんだという弁護士に相談の予約をした。社長の紹介もあってか相談料はロハだという。

 家族は弁護士事務所へまいしんする。

 長岡駅前大手通の個人弁護士事務所の内装は質素であった。はくの相談室のソファでぎようぼうしているとVAIOのノートパソコンをていせいして弁護士がってくる。のう息子からでんされたいじめのいちいちじゆうを無口なる父親とじようぜつなる母親がれきするなか弁護士は家族にせいかくなるまなざしをこもごもにむけていた。ろうぜきのいじめの全貌がせんめいされるとテーブル上のVAIOでくだんのDVD-Rの内容を確認する。始終沈黙しているので〈この弁護士はやる気があるのか〉とじゆつてきそくいんするがんぼうで両親が様子を凝視する。しゆつこつとしててのひらでテーブルをちようちやくすると弁護士は情熱的にした。いわく〈せきてきに捻挫ですんだものの下手をすれば死んでいました刑法上自殺ほうじよか殺人未遂にあたります〉と。〈裁判でも勝てますビル解体業者さんによる映像の証拠がありますし〉と。〈家庭裁判所から審判をけみして少年院という可能性がおおきいです年齢をこうかくして少年刑務所という可能性もあります〉と。〈いじめは惡です一種の殺人未遂です闘いましょう勝ちましょう正義のために〉と。

 両親はどうこくした。

 少年は沈黙していた。

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